定期試験の結果、私はトッキーと仲良く補習を受ける事になった。
「何やってるのよ、コトミもトッキーも……」
「仕方ないじゃん! 今回はタカ兄に頼っちゃいけないって言われてたし、シノ会長たちだと途中で脱線しちゃうしで大変だったんだから」
「普通に自制心が足りなかっただけだろ……あと実力も……」
トッキーの冷静なツッコミに、私は肩を落とした。確かにトッキーの言う通りで、脱線しても私の自制心が強ければ止められたかもしれないし、普通に勉強が出来れば、このような苦しみを味わう事も無かっただろうしね。
「それで、どうするの?」
「どうするって?」
「補習だよ。これ合格出来ないと夏季補習に王手なんでしょ?」
「……忘れてたことを思い出させないでよ」
この補習で合格点を取らないと、期末考査次第で無条件で夏季補習に参加しなければならないのだ。そんなことになれば、お母さんに怒られ塾に通わされる事になりかねない……
「仕方ない……ここはやはりタカ兄に泣きつくしか」
「でも、協力してもらったらダメなんだろ?」
「それは定期試験の時だよ。補習の時は別問題。てか、タカ兄にしか頼れないんだよ、私たちは」
マキは成績はいいけど、人に教えるのがあまり得意ではない。そして会長たちは別の事で盛り上がってしまうしで頼りにならないし……
「よし、生徒会室に行くぞ、トッキー!」
「何で私まで……」
「だって、トッキーだってタカ兄に教わらないと合格出来ないでしょ?」
「……否定出来ない自分が情けない」
私はトッキーを引き連れて生徒会室に向かった。何故かマキもついてきたけど、まぁタカ兄に会いたいだけなんだろうな~。
無事定期試験を終え、高総体に備えて話し合おうとしていたら、生徒会室の扉がいきなり開けられた。
「タカ兄、助けてー!」
「お前、ノックぐらいしろよな」
入ってきたのがコトミだったので、俺はろくに取り合わなくてもいいかと思ったが、コトミの後に時さんと八月一日さんが続いたので、何事かと思い意識をコトミたちに向けた。
「それで、補習になったから助けてほしいと?」
「何で分かったの!? って、タカ兄ならそれくらい簡単か」
「今回は俺の力を借りずにテストを受けろと言われたんだろ?」
「うん。だから散々だった」
こいつ、会長たちに教わってたような気もするが、良くそんなことを平然と言えるな……
「だから補習に向けて、タカ兄に勉強を見てもらいたいのですが」
「大人しく夏季補習と塾通いを受け入れろ」
「嫌だよ! 一度しかない高校生活を塾通いと補習で費やすのは愚の骨頂だと思わない!?」
「普段から碌な事してないだろ、お前は……」
「そう言う事なら、我々がまた手を貸してやらんことも無いがな!」
「週末は津田君の家にお泊りでコトミちゃんと時さんの勉強を見てあげよう!」
「えっ、私も?」
何故か分からないが、週末に会長たちが泊まりに来ることになってしまった……てか、自力で何とかしようとは思わないのか、こいつは……
風の噂で聞きつけてタカ君の家に遊びに来たら、やはりシノっちたちがコトミちゃんと時さんの勉強を見るためにお泊りする事になっていた。
「そう言う事なら、我々もお手伝いします! タカ君、お泊りする人間、二人追加ね」
「はぁ……まぁ構いませんが」
そう言ってタカ君は家の事をテキパキと片づけていく。その一方で、私が強引に連れてきたサクラっちは困惑気味に立ち尽くしている。
「急用があると言われたから来たんですが、これが急用ですか?」
「当然です。シノっちやアリアっちたちだけタカ君の家にお泊りなど許せないですからね。まぁ、サクラっちは何度かタカ君とデートしたりキスしたりしてますから呼ばない方が良かったかもしれませんがね」
何歩もリードされているサクラっちを呼んだのは、あくまでチャンスは公平にと言う事を分からせる為でもあるのだ。
「ところでシノっち、何故コトミちゃんと時さんの勉強を? 定期試験は終わったんですよね?」
「この二人は補習の後で再試なんだ。だから我々がそれに備えて勉強を見てやろうと言う事になった」
「タカトシ君に頼れないからって事なんだけど、カナちゃんは何処から聞いたの?」
「今月の桜才新聞を買い取った時に、畑さんからお聞きしました」
今月のエッセイも、胸打ついい話でした。
「まだ買ってるんですか?」
「スズポンたちは校内紙だから気にならないかもしれないけど、学外の人間からしたら、タカ君のエッセイを読むのは大変なんだからね」
噂では裏で取引されているらしいが、英稜は堂々と買い付ける事が出来ているので、まだマシなんですよね。
「そんなに気になるものじゃないと思うんですけど……あっ、これお茶です」
家事をしながら私とサクラっちにお茶を出してくれたタカ君が、謙遜したセリフを吐いた。これは自己評価が低すぎると言われても仕方ありませんね。
「そんな事よりカナ、お前たちもコトミの勉強を見てくれるんだろ? なら早いところ手伝ってくれ」
「分かりました。サクラっち、タカ君の匂いを堪能してるところ悪いけど、早く手伝いに行きましょう」
「私は紅茶の香りを嗅いでいただけなんですけど……」
シノっちたちにいわれのない非難をされたサクラっちが、私の冗談に補足を入れて納得させた。まぁ、タカ君が淹れてくれた紅茶の匂いを堪能してたんだけど、別に間違ってはいませんものね。
実力は申し分ないが、幾分脱線が多いからな、シノたちは……