桜才学園のパンフレットに制服の写真を載せる事になり、我々生徒会役員がモデルを務める事になった。
「いくら仕事とはいえ、この残暑が厳しい中冬服はキツイですね」
「そうだね~、背中に汗掻いて少し気分が悪いよね~」
「皆さん、準備は出来ましたか?」
「見ての通り、冬服も持ってきました」
「ちゃんとクリーニングも出してきたから、汚れとかもないはずだよ~」
タカトシとアリアが話してる横で、私のお腹の虫が鳴いた。
「シノちゃん、夏服担当だからってご飯食べてこなかったの~?」
「す、少しでも細く見せたいだろ!?」
「その気持ちは分からないでもないですが、成長期の今しっかりとご飯を食べないと成長するものもしなくなりますので、無理なダイエットはあまりお勧めしません」
何だか母親のような事を言ってるが、タカトシの言ってる事は事実として私も理解している。だが、理屈よりも女子としての意地が勝ってしまうお年頃なのだ。
「それではまず、冬服の写真から撮りますので、津田副会長と七条さん、お願いします」
「その間我々は待機だな」
「てか、何で私呼ばれたんですかね?」
夏服は私、冬服はアリアがモデルを務めるので、確かに萩村が呼ばれた理由が分からないな……
「萩村さんには、小物とかそういったものを貸していただけたらと思いまして」
「小物って何ですか?」
「学園指定の物は、全て写真が必要になるから、カバンとか革靴とか上履きとかを貸していただければ」
「でも、そういうのって新品の方が良いんじゃないでしょうか?」
確かに、萩村の言う通り新品の方が綺麗だし普通はそうするだろうが、畑には何か考えがあるのだろう。
「大丈夫、使用済みってちゃんと書くから」
「お断りします。そもそも、なんだか裏がありそうで嫌です」
「裏なんてありませんよ。萩村さんの写真の横に小物の写真を載せて、幼女が使用しましたなんて書くつもりはありませんよ」
「誰が幼女だ!」
「やはり碌な考えじゃなかったな……」
最近では畑の考えていることがなんとなく分かるようになってきた。果たしてそれが良い事なのかは分からないが、暴走を事前に止めることが出来るのは恐らくいい事だろう……まぁ、私が分からなくてもタカトシが何とかしてくれるので問題なかったんだがな……
パンフレットに載せる写真をパソコンに取り込んで加工したという事で、その確認の為に新聞部の部室を訪れることになった。
「パソコンで加工するのって、特別な知識がなくとも出来るんだな」
「そういうソフトもありますし、やろうと思えば簡単に出来ますよ~」
会長は元々機械苦手だし、生徒会のパソコンに取り込んだとしても加工しないでしょうね……
「まぁでも、生徒会の皆さんはあまり加工しなくても売れる……じゃなかった、見た目が良いですから問題ないですけどね」
「やっぱり商売してたな」
「ちゃんと学園に申請して許可貰ってますので」
「そんな許可出した覚えは……」
そう言ってタカトシが視線を会長に向けると、ゆっくりと会長がタカトシから視線を逸らしていく……つまりは会長が許可を出したという事なのだろう。
「何故そのような許可を?」
「け、決してタカトシの写真で買収されたわけじゃないからな! 盗撮写真が出回るのを防ぐには、畑が正式に撮った写真をファンに適正価格で販売した方が良いと判断しただけだ」
「適正価格って何だよ……まぁ、確かに盗撮写真が出回るのは避けたいですしね……特に会長やアリア先輩、スズには特定のファンがいるみたいだし」
一番ファンを持っているのはアンタだよ、というツッコミを私は飲み込んだ。恐らくタカトシも分かってるのでしょうけども、この学園は元女子高で、女子生徒の数が圧倒的に男子生徒より多いのだ。特殊な性癖でもない限り、私たちよりタカトシの写真が欲しいと思う女子生徒の方が多い。つまりは、一番売れているのはタカトシの写真という事になるのだ。ま、まぁ……私も買ったけど。
「ところで畑、この写真なんだが……」
「ご希望通りちゃんと加工しましたが」
「少し露骨じゃないか? 私はやるなら一割増しだと言っただろ」
「指示してたんですか……」
会長の写真は、確かに若干の違和感を覚えるものに仕上がっている。それほど会長と親しくない人が見れば分からないが、親しい人が見ればすぐにその違和感の原因に気付くだろう。
「これが私的に一割増しなのですが?」
「えっ、そうなの?」
「シノ会長、言い包められてませんか?」
「いや、やはり露骨過ぎる気がする……畑、もう少し自然体な仕上がりになるようにしてくれ」
「血涙流しながら言うなら、別にこのままでも良いですけど……」
タカトシが折れた!? いやまぁ……確かに血涙流されたら私でも折れるかもしれないけどさ……
「ついでに、七条さんの写真を一割増しにするとこんな感じです」
「……畑、やはり私も自然体でいいから、アリアも自然体にしてくれ」
「そうですね。人間、自然体が一番ですもんね……」
「スズ? 何だか怖いんだけど……」
あんなもの見せられたら、誰だって殺気を出したくもなるわよ……結局逆光やらなんやらの加工だけで、無事パンフレットを完成したのだった。
アリアの一割増しって、どんなだろうな……