桜才学園での生活   作:猫林13世

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少し味気なく思うのは仕方ないですね……


冬の弁当

 コトミたちの宿題も無事終わり、新学期を迎えた。どうやら提出期限も守ったようなので、これで減点されることも無いだろう。

 

「タカ兄、なんかテストがあるらしいんだけど……」

 

「休み明けのテストだろ? そんなのはいつもあるじゃないか」

 

「せっかく宿題を乗り切ったのに、テストなんてやってられないよ~!」

 

 

 泣き言をいう妹に、俺は呆れを隠し切れない表情を見せた。こいつ、本当に大丈夫なのだろうか……

 

「明日テストなんだろ? さっさと復習したらどうだ?」

 

「勉強教えてください、お願いします」

 

 

 土下座してお願いしてきた妹に、俺はため息を吐いた。補習になった方がこいつの為なんじゃないかと思うくらい、こいつの成績はギリギリのところを行ったり来たりしているのだから。

 

「とりあえず、範囲を教えてくれ。それが分からないと教えようがない」

 

「………」

 

「おい」

 

「範囲が分かりません……」

 

 

 泣きそうな声で訴えて来るコトミに、思わず拳骨を振るいそうになってしまった……仕方ない、宿題から範囲を予想して、その辺りを集中して教える事にしよう。

 そうしてコトミに勉強を教えた翌朝、学校へ向かう途中でスズと合流した。

 

「タカ兄、寒くて覚えた事忘れそうだよ……」

 

「手袋やマフラーはどうした?」

 

「テストの事に集中し過ぎて忘れた……」

 

「アンタの妹、一つの事に集中すると駄目ね……いや、集中してなくてもなんとなく駄目そうだけど……」

 

「あはは……なんとなく分かってるけど、他人から言われると泣けてくるな……」

 

 

 仕方なくコトミにマフラーを貸し、近所のコンビニで使い捨てカイロを購入しコトミに渡した。これで少しは暖かくなるだろう。

 

「ありがとう、タカ兄」

 

「これで補習になっても知らないからな」

 

「だいたい寒すぎるのがいけないんだよ!」

 

「地球に喧嘩売ってもしょうがないだろ……」

 

「アンタがだらしないんじゃない? 子供は風の子でしょ」

 

「高校生は子供と表現していいのだろうか?」

 

 

 子供ではあるが、あの言い回しでの子供に高校生は含まれないと思うんだけどな……

 

「そうですよ。強いていうなら、風神の申し子」

 

「それも高校生レベルじゃないぞ」

 

 

 妹の厨二病が治らないかと本気で神様に祈りたくなってきた……何でこいつはこんな何だろう……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 午前中に全学年でテストがあり、それから解放され我々は生徒会室でお弁当を食べることにした。

 

「午前中のテスト、どうだった?」

 

「バッチリだよ~」

 

「何時も通りです」

 

「問題ありません」

 

 

 さすが生徒会役員。三人とも頼もしい答えが返ってきた。

 

「今回は結果を貼りだす事は無いから、別に順位などは気にしなくていいぞ」

 

「元々あまり気にしてませんけどね」

 

「そう言えばタカトシ、コトミがさっき燃え尽きたように歩いてたが、何かあったのか?」

 

「昨日詰め込んだんで、恐らく出し切って何も残ってないんでしょう」

 

 

 なるほど……テスト前にタカトシに泣きついて叩き込まれたのか……

 

「それにしても、冬の弁当は冷えてしまってダメだな……やっぱり温かい方がおいしく感じる」

 

「まぁ、冷めても美味しいモノはたくさんありますが、やはり出来立てが一番おいしく感じるでしょうね」

 

 

 主夫のタカトシの発言に、我々三人は頷いて同意する。冷めたモノにもそれなりの良さはあるが、やはり出来立ての温かさに勝るモノは無いだろう。

 

「パンツも脱ぎたてがおいしいんだろ?」

 

「アンタは何を言ってるんだ?」

 

「シノちゃん、おいしいのはパンツだけじゃなくって、脱ぎたての服もだよ!」

 

「おっと、そうだったな! あはははは」

 

 

 タカトシと萩村の呆れた視線に耐えきれず、私は湯呑に手を伸ばす。こういう時は何か飲んで誤魔化すに限るな。

 

「シノ先輩、それ俺のですけど」

 

「っ……危うく間接キスするところだったな」

 

「別に構いませんけど、気づいた今も何故飲もうとしてるんですか?」

 

 

 タカトシにツッコまれて、私はタカトシの湯呑でお茶を飲もうとしている自分に気付いた。

 

「シノちゃん、おいたはダメだよ?」

 

「会長がそういう行動を取るのであれば、私も考えがあります」

 

「二人は何に怒ってるんです?」

 

 

 アリアと萩村の反応に、タカトシが首を傾げる。こいつは本当に鈍感のフリが上手いな……分かってるくせにそれを相手に覚らせないなんて。

 

「間接キスで思ったのだが、パンツを顔に被っても間接キスになるのか? 上の口と下の口で」

 

「どうだろうね~。実際にやってみれば分かるかも。タカトシ君、ハイこれ」

 

 

 そう言ってアリアは、鞄の中からパンツを取り出した。

 

「待て。何故鞄の中にパンツが入ってるんだ?」

 

「寒いから穿いてきたんだけど、慣れなくて脱いじゃった」

 

「常に穿いてくださいよ! じゃなくて、なんてもん出してんだアンタはー!」

 

 

 萩村がツッコミを入れる中、タカトシは自然に視線を逸らして、特に動揺した様子も無くお茶を飲んでいる。

 

「タカトシ、お前見たよな?」

 

「見ましたが、別にそんなに気にするものですか? こういうと変ですが、先輩のパンツも洗濯した事ありますし、特に慌てるものでもないでしょ」

 

「……お前、やっぱり枯れてるんじゃないか?」

 

 

 美人の先輩のパンツを見ても、興奮しないなんてそうとしか思えない。確かに穿いている状態ではないので、そこまで気にする事は無いのかもしれないが、それでも健全な男子高校生が、女子の下着を見てもなんとも思わないのは、それはそれで問題だと私は思う……この後午後の授業まで、私たちはタカトシが特殊な性癖なのではないかと疑い続け、そして怒られたのだった。




主夫にとって、ただの布切れに過ぎなかった……

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