冬休みの宿題を片付けるために、私はマキと一緒にコトミの家に泊まることになった。前にドジでコトミの部屋に宿題の束を忘れたのが幸いしたのか、取りに帰る手間が省けたのだ。
「遊ぶために誘ったのに、何で宿題をやるハメになってるのさー」
「何時までも正月気分でいられたら困るんだが? 去年は問題なかったが、今年また問題ありなら塾に通ってもらう事になるから、そのつもりで」
「なんでさー! 塾なんて行くより、タカ兄に教わった方が効率良いし安上がりじゃないかー!」
「俺だってお前の面倒で時間を取られるのは避けたいんだが? だいたい、お前がしっかりと勉強してくれれば、塾に通わすだ、俺が勉強の面倒を見るだ言わなくていいんだけどな」
兄貴に返しに、コトミは反論しようとして言葉が出なかったようだ。ガックリと肩を落とし、大人しく宿題を進め始めた。
「トッキー、そこ間違ってるよ」
「……知ってるよ。今直そうと思ってたんだ」
マキに指摘され、私は凡ミスをしていたことに気付き修正する事にした。強がりを言ってみたが、マキや兄貴には通用しないんだよな……
「タカ兄のお陰で赤点回避してる私を見捨てるの!?」
「だから、それを塾に通わせて勉強させようと言ってるだけだ」
「塾に通ったって、私の成績は上がらないからね! だいたい、タカ兄より教え方の上手い講師がいるとも思えないし」
「なら、俺が教えても良いが、家庭教師代を請求するぞ? お前の所為でバイトに入れる日数が減ってるんだからな」
「ごめんなさい……」
兄貴に対する返しを思いついたコトミだったが、やはり兄貴には勝てなかったようで、最後は素直に頭を下げたのだった。それにしても、怒りながらもしっかり教えるあたり、兄貴は優しいんだなと思える。なんだかんだ言っても、コトミには兄貴が必要なんだな……って、私も兄貴のお陰で赤点回避してる身なんだから、見捨てられると困るのはコトミだけじゃねぇんだよな……
津田先輩のお陰で、コトミとトッキーの宿題は大幅に進み、これなら明日で終わるだろうと言うところで今日はお開きになり、津田先輩は自分の部屋へと戻っていった。
「ふぃー……頭から湯気が出そうだよ」
「お疲れ。でも、溜め込んだコトミが悪いんじゃないの」
「正論なんて聞きたくなーい。今はゆっくり休みたいよー」
「まったくだ。勉強でこれほど疲れるとは思ってなかったぜ」
コトミ同様、宿題を溜め込んでいたトッキーもヘロヘロになっているようだ。机に突っ伏して、コトミの意見に賛同している。
「そもそもトッキーは、忘れ物を減らす方向にしてね。コトミの家に宿題を置きっぱなしって、夏休みもなかったっけ?」
「……そう言えばそうだな。それで結局兄貴に手伝ってもらったんだっけか」
「そうそう。私とトッキーだけ終わってなくて、シノ会長やアリア先輩たちにも手伝ってもらった記憶がある」
「手伝ってもらったって、なんだかわけのわからない会話をしてて、結局は津田先輩に怒られてなかった?」
コトミと話が合う先輩たちだ、津田先輩にツッコミを入れられていても不思議ではなかったが、まさかあそこまでぶっ飛んでいるとは……萩村先輩も自虐ネタで津田先輩にツッコまれてるようだし、やはり津田先輩並のツッコミ役となると、英稜高校の森副会長になるのだろうか。
「ところでマキ、今年のバレンタインはタカ兄にチョコあげるの?」
「お世話になってるし、お礼の意味も兼ねてあげたいとは思ってるけど……」
「競争率半端ないからな」
私の気持ちを知っているトッキーも、同情的な視線を私に向けてくれる。トッキーが渡す場合は、完全に義理チョコだと分かるだろうが、私の場合は半分以上は義理ではない気持ちがある。だけど津田先輩は他の人たちからも想われているし、私とじゃ先輩と釣り合わないし……
「畑さん調べでは、タカ兄の隣にいて不自然じゃないのはサクラ先輩らしいからね。何故か私もランクインしてるけど」
「お前は妹だから、隣にいても違和感がないんじゃないのか? まぁ、その理屈だと、あの会長がお前より下なのに納得が出来るんだが」
「お似合いの夫婦漫才コンビだよねー」
「ボケが多すぎねぇ?」
コトミとトッキーの会話を聞きながら、どうすればあのアンケートの順位が上がるかを、私は一生懸命考えていたのだった。
年が明けてから、まともにタカトシと会話した記憶が無い。まぁ、年明けからアイツはバイトとかコトミの世話とかで忙しかったから仕方ないのかもしれないけど、今日一日だけで会長と七条先輩を纏めて相手する辛さが分かった気がする。
「これからはもっとタカトシの負担を減らさないと……同じツッコミとして!」
ここ最近はタカトシにツッコミを全て任せ、私は楽をしていた気がしてしょうがないのだ。お参りでタカトシが願っていた「ツッコミの機会を減らしたい」という願いを、私は叶えてやることが出来る立場なのだ。
「だけど、タカトシ並のツッコミのキレを求められても、私には難しいのよね……」
普通にツッコむことは出来る。だけど、それだけじゃあの二人を――もっと言えば畑さんやネネを止める事は出来ないだろう。
「ツッコミの勉強なんて、した事ないし……そもそも勉強する事じゃないし……」
漫才師を目指しているならまだしも、私はそこを目指したことが無い。どうすればツッコミの腕が向上するのかと悩みながら、私はそのまま眠りに落ちたのだった。
「……トイレ」
暗いと危ないからトイレまでの道のりすべてに明かりを点ける。決して怖いからではない。だからこれはセーフなのだ。
相変わらず暗がりが怖いスズ……