OGの古谷さんに誘われたらしく、生徒会役員で大学の文化祭に遊びに行くことになった。
「ここですか」
「ああ、古谷先輩は頭いいからな」
「まぁ、その辺りは置いておくにしても、かなり盛り上がってますね」
一般の人も相当入っているのだろう、かなりの賑わいを見せている。
「高校と大学の差は当然あるが、我が校もこれくらい盛り上がる文化祭を目指そうではないか」
「シノちゃん気合入ってるね~」
「ところで、その古谷さんはどちらに?」
萩村が辺りを見回すが、古谷さんの姿は見られない。まぁ、普通に考えて自分が担当している出し物の所にいるのだろうがな。
「えっと、確か古谷先輩は飲食系の出し物をしてるとか言ってたな」
「何でも世界の珍しい料理を振る舞ってるとか」
「楽しみですね」
「さすが主夫、料理に喰い付いたわね」
「別にそういうわけじゃないんだけどな」
単純に珍しい料理に興味があるだけで、自分ならこう調理するのに、とか考えるつもりは毛頭ない。
「とりあえず行くか」
「そうだね~。あっ! はぐれると大変だから、スズちゃんは私と手を繋ぎましょう」
「子供扱いしないでください!」
「じゃあタカトシ君と繋ぐ?」
「……子供扱いしないでって言ってるじゃないですか」
「今の逡巡はなんだったのかな~?」
「とにかく、はぐれないんで大丈夫です!」
強がったスズは俺たちを置いてずんずん進んでいった。
「アイツ、場所分かってるのか?」
「まぁ、スズちゃんは頭いいから、自分で調べられると思うよ」
「とりあえず俺らも行きましょうか。どっちにしてもスズとはぐれてしまいますし」
「そうだな」
スズを追いかける為、俺たちも構内を進むことにした。それにしても、なんだか見られてる気がするのは気のせいなのだろうか……
人混みを抜けて、漸く古谷先輩が担当している場所に到着すると、同じタイミングで萩村もやってきた。
「何故私たちの後に萩村が来るんだ?」
「ちょっと人波に攫われまして……」
「スズちゃんは小さいもんね」
「喧嘩売ってるのかー!」
「おっ、ようやく来たな後輩共」
「古谷先輩、今日は招待いただきありがとうございます」
「気にするなって。ささ、入った入った」
古谷先輩に背中を押され、私たちは店内へと入っていく。押される私を見ながらアリアとタカトシが笑っていたように見えたが、まぁ気にしないでおこう。
「ところで先輩、随分と可愛らしい恰好をしてますね」
「手作りだぜ。身体中のサイズを測って作ったオーダーメイドだ」
「何だか大変そうですね」
「まぁ、日常生活でこんな格好するわけないから、わざわざピッタリのサイズで作る必要は無かったんだがな」
確かにこんな格好を日常生活でしていたら目立つだろうが、せっかく作ったんだからそんなことを言わなくてもいいんじゃないだろうか。
「まぁいいや。とりあえずおすすめを持ってくるから、感想よろしく」
そう言って古谷先輩は一度奥に引っ込み、そしていくつかの料理を持ってきてくれた。
「ささ、食べてみてくれ」
「美味しそうですね」
「あっ、食べてるところ写真に撮っていいか?」
「別にいいですけど、何の料理ですか?」
「牛のペ○ス」
「え……」
「ペ○ス咥えてるところを撮らせてくれ」
かなり思わせぶりな言い方になったが、アリアとタカトシは気にせず食べ始める。
「これ美味しい」
「ですね。若干味が濃いですが、元々こういう味付けの料理なんですか?」
「おう! しっかりと調べて作ったから間違いないぞ」
「今度レシピ調べてみよう」
タカトシが満足するという事は、かなり美味しいのだろうが、さっきの古谷先輩の表現の所為で、食べるのを躊躇ってしまう……くそ、こうなったら元が何かなんて気にせず食べよう。
古谷先輩に料理の感想を告げ、そろそろ時間だからという事で帰る事になった。
「美味しかったね~」
「大学生が作るって聞いてたので、あまり期待していなかったのですが、結構美味しかったですね」
「それにしても、アリアもタカトシもよく平気な顔で食べてたな」
「別に元の形をしてるわけじゃないんですし、いちいち気にしていたら何も食べれなくなりますよ?」
「それはそうなんだが……」
「それよりも、俺はなんだかじろじろと見られていた方が気になりました」
「まぁ、君は背も高いし、色々と目立っていたのだろう」
シノちゃんは誤魔化したけども、視線の理由はタカトシ君以外にはすぐ分かった。私服姿のタカトシ君に見とれた人の視線や、私たちに対する嫉妬の視線が多く突き刺さっていたのだ。
「それにしても、帰り際にかなりお土産を貰いましたね」
「売れ残りだからって次々と……親戚のおばちゃんを思い出した」
「俺もです……まぁ、コトミにでも食わせるか」
「そう言えば、タカトシ君ご両親は?」
「また出張です。いったいどんな仕事をしてるんだか……」
タカトシ君が呟いた言葉に、私たちは頷いて同意した。出張ばっかりの仕事なんてそうそうないだろうし、ましてやタカトシ君のご両親ばっかり出張に行かされるなんて、他に人がいないのだろうか。
「とりあえず、夕飯はこれでいいや」
「タカトシ、やはりお前は主夫だな……」
「なんですか、いきなり」
シノちゃんの言葉に首を傾げたタカトシ君だったけども、私もスズちゃんもシノちゃんと同じ気持ちだったんだよね……まぁ、ここにいる誰よりも家事スキルが高いタカトシ君だし、仕方ないんだろうけどもね。
元が何だったかを気にしてたら、本当に肉なんて食べられない……