生徒会室にやって来たシノちゃんを見て、タカトシ君とスズちゃんが驚いた表情をした。
「どうしたの……あっ、シノちゃん、何か隠し事があるんでしょ」
「な、何故分かった!?」
「だってシノちゃん顔に出やすいから、サングラスとマスクで隠してるんでしょ?」
「そう言う事だったんですか……新手のボケかと思いましたよ」
私の説明で納得がいったのか、タカトシ君がホッと一息ついて書類整理に意識を戻した。
「それで、何を隠してるの?」
「それはだな……」
「ちょっと待ってください」
「どうした、津田?」
シノちゃんが発表するタイミングでタカトシ君が立ち上がり、そして間髪をいれずに生徒会室の扉を開いた。
「あら~?」
「……盗み聞きとは感心しないぞ、畑」
「いや~生徒が興味のある事を記事にするのが私の使命ですから。それで、何を隠してるのか教えてください。このままでは天草会長が変質者の気分を体験してるとしか記事に出来ません」
「そんな事実は無いし、そんな記事握りつぶしてやる」
シノちゃんが軽く睨む事で畑さんは一応納得して今までのメモを捨てた。
「では、いったい何を隠してるのか教えてください。記事にするかは聞いてから決めますので」
「あぁ……実は昨日、グラビアアイドルに興味は無いかと言われてな」
「それってスカウトじゃないですか」
スズちゃんが驚いた声を上げたけど、シノちゃんをスカウトするって事は、その事務所は貧乳専門なのかしら?
「私は学生だし、そっちの気は無いと断ったんだが……」
「何で無理矢理間違った解釈をしようとするんですか!」
スズちゃんがツッコミを頑張っている事に違和感を覚えた私は、ふとタカトシ君に視線を向けた。すると――
「タカトシ君は興味ないの?」
「会長の人生ですし、会長が決めるべきかと。周りがとやかく言う事でもありませんし」
――そう言って再び書類に集中してしまった。
「でもこの事務所、トリプルブッキングが所属してる事務所ですよね。結構大手ですよ」
「そうなのか。だがやはり、私は生徒会長だからな! 頻繁に休む事になったら大変だから」
「さすがに新人からそんなに忙しいなんてあり得ませんよ。最初の頃は営業が主だと思いますよ」
「枕営業?」
「上手い事言ったつもりか?」
私のボケにスズちゃんがツッコミを入れる。これで終わればスズちゃんも楽だったんだろうけど、私のボケに続いてシノちゃんもボケた。
「踊るのはステージの上では無く腰の上という事か!?」
「上手い事言ったな……」
「とにかく、この事は他言無用で頼む」
シノちゃんが頭を下げたのを見て、私とスズちゃんは頷いてその要求に応える事にした。
「ぬるりぬるぬるり」
「会長、ここに口を滑らす気満々の人が」
「ちょっと話しあおうか」
口の周りにローションを塗っていた畑さんの首根っこを掴んだタカトシ君が、そのままシノちゃんの前まで畑さんを運んだ。見てないようでちゃんと見てるんだよね、タカトシ君って……
「あっ、この書類後は会長が目を通して認印を押せば終わりなんで。俺はこの後バイトですのでお先に失礼します」
「おう、ご苦労だったな」
片手を上げてシノちゃんがタカトシ君に返事をした。それにしても、これだけの量をあっさり終わらせる事が出来るタカトシ君って、やっぱり凄いんだな~。
「七条グループにスカウト出来ないかな」
「なんです急に?」
「タカトシ君を七条グループの事務担当にすれば、仕事がスムーズに進むのかなーって」
「さすがにそれは今の事務担当の人が可哀想ですよ……」
スズちゃんにツッコまれて、私はとりあえずタカトシ君をスカウトする事を断念した。
結局スカウトは断り、私は生徒会業務に専念する事にした。
「そうですか」
「会長が休みがちになったら私たちが大変でしたからね。ちょっともったいない気もしますが、私的には嬉しいです」
「シノちゃん、断った理由はそれだけ?」
タカトシと萩村は突っ込んだ事を聞いてこなかったが、アリアはやはり気になるようだった。
「学業や生徒会業務もそうだが、やはりテレビ越しだと視線を感じられないからな!」
「分かるよ!」
「分かるな……」
アリアとサムズアップをしていたら萩村にツッコまれた。そう言えば最近、タカトシのツッコミを聞いていないような気が……
「タカ兄ー! 今日トッキーとマキと遊びに行っても良い?」
「別に構わないが、それだけの為に生徒会室に来たのか?」
「あと、お小遣い前借出来ないかな? さすがにトッキーたちに奢ってもらうのは……」
「何処行くんだよ」
「カラオケ! その後ファミレスかな」
「はぁ……ほら、五千円もあれば足りるだろ」
「ありがとー! さすがタカ兄! 愛してるよ!!」
「はいはい……」
私の事には既に興味が無いのか、タカトシはコトミと話していた。
「これ、ちゃんと返すからね」
「期待しないで待ってるよ」
アルバイトをしてある程度余裕があるタカトシは、コトミに貸した五千円が返って来ない事を前提に考えているようだった。
「じゃあ、今日晩御飯いらないからね」
「あんまり無駄遣いし過ぎるなよ」
「分かってる! じゃあ会長、お邪魔しました」
片手を上げ、敬礼の形を取ったコトミが生徒会室からいなくなると、一気に静かになった気がした。
「やれやれ……お騒がせしました」
「アンタ、結局はコトミに甘いのね」
「そうかな? 時さんや八月一日さんに迷惑掛けるわけにもいかないから」
「津田! 私にもお小遣いをくれ!!」
「意味が分かりませんよ……そもそも俺より稼いでるでしょ、横島先生は」
いきなり現れて訳が分からない事を言いだした横島先生を軽くあしらって、タカトシは今日の書類に目を通し始めた。真面目なのはいいことだが、少しは私の事にも興味を持ってくれても良いんじゃないか……
学校にあの格好で来るのは逆におかしいと思うんだが……