桜才学園での生活   作:猫林13世

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もう九月も終わりですね


津田家のお弁当

 今日も寝坊して遅刻かどうかギリギリの電車に乗り込んだ。タカ兄は校門で服装チェックがあるとかで私を起こすことなく出かけてしまったのだ。

 

「妹を置いていくとか、薄情な兄を持つと大変だよ」

 

「そんなこと言ってる場合? コトミが起きなかったせいで、私も遅刻ギリギリなんだからね」

 

「そんなこと言ってもさ~。タカ兄が起こしてくれなかったんだから」

 

「津田先輩が出かけるのって、大分早い時間なんでしょ? そんな時間に起こされたって、コトミの事だから二度寝するんじゃない?」

 

「……そう言えば私、タカ兄が何時に出かけたのか知らないや」

 

 

 いつも目が覚めてリビングに降りていくと、そこにはラップがされた朝ごはんと、綺麗に包まれたお弁当箱が置いてあるのだ。

 

「待って。今日は服装チェックで早く出てるから、津田先輩が出かけた時間が分からないんだよね?」

 

「いや……私が日直でもない限り、タカ兄が家にいる時間に起きたことがない」

 

「………」

 

 

 マキに呆れられたようで、私の事を可哀想なものを見るような目で眺めて来る。

 

「とにかく、駅に着いたらダッシュするしかないよ」

 

「何で一時間目が体育の日に、駅からダッシュしなければいけないのよ」

 

「文句言わないの。生徒会役員が門にいるって事は、時間になったら閉められちゃうんだから」

 

 

 普段なら予鈴の十分前など余裕で間に合う時間なのだが、服装チェックがある日はその時間には門が閉められてしまい、それ以降に登校した場合は遅刻扱いとなってしまうのだ。

 

「ほらマキ、ダッシュダッシュ!」

 

「私はコトミと違って体力バカじゃないのよ……」

 

「タカ兄に会えると思えば、マキだって頑張れるんじゃない?」

 

 

 発破をかけるためにタカ兄の名前を出したら、マキは物凄い勢いで駆け抜けて行ってしまった。

 

「冗談だったんだけどな……」

 

 

 見えなくなってしまったマキを追いかけて数分、私はようやく学校に到着した。

 

「せ、セーフ?」

 

「いや、アウトだ。津田コトミ、遅刻」

 

「そりゃないよ、タカ兄……」

 

 

 既に閉められた門の向こう側で淡々と告げるタカ兄に、私は上目遣いでお願いする。

 

「一生のお願い! これ以上遅刻の回数を重ねると内申に響いちゃうよ」

 

「なら、これからは生活態度を改めるんだな。日付が変わるまでゲームなんてしてないで、早く寝て早く起きろ」

 

「そんなこと言われても……ん? タカ兄、何で私が日付が変わるまでゲームしてるって知ってるの?」

 

 

 タカ兄は私が知らない間に起きているはず。だったら寝る時間も早いんじゃ……

 

「昨日は色々とやっててな。気づいたら日付が変わっていた。隣の部屋に人の気配は無く、リビングから灯りが漏れ出ていたからそう思っただけだ」

 

「御見それしました……」

 

 

 タカ兄も夜更かししてたのか……それであんなに美味しい朝ごはんと、私の分のお弁当まで……

 

「あぁ!!」

 

「どうかしたのか?」

 

 

 校内に入って行こうとしたタカ兄が足を止め、私の方に振り返る。

 

「お弁当、リビングのテーブルに置いてきたままだった……」

 

 

 遅刻ギリギリだったので、朝食もまともに食べる時間が無かった。慌てていたから、お弁当をちゃんと持ったかの確認も怠ってしまったのだ。

 

「小遣いがあるだろ。今日は食堂で済ませるんだな」

 

「実は……お金がありません」

 

 

 通学は定期だから問題なかったが、財布も忘れてしまってたのだ。まぁ、財布を持ってきてたとしても、お昼を買えるだけのお金は入ってたかどうか……

 

「春先にも似たようなことをしてたな、お前……」

 

「面目次第もありませぬ」

 

「はぁ……」

 

 

 そう言ってタカ兄は、自分のポケットから財布を取り出し、中身を確認してから私に問いかけてきた。

 

「弁当と食堂、どっちがいい」

 

「お弁当が良いです」

 

「分かった。昼休みに届けるから、とっとと職員室へ行け」

 

 

 それだけ言い残して、タカ兄は教室へ向かい、私はとぼとぼと職員室へ向かうことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝はコトミを置いて行って私だけ遅刻を免れたので、なんとなく罪悪感を覚えたが、そもそもコトミが起きなかったのが原因だと気づき、途中からはその罪悪感はきれいさっぱりなくなっていた。

 

「それで、またお弁当忘れたの?」

 

「急いでたのはマキだって知ってるでしょ」

 

「お前ら、ギリギリだったもんな」

 

「トッキーは朝練で早かったもんね」

 

 

 三人で机をくっつけてお弁当を食べる。コトミのお弁当箱がいつものじゃなかったのを見て、私はまたコトミがお弁当を持ってくるのを忘れたのだと理解したのだ。

 

「津田先輩に迷惑かけっぱなしで、もし津田先輩が倒れたりしたらどうするのよ」

 

「大丈夫だって。タカ兄が倒れるなんてありえないから」

 

「お前が風邪ひかないのはなんとなくわかるが、兄貴なら風邪ひきそうだな。心労も絶えないだろうし……」

 

「タカ兄は健康体だからね。最近は風邪とは無縁の生活を送ってるよ」

 

「それでも、少しは津田先輩の苦労を減らすようにしなさいよ? そのお弁当を見れば、津田先輩がどれだけ健康に気を遣ってるか分かるんだからさ」

 

「何時も美味しいお弁当感謝だよ~」

 

 

 コトミは気にしてないようだが、津田先輩のお弁当は健康の事をしっかりと考えておかずを決めているように見える。彩だけではなく栄養も考えられた、こういっちゃ失礼だが、そこらへんのお母さんよりお母さんらしいお弁当だったのだ。




コトミがしっかりすれば、タカトシの負担も減るのに……

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