桜才学園での生活   作:猫林13世

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少しは出来るようにならないとな……


コトミに料理指導

 タカ兄がバイトに出かけた後、カナお義姉ちゃんとシノ会長とアリア先輩とスズ先輩が家にやってきた。何時もならタカ兄と約束でもあるのだろうかと疑うが、四人の手には料理の材料があったので、タカ兄にご飯の支度を任されたのだろうと思った。だけど、どうやら違ったみたいだった。

 

「タカ君がいない今、コトミちゃんに料理をみっちりと仕込みたいと思います」

 

「普段からタカトシに頼りっきりだからな、コトミは。ここらで少しくらい自立できるように、我々が指導してやろうではないか! という事になってやってきたんだ」

 

「本当ならタカトシ君がいる時にやるべきだとは思ってたんだけど、カナちゃんがメールでタカトシ君から了承を貰っているっていうから、今日になったんだよ~」

 

「私は監視兼指導を任された」

 

 

 タカ兄め……スズ先輩がいなければエロボケで逃げる事も出来ただろうに、それを見越してスズ先輩まで送り込んできたな。

 

「あれ? こういう展開ならサクラ先輩も来そうなんですが」

 

「サクラっちはタカ君と一緒でバイトですから」

 

「本当なら五十嵐も誘ったんだが、コーラス部の活動があるらしく、今日は我々四人がコトミを立派な女にするべくやってきたわけだ」

 

「初体験は先輩たちって事ですかー?」

 

「そう言うボケは良いから、さっさと準備しなさい」

 

 

 スズ先輩にあっさりと流されてしまい、私は渋々調理の準備を始める。普段は立ち入り禁止扱いのキッチンに入るのは、ちょっとドキドキするな~。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結果から言えば、コトミちゃんの料理の腕は壊滅的だった。包丁は危なっかしくカナちゃんが横から代わりに切って、火を使えば中身が炎上、シノちゃんが迅速に消火し代わりに炒めはじめ、盛り付けは盛大に零しそうになり、私が横から代わりに盛り付けた。

 

「いやー、面目ないですね」

 

「タカ君がコトミちゃんに料理をさせなかった理由が分かった気がします」

 

「だが、この程度でへこたれたら意味がないからな! まずは包丁の使い方から叩き込んでやる」

 

「まだやるんですか~?」

 

「結局コトミは何もしてないからな! 次はもっと簡単なものに挑戦しようではないか」

 

「でもシノちゃん。野菜炒めより簡単な料理って何だと思う?」

 

 

 食卓に並ぶ、少し焦げた野菜炒めを眺めながら、私たちは腕を組んで考え込む。これだったら野菜を切って炒めて盛り付けるだけだからコトミちゃんでも出来るだろうと思っていたのだけど、何一つコトミちゃんは出来なかったのだ。

 

「まさか炒める事すら出来なかったとはな……」

 

「しょうがないじゃないですかー! ずっとタカ兄がご飯の用意をしてきてくれたんですから」

 

「手伝おうとか思わなかったわけ?」

 

 

 スズちゃんが直球な疑問を投げつけると、コトミちゃんは胸を張って答えた。

 

「思った事はありますけど、結局は邪魔になるだけなので自重してました!」

 

「偉そうに答えるな!」

 

「でもシノ会長。私が作るマズそうな料理と、タカ兄が作ってくれる愛情たっぷりの美味しそうな料理、どっちが食べたいですか?」

 

「……間違いなく後者だな」

 

「そうですね。タカ君の愛情たっぷりの料理が食べたいですね」

 

「でしょ~?」

 

 

 丸め込まれた感が半端ないけれども、確かに私もタカトシ君の料理の方が食べたいわね。

 

「だが、このままではいけないとコトミだって分かってるだろ?」

 

「……そりゃ分かってますよ。タカ兄が私の事を心配して彼女を作らないんじゃないかって思ったりもしますし、自分の時間が持てない原因の一つは間違いなく私だって分かってますし……」

 

「自覚してるのなら、もう少し頑張ってみましょう。お義姉ちゃんは最後まで付き合いますから」

 

「わ、私だって最後まで付き合うからな!」

 

 

 こうして、コトミちゃんを立派に成長させるための特訓は、夕ご飯編へと突入したのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バイトも終わり、家に先輩たちがいるからというとサクラさんも手伝ってくれるとの事で、俺はサクラさんと一緒に帰路についた。

 

「――で、このありさまはいったい?」

 

 

 家に入るなり、焦げ臭い匂いが充満している事に気付き、俺はダッシュでキッチンへと向かった。そこで見たものは、そこら中に転がる失敗作の数々と、口から煙を吐いている先輩たちの姿だった。

 

「えっと……卵焼きに挑戦しようとしまして、一応形になったものを先輩たちに試食してもらったのですが……」

 

「何をどうしたらここまで真っ黒になるのでしょうか?」

 

 

 サクラさんが失敗作の一つを見ながら呟く。あれは卵というより、既に炭ではないかと思うのだが……まさか、あれを食べたのだろうか?

 

「えっと……小さじ一杯というのが分からなくて、とりあえずいっぱい砂糖を入れたらそうなりました……」

 

「計量スプーンがあるだろ……小さじは五グラムだ」

 

「二回目はちゃんと計って入れたんだけど、今度は火加減が強すぎたみたいで……」

 

「で、結果的に先輩たちは何を食べてこうなったんだ?」

 

「砂糖を入れるから焦げるんだと思って、代わりに塩を入れてみた卵焼きを……」

 

「それだけで、こんなになるとは思わないんだが……」

 

「それから粉末の出汁と醤油とみりんとコショウと――」

 

「素人が変なアレンジを加えるんじゃない!」

 

 

 先輩たちを布団に寝かせ、とりあえず回復するまで休ませることにした。サクラさんには片付けを手伝ってもらったが、本当に申し訳ないと思う……これは本格的に家事から隔離して、自分一人生きていく分には問題ない稼ぎを得られるように勉強させた方が安全だろうな……コトミがではなく、周りの人間が……




素人アレンジは危険ですからね……

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