桜才学園での生活   作:猫林13世

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皆のオカン、タカトシ……


漂う匂い

 キッチンから良い匂いが漂ってきたので、私は目を覚ました。普段だったらここまで匂いに誘われることは無いのですが、今日は特別ですね。

 

「タカ君、おはようございます」

 

「カナさん? 随分早いですね」

 

「タカ君の匂いに誘われちゃった」

 

「あー、お腹すいてるんですか?」

 

 

 ボケをスルーされたけど、これがタカ君だから気にならないんですよね。サクラっちだったら文句を言ったかもしれませんが。

 

「タカ君が作ってくれるご飯は美味しいので、いくらでも食べられます」

 

「さすがに言い過ぎだと思いますよ。ただ、美味しいと言ってもらえるのは、作り手としては嬉しいですね」

 

 

 タカ君は珍しく照れたようで、後頭部を掻いて視線を逸らした。

 

「ところで、タカ君はこの人数の朝食を作るのを苦と思っていないようですが、どうやったらそこまで料理が上手になるのでしょうか?」

 

「一番はやっぱり慣れですかね。両親が出張が多いですし、コトミは家事がまったくでしたから」

 

「やはり経験に勝るものはないという事ですか」

 

「そう言う事です。どうします? 軽くつまめるものを作りましょうか?」

 

「いえ、もう少しのんびりとタカ君の作業を眺めさせてもらいます」

 

「見てても面白くないと思いますけどね」

 

 

 そう言いながらタカ君は慣れた手つきで料理を再開する。私も最低限は出来ますが、ここまでテンポよく作れたら楽しいんでしょうね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 タカトシ君に朝食を用意してもらったお礼として、私と森さんは洗濯を引き受ける事にした。まぁ、本当の理由としては、タカトシ君に下着を洗ってもらうのが恥ずかしいからなのだけど……

 

「いくらタカトシ君が主夫とはいえ、やっぱり恥ずかしいですよね」

 

「何度か見られたことはありますけど、慣れちゃまずいですからね」

 

「タカトシ君としては、着けてるわけじゃないんだからと思ってるみたいですけど、こちら側からすれば着けてなくても恥ずかしいですからね」

 

 

 普段からコトミさんのを洗っているので、洗濯物としての下着にまったく興味を示さないタカトシ君だけども、彼が慣れていても私たちはまったく慣れていないのだ。慣れちゃまずいのはむしろ私たちの方かもしれないわね。

 

「サクラ先輩」

 

「あれ? コトミさん、どうかしたんですか?」

 

 

 洗濯を続けていると、コトミさんがやってきた。確か今は勉強中のはずじゃ……

 

「カエデ先輩は前にタカ兄のパンツを見て興奮してたことがありますので、なるべくサクラ先輩がタカ兄の服を担当した方が良いと思いまして」

 

「興奮なんてしてないわよ!」

 

「でも、タカ兄のパンツを見た後、トイレで発散してましたよね?」

 

「し、してないって言ってるでしょ!」

 

「どうかしました? って、コトミ」

 

「うげっ! タカ兄」

 

「また逃げ出したのか」

 

 

 タカトシ君に襟首を掴まれ、そのままリビングまで引き摺られて行くコトミさんを見送った後、サクラさんが疑いの目を向けてきた。

 

「発散したんですか?」

 

「してません!」

 

「まぁ、興奮する気持ちは分からなくはないですが、さすがに発散まではしませんよね」

 

 

 ごめんなさい、実はしました……でも、それを声高に宣言する勇気は私にはありません。

 

「天草会長や七条さん、魚見会長ならまだありえそうですが、五十嵐さんは真面目ですものね」

 

「もうこの話題は止めましょうよ。早く洗濯を終わらせて、私たちも勉強しなければいけませんし」

 

「そうですね。私ももう少し頑張ってタカトシさんやスズさんに追いつきたいですからね」

 

 

 唐突な話題変更だったけど、サクラさんは特に疑問を抱くことなく私の提案に乗ってくれた。良かった、サクラさんが畑さんみたいな性格じゃなくて……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コトミと二人で兄貴が用意してくれた模擬テストを解いていると、横からコトミの文句が聞こえてきた。

 

「何でテスト前日にテストを受けなきゃいけないのさ……」

 

「これで合格点取れれば平均以上は確実なんだろ? 頑張れよ」

 

「トッキーは良いの? 今日テスト受けたからって勉強から解放されるわけじゃないんだよ!?」

 

「コトミ、うるさい」

 

「ご、ごめんなさいタカ兄……」

 

 

 相変わらずこの兄妹のパワーバランスは兄貴に傾いてるな……まぁ、これだけ世話になってれば当然か。

 

「タカトシ、監督は私たちがしておくから」

 

「これくらいしか出来ないけどね~」

 

「いえ、さすがに家事をやってもらうわけにもいきませんから」

 

「アンタは少し休んでもいい気がするけどね」

 

「代わりにスズたちに働いてもらうのは気が引けるから……コトミにやらせたらかえって仕事が増えるし」

 

 

 兄貴の呟きに、コトミ以外のこの部屋にいる人間は頷いて同意した。

 

「私だって本気を出せば家事の一つや二つくらい――」

 

「そっちで本気出さなくていいから、テスト前に泣きついてくるのを止めろ」

 

「……申し訳ありません」

 

 

 厨二も兄貴には通用せず、正論で返されてコトミはガックリと肩を落として問題を解き始める。

 

「時さんも、さっきからコトミばっかり気にして手が止まってるよ」

 

「タカトシさん、冷蔵庫空っぽです」

 

「それじゃあシノ会長、俺たちは買い出しに行ってきます」

 

「おう、こっちは任せろ」

 

 

 兄貴たちは買い出しに向かい、残された私とコトミを監視するメンバーは、それぞれ自分の勉強をしながらもしっかりと私たちを監視し続けるのだった……あの目、兄貴よりは迫力はねぇけど、逆らったら怖そうだな。




コトミの気持ちは分からなくはないですけどね……

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