生徒会室で作業していたら、ノックの音が聞こえた。
「誰だ、こんな時に」
せっかく順調に作業が進んでいたというのに、来客で中断するのは惜しいな……しかし、生徒会としては来客を無視するわけにもいかないし……
「五十嵐か、何かあったのか?」
扉を開けて訪ねてきた相手を確認すると、風紀委員長の五十嵐がそこに立っていた。
「実は明日抜き打ちで行う予定でした、各部室への立ち入り調査ですが、事前に情報が漏れた可能性があります」
「何だと!?」
さっきまで進めていたのも、どの部室から回るかという最終の打ち合わせだったのだが、それが無駄になってしまったな……
「情報が漏れていたとは、なんとも嘆かわしいな……」
今日まで極秘に準備を進めていたというのに、漏れ出てしまったのか……
「漏らして良いのはおしっこだけだろ!」
「後は不満だよ! もちろん、欲求的な意味で!」
「………」
「すみません。今のは無かったことにしてください」
五十嵐が気絶しそうになったので、タカトシがフォローに回った。さすが我が生徒会で最も頼れる男子だな!
「男子、一人しかいませんけどね……」
「うむ!」
タカトシのツッコミに満足した私は、早急に調査委員会を立ち上げ、原因を究明する事にした。
「それで五十嵐、原因は何なのだ?」
「恐らくですが、関係者の誰かが口を滑らしたのではないかと」
「関係者か……」
この件を知っているのは、生徒会役員と風紀委員だけのはずだ。
「私はあり得ませんね。プライベートに仕事の事は持ち込みませんので」
「えー、それはもったいないよー」
萩村の言葉に、何故かアリアが反応した。
「『生徒会役員』の肩書は、高い萌えポイントが加算されるのに」
「確かに、生徒会役員という肩書は、きゅんとする人間が多いと聞くな」
「そんなポイント、マイナスにしてやる」
「なぁ」
「あっ、横島先生、いらっしゃったんですね」
萩村と戯れていたら、横から横島先生に声を掛けられた。
「私はそもそも、明日立ち入り調査があった事自体初耳なんだが」
「そうでしょうね。先生には言ってませんので」
「一番口が滑りそうですからねー」
「馬鹿にするな!」
事実を告げると、横島先生は立ち上がって激昂した。
「私は生徒会顧問だぞ! 尻は軽くとも口は軽くない!!」
「ちょっと黙っててくれますかね」
自信満々に言い放った横島先生に、タカトシの冷静なツッコミが炸裂した。
「というか、横島先生に伝えたら、タカトシに怒られたいとかいう理由で漏らしそうでしたので」
「……あながち否定できない自分がいるわね」
「今すぐ出ていけ」
更なる漏洩を防ぐため、タカトシが横島先生を生徒会室から摘み出した。
『貴女も懲りませんね、畑さん』
『いや、これは……決して盗み聞きをしていたわけでは……』
『ちょっと、お付き合い願えますか?』
『はい……』
横島先生を摘み出したタカトシは、そのまま盗み聞きをしてた畑を連行していったようだ。
生徒会室に戻ってくると、ちょうど話し合いが終わったようで、全員立ち上がっていた。
「遅かったな、タカトシ」
「今回の情報漏洩の原因は、畑さんが風紀委員の一年生にテスト範囲を教える代わりに聞き出したようでした」
「つまり、私の監督不行き届きが原因ですか……申し訳ありません」
風紀委員長としての責任を感じたのか、カエデ先輩が頭を下げた。
「いえ、どうも畑さんが執拗に聞いていたらしく、風紀委員の一年生も参ってしまったようでして……解放されたいがために言ってしまったと、本人も反省していました」
「なるほど、それで戻ってくるのが遅かったんだな?」
「ええ。漏らしてしまった罪悪感からか、その子はテストの結果も振るわなかったようですし、今回は厳重注意で済ませておきました」
これで高得点なんて結果だったら、厳重注意では済まさなかっただろうが、実力の半分も発揮出来なかったのを見れば、十分反省していると言う事が分かったのだ。
「それで、畑はどうしたのだ?」
「反省させる意味も込めまして、柔道部に一日体験入部させました」
「うわぁ……」
柔道部の練習のキツさを知っているスズが、思わず悲鳴に似た言葉を漏らした。
「それであの畑が大人しくなるか?」
「とりあえずは、でしょうね……」
「でも、畑さんが仕入れた情報を漏らすとは思えないんだけど……」
「裏で情報の売買をしてるという情報もあったので、そっちもついでに怒っておきました」
買った相手の名を漏らす事はしなかったが、信用問題云々なんて気に出来る状況ではなかったような気もするがな……まぁ、そこは畑さんの意地だったんだろう。
「とりあえず、風紀委員については、これ以上責めるつもりはありませんので。カエデさんもこれ以上気にしないでください」
いつまでも頭を下げているカエデさんに、これ以上責任を感じる必要は無いと言い含めて、新たに行う調査の企画書を任せた。
「それじゃあ、俺たちも帰りましょうか」
「相変わらず流れるような速さで軌道修正するな、タカトシは」
「不本意ながら、慣れていますからね」
昔からコトミが余計な事をして仕事を増やす、なんてことが多かったから、軌道修正はお手の物なのだ。まぁ、自慢出来る事ではないと、自分でも分かってはいるんだけどね……
再び時空が歪んでいく……