桜才学園での生活   作:猫林13世

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このメンツでの年越しは嫌だな……


年越し

 年越しの為に、私たちはアリアの家が所有する別荘に来ている。メンバーは我々生徒会四人と英稜の二人、そしてコトミと出島さんの八人だ。

 

「このメンバーで動くのも慣れてきたな」

 

「学園交流会もありますし、会う機会も増えましたからね」

 

 

 カナの言う通り、我々は月一で顔を合わせているのだ。だからこうして集まっても自然とした雰囲気で盛り上がることが出来るのだ。

 

「お待たせしました。年越しそばです」

 

「まってましたー!」

 

「お前、何時も食べるだけだが、たまには手伝ったらどうだ?」

 

「だってタカ兄、私が手伝っても仕事が増えるだけだよ」

 

 

 開き直ったコトミに、タカトシは呆れたようにため息を吐いて、蔑みの目をコトミに向けた。

 

「その目! 興奮する~!」

 

「あぁ、タカトシ様。私にも蔑みの目を! この駄目メイドにお仕置きを!」

 

「……さぁ、食べましょう」

 

 

 コトミと出島さんをすっかり無視して、タカトシはテーブルにそばを並べる。こいつのスルースキルもレベルが上がってきたな。

 

「タカトシに任せっぱなしだけど、ツッコミ疲れしてない?」

 

「まだ大丈夫だよ。料理の時は、出島さんもまともだし」

 

「私たちももう少し手伝えればいいのですが……」

 

 

 器を並べていたタカトシだったが、二つ器が余った事に首を傾げた。

 

「どうした?」

 

「何で二つも多く作ったんだ?」

 

「それは私たちのですね~」

 

「すみません、遅れました」

 

 

 遅れてきたメンバー、畑と五十嵐が、ゆっくりと部屋に入ってきた。

 

「ああ、お二人の分だったんですか」

 

 

 納得したタカトシは、二人の前に器を置き、すぐにお茶を淹れてきた。

 

「いや~せっかくのスクープチャンスに遅れてしまうとは……」

 

「何かあったのか?」

 

 

 確かに、畑が遅れてくるなんて珍しい……しかも、五十嵐も一緒なのだから、遅れる事は無いと思ってたのだが。

 

「横島先生がついて来ようとしたもので、逃げていたら迷ってしまいまして」

 

「畑さんが知らない道に入り込んだからでしょうが」

 

 

 五十嵐のツッコミに、畑が照れたように頭を掻いた。この二人もなかなかのコンビだよな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 タカトシが作ってくれた年越しそばを食べ、初日の出までどうやって時間を潰すか考えた私は、フランス語の勉強をすることにした。

 

「萩村、コーヒー飲むか?」

 

 

 イヤホンでフランス語を聴いていたら、天草先輩がカップを持って問いかけてきた。

 

「ああ、勉強中か」

 

「頂きます」

 

「ん? 聞こえてたのか?」

 

 

 私がイヤホンを挿していたので、てっきり聞こえてないと思っていた先輩が、驚いたように私を見た。

 

「いえ、読唇術です」

 

「スペック高いな……」

 

「タカトシの読心術には負けますけどね」

 

 

 あいつは本当に、人の心が読めるんじゃないかと思う事が多々あるのだ。私のように唇を読むのではなく、心を読むのだから大したものだ。

 

「別に心なんて読んでないぞ。シノ先輩やコトミは顔に出やすいし、アリア先輩や畑さんはすぐよからぬことを企むから、先んじて封じてるだけだ」

 

「それが凄いって言ってるのよ。あの二人の先を行けるなんて、アンタくらいなものよ」

 

「そうかな……って、出島さんは何をしてるんですか?」

 

「先ほどまでお嬢様が座っていた座布団……くんかくんか」

 

 

 視界の端に捉えたのだろう。タカトシが呆れたように出島さんに問いかけると、想像通りの行動を始めた。

 

「アリア先輩、この人クビにしたらどうです?」

 

「……えっ?」

 

 

 タカトシが七条先輩に提案したら、その先輩はタカトシが座っていた座布団の匂いを嗅いでいた。

 

「主従揃って何やってるんだよ……」

 

 

 タカトシのツッコミに、私と森さんはそろって頷いたのだった。本当に、何をしてるのよまったく……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 初日の出の時間が近づいてきたと言う事で、私たちは外に出て日の出を待つことにした。

 

「寒いですね」

 

「まぁ、真冬の海ですからね。良かったらカイロありますよ」

 

 

 そう言ってタカトシさんからカイロを受け取り、私は暖を取る事にした。

 

「ところで、会長たちは何をしてるのでしょうか?」

 

「気にするだけ無駄ですから、見ない方が良いですよ」

 

「それもそうですね」

 

 

 下手に首を突っ込んで、また面倒ごとに発展するのは避けたいですものね。会長たちは会長たちで時間を潰しているのですから、私は私で日の出までの時間を潰した方がよさそうです。

 

「タカトシさんは、来年の目標とかありますか?」

 

「そうですね……もう少しツッコミの機会を減らすとかですかね」

 

「……それはタカトシさん一人では達成できないと思うのですが」

 

「ええ。その対で、お参りでは先輩たちのボケが少しでも減りますようにと願おうかと」

 

 

 切実な願いだと、同じポジションの私には理解できた。本当に少しでも、ツッコむ回数が減れば、それだけで心労が大きく減るのです。だから先輩方、タカトシさんの心労を、もう少し減らす努力をしてください。

 

「サクラさんの目標は?」

 

「そうですね……もう少しタカトシさんやスズさんに成績で近づきたいなと……」

 

 

 同じ学年トップでも、二人は全問正解だからな……私は何問か間違えたりしますし、二位の人とさほど差も無いので、気を抜くと順位が落ちる可能性があるのです。だからもう少しお二人に点数で近づきたいなと、切に願っています。

 

「上位にいられるだけでも、凄い事ですけどね」

 

「そうですね」

 

 

 そんなしんみりした空気になった途端に、天草さんが水平線を指差した。どうやら日の出のお目見えのようだ。

 

「では、恒例の挨拶と行こうか!」

 

「ええ……おやすみなさい」

 

「「え?」」

 

 

 私とタカトシさんの間にいたスズさんが、限界に達して眠ってしまった。後ろに倒れていくスズさんを、私とタカトシさんで支え、そのまま部屋まで運んだのだった。




絶対に疲れるもんな……

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