バイトの休憩時間、今日はカナさんとサクラさんと同じシフトだったので、今は三人で会話をしている。
「先ほどの女性客、タカ君の知り合いだったんですか?」
「えっ? あぁ、中学の同級生ですよ。それほど親しかったわけじゃないですが、久しぶりに会うとうれしいものですね」
「あっ、その気持ち分かります。中学時代はそれほど仲良くなかった人でも、久しぶりに会うとなんかうれしい気持ちになりますよね」
サクラさんと意見が合うと言う事は、俺の感性は正常だと言う事だな。シノ会長やアリア先輩たちと意見が合うと、どうしても自分の感性を疑ってしまうのだが……
「タカ君の中学時代に、興味があります」
「興味と言われましても……ごく普通の中学生でしたよ」
勉強と部活、それから家事に追われる日々で、特に面白い話があるわけではない。
「コトミちゃんから聞いてのですが、タカ君は中学時代、生徒会長候補だったそうじゃないですか」
「そうなんですか?」
カナさんの言葉に、サクラさんまで興味を示してきた。コトミのヤツ、後で余計な事を言った罪で説教決定だな。
「知らぬ間に推薦されてましてね……もちろん、俺の意思が介在していない立候補だったので、投票前に外れましたけど」
「でも、タカ君なら生徒会長として立派に働けたと思うんですけど」
今日は随分と食い下がるな……いつもなら、テキトーにはぐらかせば諦めてくれるのに。
「さっきの女性客も、そんなことを言ってましたね」
「彼女が勝手に推薦した張本人ですからね……推薦責任者として、内申を稼ぎたかったと後で聞かされた時は、結構本気で呆れましたけど」
「推薦責任者じゃ、内申は稼げないと思いますけど?」
「うちの学校、推薦責任者を生徒会に組み込む仕組みなんです。だから、俺が生徒会長になれば、アイツは労せずに生徒会役員のポジションを手に入れられたんですよ」
そんなことがあったからか、翌年からは推薦責任者を生徒会に組み込む制度は無くなったのだ。俺が原因なのかは定かではないが、おそらくそうなんだろうな。
「成績もよかったんですよね?」
「まぁ、今ほどではないですが」
中学では、上位にいられればいいや、って考えだったからな……今みたいに学年二十位以内に入らなければ、あることない事言い触らされたり、スズのようなライバルもいなかったからな……適当に良い点とって、適当な学校に進学出来ればいいやと考えてた時期もあった。
「そういえばタカ君は、桜才と英稜、両方に合格していたと聞きました。何故英稜ではなく桜才を選んだのでしょうか? タカ君なら、ハーレム目当てという可能性はあり得ませんし……」
「前にコトミにも言ったんですが、家から近いので、運動がてらの通学と、定期代の節約。英稜もそれほど遠いわけではありませんが、歩いていくにはちょっとキツイですからね……進学率はどちらも同じくらいでしたし、それなら歩いて通える桜才にしようと思っただけです」
「真面目に考えているんですね。私は普通に英稜に受かったからここにしただけです」
「それでもいいんじゃないですか? 高校から大学に進学するときは、それなりに考えてする人が多いでしょうけども、高校なんて考えて進学してる方が少ないですよ」
コトミがいい例だと、俺は思う。あいつが桜才を希望した理由は、家に近く制服が可愛いからだったな……何か他の理由もあった気がするが、きっと気のせいだ。そうに違いない。
「タカ君が英稜に来ていれば、間違いなく生徒会にスカウトしていましたのに」
「英稜は男子役員はいないんですか?」
「今は私とサクラっち、そしてもう一人女子役員がいるだけです」
「三人体制ですか……それは大変そうですね」
まぁ、四人体制の桜才生徒会も、それなりに忙しいけどな……主にツッコミが。
「それともう一つ聞きたいことがあるのですが」
「何でしょう?」
「タカ君は部活、やらないのですか? コトミちゃんの話では、サッカーで高校推薦が採れるくらい優秀だったと聞いていましたので」
「推薦で行ける学校は、殆どが家から通えませんでしたからね。両親が出張で不在がちでしたし、コトミ一人にしたら、三日持たずにゴミ屋敷になってたでしょうからね。そして、桜才には男子が入れる運動部は無かったですし、創るにしても、俺を除く27人の男子の内、運動部に入りたい人間が何人いたかも分かりませんでしたしね」
そもそも、アリア先輩の見解では、共学化したばかりの高校に入りたがる男子など、よほどのマゾかハーレム狙いの人間だと言っていたからな……あいにく、俺はそのどちらにも当てはまらなかったけど。
「今からでも英稜に転校して、その実力を遺憾なく発揮してくれてもいいですよ?」
「英稜に行けば、ツッコミの機会も減りそうですし、魅力的な提案ではありますが、高二の夏に転校しても今更感が半端ないですし、結局生徒会に入れられるのでしたら、部活をやる余裕なんてないでしょうしね」
そもそも、運動なら今でもしているし、部活という形にこだわる必要はないのだ。
「というか、タカトシさんが英稜に来てしまったら、桜才学園のツッコミは誰が担当するんですか? ツッコミ不在の恐怖は、一度経験すれば十分だと思うのですが……」
「それを恐れるのは、ツッコミ側の人間だけですから……」
サクラさんと悲しい共感をしたところで、休憩時間が終わった。せっかくの夏休みだというのに、バイトに明け暮れる高校生というのは、ちょっと寂しいと思われるのかもしれないが、入用だから仕方ないよな……
「さて、残り時間もぬるりと働きましょう!」
「その表現はどうかと……」
微妙にやる気の感じられないカナさんを見て、俺とサクラさんは苦笑いを浮かべたのだった。
間違いなくスズが過労で何度か体調を崩すだろうな……