桜才学園での生活   作:猫林13世

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さすがジャーナリストの鑑(笑)ですね


乙女の秘密

 バイトから帰ってきたタカ兄に、私は日ごろの感謝を込めてチョコを渡した。

 

「はいタカ兄。もう飽きてるかもしれないけど、私からもチョコあげる」

 

「ああ、ありがとう。てか、これ俺の金で買ったんだろ?」

 

「ギクッ……な、何のことか分からないな~?」

 

「この前追加の小遣いをねだってきた理由は、チョコを買う為だったのか」

 

 

 やっぱりこの人には敵わないか……その通り、私は既にチョコに回すだけの余裕が無かったので、タカ兄にお小遣いの追加を頼んだのだ。その時は散々怒られたけども、普段からお世話になってる以上、義理チョコでも渡さないと私の株が下がり続けちゃうし……

 

「まぁ、このためだったと言う事で、来月の小遣いから引くのは止めといてやろう」

 

「本当っ!? ありがとう、タカ兄! 大好き!!」

 

 

 嬉しさのあまり、私はタカ兄に飛びついて頬ずりを始める。もちろん、下半身にではなく上半身、顔にだけどね。

 

「ほら、離れろ。晩飯は食ったのか?」

 

「もちろん! いつも美味しいごはんをありがとうございます」

 

「今日は不気味なくらい素直だな……」

 

「タカ兄の存在に感謝し直した日ですからね」

 

 

 普段からありがたいとは思っていたけども、考えてみれば私は、一度もお礼を言ってないし感謝の品を送った事も無かった。だから私のバレンタインデーは、タカ兄に感謝する日になったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本当なら風紀委員長として、バレンタインなどという風紀を乱すイベントを阻止しなければいけなかったのだけども、ついタカトシ君にチョコを渡してしまった。

 もちろん、清い関係なら問題はないのだから、気にし過ぎるのもどうかと思うのだけども、タカトシ君以外の男子は、チョコを貰ったのと同時にお付き合いを始めたり、それ以前からお付き合いをしていた男子は、そのまま女子と……

 

「って、私は何を考えているのかしら。今日も風紀が乱れていないか見回りをしなければ!」

 

「ねぇねぇ」

 

「きゃあ!?」

 

 

 気合いを入れて見回りを始めようとしたら、背後から声を掛けられた。この独特な声、タイミングを見計らったかのように現れる人を、私は一人しか知らなかった。

 

「何か用ですか、畑さん?」

 

「や!」

 

 

 振り返ればそこには、想像通りの人が片手をあげて挨拶をして近づいてきた。

 

「桜才新聞アンケート企画第二弾。貴女は誰にチョコをあげましたか?」

 

「何そのアンケート……」

 

「ちなみに私は、義理チョコとして津田副会長にあげましたが」

 

「っ!?」

 

 

 知ってはいたけど、本人の口から聞かされると衝撃が大きいわね……義理とはいえ畑さんがチョコを渡すなんて思ってなかったから……

 

「まっ、市販のチョコなので、貴女方のように気合いの入った手作りチョコを渡したわけじゃないですから。そんなに警戒しなくても良いですよ。ちなみに、津田副会長に義理チョコを渡したのは他にも大勢いますからね」

 

 

 タカトシ君にお世話になってる女子は、確かに大勢いるもの。義理チョコくらい渡してるわよね。

 

「まぁ、その中に義理チョコと評した本命チョコが混ざってるかもしれませんがね。ちなみに私の調査では、桜才生徒会の三人、天草シノ、七条アリア、萩村スズと英稜生徒会の魚見カナ、森サクラが本命を渡してるらしいとの噂です。貴女はどっち?」

 

 

 畑さんに迫られ、ついつい答えそうになったところに救いの手が差し伸べられた。

 

「何をそんなに迫ってるんですか?」

 

「あら、ご本人登場……これはマズいわね」

 

「何がマズいのか、生徒会室でゆっくりと聞きましょうか」

 

「これは……三十六計逃げるに如かず!」

 

 

 タカトシ君が登場した事で形勢不利と判断した畑さんは、持ち前の行動力でタカトシ君の前から逃げ出そうとした。が――

 

「廊下を走るのは感心しませんね」

 

 

――魔王からは逃げられない。そう私の背後に現れたコトミさんが呟いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 見回りから戻ってきたタカトシの手には、こってり絞られた後の畑さんがぶら下がっていた。

 

「どうしたの?」

 

「とりあえず廊下を走った事への説教をしただけ。取り調べはこれから」

 

「……何があったのよ」

 

 

 既に散々油を絞られた後っぽい畑さんだったが、本格的な取り調べはこれからだったらしい……何をしたのか気になった私は、会長と七条先輩のアイコンタクトに応えてタカトシに質問をした。

 

「カエデさんにしつこく迫っていたので、とりあえず捕まえただけです。何を聞こうとしてたのかはこれから調べるんだが」

 

「風紀委員長が津田副会長に渡したチョコが、義理か本命かを問いただしていただけです。もちろん、聞いた後はお三方にも尋ねる予定でしたが」

 

「タカトシ、今日は帰っていいぞ」

 

「そうだね~。畑さんへの取り調べ、ないしはお仕置きは私たちがしておくから~」

 

「そうね。たまには私たちに任せてちょうだい」

 

「え、えぇ……では、今日はお先に失礼します」

 

 

 私たちの威圧感に負けて、タカトシは生徒会室から出て行った。出ていく際、畑さんに若干同情的な視線を向けていたが、最後まで助けようとはしなかったのだった。

 

「畑、乙女の秘密を暴こうとするのはいけない事だよな?」

 

「悪い事をしたら、お仕置きされるのは分かってるわよね~?」

 

「そもそも、そんな企画を生徒会が認めるとでも思ってたんですか?」

 

「あの、慈悲は……」

 

「「「ありません!」」」

 

 

 こうして桜才新聞企画は、我々三人の手によって潰されたのだった。




何故こうなった……

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