桜才学園での生活   作:猫林13世

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攻めまくりますよ


スズのターン

 ここ最近、タカトシと二人っきりというシチュエーションが無かったせいか、いざ二人っきりになると普段以上に緊張してきてしまう。でも、タカトシの方は特に気にした様子もなくもくもくと作業を続けている。

 

「勉強じゃないわよね? 何してるの?」

 

「エッセイの手直しをな。一応完成したけど、なんか気に入らなくて……ちょっと読んでみて」

 

 

 そういって手渡されたエッセイに目を通すと、相変わらず胸打ついい話だった。だが、これでもタカトシは納得していないらしい。

 

「あんた、どこまで高みを目指すのよ」

 

「畑さんの資金源になってるのは気に入らないけど、せっかく読んでもらってるんだから、納得のいくものを作りたいじゃん」

 

「そのひたむきさ、何故妹のコトミにはないのでしょうね……」

 

 

 コトミは現在、時さんと一緒に補習を逃れるために必死に勉強している。付き合わされてる会長も、頭を抱えるくらいの問題児……その兄がこれだけ立派だと、知らない人が見れば疑いたくなるだろう。

 

「スズ?」

 

「なっ、何よ!」

 

「いや、エッセイを眺めながら固まってたから、何かあったのかと思って」

 

 

 私の目の前、ほんの数センチ先にタカトシの顔がある。私の視線は自然にタカトシの唇へ向いてしまう……

 

「(サクラさんと五十嵐先輩はタカトシの唇に触れたことがあるのよね……)」

 

「おーい……」

 

「え、エッセイに問題はないと思うけど、タカトシはどこが気に入らないの?」

 

「どこって、はっきりした場所じゃないんだけど、なんか漠然と気に入らない……一応もう一つ作ってあるんだけど、こっちも読んでくれる?」

 

 

 タカトシからもう一つのエッセイを手渡され、私は再び速読をする。じっくり読むのは発行されてからでも遅くないからね……

 

「……これ、まだ完成じゃないわよね?」

 

「そこで折り返しかな。さすがに一時間じゃ完成はしないよ」

 

「絶対に完成させなさい。これは今までで一番になるかもしれないわ」

 

「スズがそういうなら自信になるよ。それじゃあ、もうちょっと作業するけど……スズ? 眠いの?」

 

 

 タカトシが私と時計を交互に見て、私を心配するように尋ねてくる。

 

「これくらい平気よ……これでも高校二年生、十七歳なんだから」

 

「でも、そろそろ日付変わるし、明日からテストだよ? 寝不足で実力が発揮できないスズじゃないってのは分かってるけど、出来るだけコンディションを整えておいた方がいいいのは確かだよ」

 

「それじゃあ、タカトシも寝なさいよ……明日テストなのはあんたも一緒でしょ」

 

「……そうだね。俺も体調管理はしっかりしておかないと。スズに離されちゃうもんな」

 

「あんたしか私に対抗できる人間はいないからね。ネネも十分すごいけど、やっぱりライバルはあんたよ」

 

 

 全教科満点の私に対抗してくるなんて、入学した時には思ってなかったけど、今ではタカトシも全教科満点を取る実力者だ。私も少しでも油断したら一位から転落する恐怖をもってテストに臨めるようになった。

 

「それじゃあ、電気消すぞ」

 

「……一緒に寝る?」

 

 

 冗談のつもりだったけど、半分くらいは期待していた。私が暗いの怖がるって知ってるタカトシなら、もしかしたらという淡い期待……今だけは子ども扱いされても文句言わないと自信がある。

 

「スズが寝たいなら別にいいぞ。梅雨明けしたからって、油断すると風邪引くかもしれないしな。それに、他人の両親のベッドを使うって結構勇気いるもんな。俺も実は結構緊張する」

 

 

 タカトシは別の理由で私が一緒に寝たいと思ってると考えないのかしら……幼児体系だからそういった対象に見られてない? でも、タカトシは私が女だということは理解しているはずだ。

 

「あんた、同い年の女子が一緒に寝ようって言ってるのに冷静なのね」

 

「スズが俺の分まで緊張してくれてるから冷静でいられるんじゃないか? スズが平常心だったら俺が緊張してたと思うよ」

 

「緊張してるってわかってるなら断ればいいじゃない」

 

「勇気を出して誘ったってのは分かるからね。なるべく意識しないようにするから、スズは安心して寝てくれ」

 

 

 どこまでも相手のことを考えるタカトシ。彼が今一番意識している異性はサクラさんだろうけども、この瞬間だけは私だけを意識してもらいたい。

 

「(私、こんな独占欲強かったんだ……)」

 

 

 共学になるとは知っていて受験したし、同級生に男子がいることに違和感はなかった。だけど、ここまで自分が異性を意識するなんて思ってなかった。しかもその相手を独占したいとこれほど強く思うなんて……

 

「スズ? せめて布団に入るまでしがみつくのは待ってくれないか? 動きにくい……」

 

「別にいいでしょ! それより、今度のテスト、負けた方が勝った方の言うことを一つ聞くこと!」

 

「……引き分けだったら?」

 

「互いの言うことを聞けばいいでしょ!」

 

 

 いきなりの提案に面食らった感じのタカトシだったが、私の考えが分からなかったのか首をかしげながら承諾してくれた。

 一緒に寝たおかげか、翌日の私はすこぶる機嫌がよく、その気持ちはテスト最終日まで続いたのだった。

 

「やっぱり引き分けだったね」

 

「あんた、やっぱり成長したわね」

 

 

 結果は両者満点で引き分け。まぁ、私はこの結果を狙ってたので問題ないのだけど。

 

「ところで、コトミちゃんと時さんは?」

 

「二人とも平均以上だってさ。あの二人だけ勉強会延長した甲斐があったよ」

 

 

 結局補習の恐怖から解放されなかった二人は、テスト期間中もタカトシに勉強を見てもらっていたらしいのだ。妹のコトミちゃんはともかく、時さんはタカトシに頭が上がらなくなったわね。

 

「それで、スズが俺にお願いしたい事って何だったの?」

 

「……今度二人っきりで買い物に行きましょう」

 

「別にいいよ」

 

 

 勇気を振り絞って言ったことをあっさりと了承するとは……まぁ、それがタカトシらしいわね。

 

「それじゃあ、今度の日曜日に」

 

「分かった。待ち合わせ場所とかは後でメールして」

 

 

 クラスメイトに泣きつかれたタカトシは、私に軽く手を上げて空き教室へ向かっていった。多分追試の手伝いを頼まれたのでしょうね。




潜伏期間が長かった分、甘えまくらせる予定です

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