桜才学園での生活   作:猫林13世

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これから夏だと言うのに……


スポーツの秋

 いよいよ秋めいてきて、我々生徒会役員も何か運動でもしようかという話題になった。

 

「運動と言われましても、時間があれば走ったりしてますけど、家事って結構体力使うんですよ」

 

「でた、主夫発言。タカトシは兎も角、私たちは日ごろから運動する機会はありませんからね」

 

 

 確かにタカトシは、運動に家事、バイトに我々へのツッコミと、日々体力を使う場面が多いからな。

 

「しかし何故いきなり運動をしようと?」

 

「スポーツの秋だし、達成感も得られるだろ? 体力もついて一石二鳥だ」

 

「じゃあ軽めのもので、ジョギングかウォーキングでもどうですか?」

 

 

 確かにそれなら、明日からでも始められるだろうな……

 

「アリア、何をホッとしているんだ?」

 

「だって、ここで自○が出ないって事は、アレで得られてるのが達成感じゃなくって虚無感だからでしょ? てっきり私だけかと思ってたから、安心したよ~」

 

「違う」

 

「うん、違う」

 

「……違うぞ?」

 

 

 私だけ即答出来なかったが、決して虚無感を覚えているとかじゃないからな? ちょっと考えてみただけで、決してアリアと同じ感覚なわけじゃないからな?

 心の中で言い訳をしていると、コトミが生徒会室にやって来た。

 

「すみません、私の忘れ物届いてませんかー?」

 

 

 遺失物は一時的に生徒会室で保管されるので、無くしたり忘れたりした直後なら職員室ではなく生徒会室に取に来るのが正解なのだ。

 

「それで、何を忘れたんだ?」

 

「数学の宿題です!」

 

「……お前、昨日やったって言ったよな?」

 

 

 タカトシが若干低めの声を出してコトミに問うと、彼女は定番の言い訳を始めた。

 

「やったんだけど、机の上に忘れてきちゃったんだよ~」

 

「本当だな? 帰って確認しても問題ないな?」

 

「すみません! やってませんでした!」

 

 

 同じ家に住んでいるからこそ出来る脅しに、コトミは素直に頭を下げた。

 

「あっ! そう言えばさっき、更衣室で下着の忘れ物を見つけました」

 

「誤魔化し方があからさまだが、どんなのだ?」

 

 

 瞬時にタカトシは視線を逸らしたので、私がコトミの対応をする事にした。

 

「これです」

 

「あっ、それ私のだ~。涼しくなってきたから穿いてきたんだけど、慣れないことをすると良くないね~」

 

「いや、慣れてくださいよ……」

 

 

 会話の流れにも入ってこないタカトシの代わりに、萩村が久しぶりにツッコミを入れた。

 

「ちゃんと名前くらい書いておけ!」

 

「高校生にもなって、それは恥ずかしいな~」

 

「じゃあ、顔写真を貼っておけ」

 

「あっ、それなら大丈夫だよ~」

 

「そっちは大丈夫なのっ!?」

 

 

 この会話の最後まで、タカトシは窓の外を眺め、指で耳を塞いでいたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後、何か運動をしようということで、二対二でバドミントンをすることになった。

 

「私とアリア、タカトシと萩村のペアで良いだろ。戦力的に」

 

「どういう分け方をしたんですか?」

 

 

 なんとなく地雷臭がするので聞かなかったのだが、スズ自らシノ先輩に聞いてしまった。

 

「だってほら、タカトシの運動神経なら、萩村の身長を補えるかなーっと」

 

「これくらい、届くわー!!」

 

 

 ほらやっぱり地雷だった……まぁ、自分で踏み抜いたんだから、シノ先輩以外文句を言われる覚えはないし、別に良いか。

 

「じゃあシノちゃん、勝ったチームは負けたチームに何か一つ言う事を聞いてもらうっていうのはどう?」

 

「そうだな……タカトシにあんなことやこんなことを……」

 

「何を考えているかは分かりませんが、一つですよ?」

 

 

 微妙にズレたツッコミであることは自分でも分かってはいるが、別のツッコミをすると面倒な事態になりそうな予感がしたので、とりあえずのツッコミを入れたのだった。

 

「そもそも先輩方、タカトシだけじゃなく私だって結構運動神経良いんですから、簡単には勝たせませんよ?」

 

「大丈夫だ。最悪、アリアのおっぱいではじき返すから」

 

「そんなバカな……」

 

 

 そもそも身体に当たった時点で失点扱いなので、例えはじき返せたとしても続行にはならないんだけどな……

 

「では、まずは年功序列で私たちからのサーブと言う事で」

 

「構いませんよ。スズ、とりあえずあっちのチームに勝たせちゃ駄目だって事は分かってるよな?」

 

「ええ。勝たせたら何をやらされるか分からないもの……」

 

 

 それだけを確認して、俺とスズは本気で勝ちに行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 珍しく本気のタカトシ君とスズちゃん相手に、私たちは手も足も出ずに負けてしまった。

 

「やはり強いな……良いように振り回されてた感が半端ないぞ」

 

「私も、もうヘロヘロだよ~」

 

 

 シノちゃんと二人で、体育館の床に倒れ込んでいるのだが、タカトシ君もスズちゃんも涼しい顔をしている。

 

「先輩たち、大丈夫ですか?」

 

「少しくらい先輩を立てると言う事をしないのか、君たちは」

 

「ですが、手加減をしたら失礼ですし」

 

「確かに……接待なんてされたら、容赦なくシャトルを君の顔にぶつけてただろうな」

 

 

 おそらくだけど、接待でもタカトシ君は強いんだろうな~

 

「仕方ないですね。じゃあ敗者への罰ゲームと言う事で、先輩二人で、四人分のジュースのお金を払ってください」

 

「そんなことで良いのか?」

 

「お金さえ出してくれれば、俺が買ってきますので」

 

 

 ヘロヘロで動けない私たちに買いに行かせるのではなく、お金だけ出してくれればというのが、タカトシ君の優しさなんだろうな~。

 

「スズも休んでていいよ」

 

「そう? じゃあお願いね」

 

 

 私たちの希望を聞いて、タカトシ君は体育館から自販機まで早歩きで移動していった。こんな時でも廊下を走らない辺り、真面目なんだよね。




バドミントンのネットなら、スズでも届きますよね……?

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