話し合いをしていたらすっかりお昼時になってしまい、せっかくだから私たちが用意しようと思ったのだが、既にタカトシが準備を始めていた。
「相変わらずの主夫っぷりだな、タカトシは……」
「タカ君のスキルは、私などでは太刀打ち出来ないですからね」
「タカ兄は昔から料理とか洗濯とかしてましたからね~」
「それはアンタがまともに出来ないからでしょ」
萩村のツッコミに、コトミは恥ずかしそうに頭を掻きながら頷く。まぁ、こいつが人並みくらいに家事が出来たら、タカトシももう少し楽が出来たんだろうな……
「ところでお義姉ちゃん。さっきからタカ兄の事をじろじろと見てるけど、何かあったの?」
「いえ、タカ君と結婚したら幸せだろうなと考えていたところです」
「そうですね~。炊事洗濯何でもござれで、仕事も出来そうですしね~」
「まぁ、タカ君が働くなら、奥さんは家にいた方が良いでしょうけどね」
「まさかのタカ兄が専業主夫ですか? それはさすがに無いと思いますけど」
確かに……タカトシが家に縛られるなんてことは無さそうだしな……
「今のところ、サクラっちがそのポジションに一番近いわけですが、その辺りはどう思ってるのですが?」
「っ!? ゲホゲホ……な、何を言いだすんですか!」
「えっ? だからタカ君を嫁に貰う心境を聞いてるのですが」
「理解出来なかったわけじゃなくて、何故そのような展開になったのかを聞いているのですが」
森は何とかしてこの話題から逃げ出したいようだが、カナが逃がすわけなく、また私たちも逃がすつもりは無かった。
「サクラちゃんはタカトシ君との生活、何処まで想像したのかな~?」
「もう一人お義姉ちゃんが出来るなんて、私的には最高ですけどね~」
「私はまだ諦めてないからな!」
「お前ら、何をしてるんだ」
「「「あ……」」」
いつの間にかやってきたタカトシの威圧感に、私たちは大人しく引き下がった。ここで諦めないのは、よほど鈍感なヤツか、それとも命知らずかのどちらかだからな……
昼食を済ませて、せめて片付けだけはという事で私たちは今キッチンで洗い物をしている。ちなみに、コトミちゃんが課題を溜め込んでいたのがバレて、タカトシ君とサクラちゃん、そしてカナちゃんの三人がコトミちゃんの勉強をしっかりと監視しているのだった。
「コトミは相変わらずというかなんというか……」
「タカトシが忙しくしてる大半は、コトミの所為ですからね」
「前までは私たちの相手もあったけど、最近はタカトシ君の前では自重してるからね」
「つい言ってしまう時もあるが、回数は減ってるはずだからな」
シノちゃんも私も、タカトシ君の前で下ネタを言うのは控えているから、精神的疲労は減ってるはずなんだけどなぁ……一向に疲れが取れた様子がないのは、他にも問題を抱えているからなんだね。
「この前、遅刻したコトミが呼び出され、保護者としてタカトシも呼び出されたようですし」
「まぁ、両親が不在がちな津田家にとって、タカトシが保護者であるのは仕方のない事だろうが、コトミがどうにかしなければならない事だと思うんだが」
「そうだね~」
コトミちゃんが寝坊して遅刻してるのに、何でタカトシ君まで呼び出されたんだろう……タカトシ君が何もしてないとでも思ってるのかしら。
「えっと、このお皿は……」
「そこの棚の三番目だ」
「さすがシノちゃん。覚えてるんだね」
「かなりの回数、この家に来てるからな!」
確かに、タカトシ君の家にお泊りした回数も結構だし、それ以外でもここに遊びに来たりしてるもんね~。覚えててもおかしくはないかな。
「時にアリアよ」
「ん~?」
「先ほどからスカートのポケットから布が見え隠れしてるのだが、それはいったい?」
「あっ、忘れてた。この前タカトシ君に借りたハンカチ、返そうと思ってたんだった」
「何っ!? そんなイベント、私は知らないぞ!」
「ちょっと前に学校で借りたんだよ~。それで、返すタイミングを逸してたから、今日返そうと思ってたんだけど、すっかり忘れてたよ~」
ちょうどいいから、今返しに行こうかな。
「タカトシ君、これ」
「? あぁ、この前の」
「あの時は助かりました」
ちょっと紙で指を切っちゃったんだよね。その時にタカトシ君がハンカチで止血してくれたお陰で、床を汚す事も無かったし、傷跡が残ることも無くちゃんと塞がったんだよね。
「本当なら新しいハンカチを買って返そうかとも思ったんだけど」
「そこまで気にする事は無いですよ」
「出島さんがこのハンカチを食べようとしてたから、さすがに置いておけなかったんだよね」
「あ、相変わらずですね、あの人は……」
「その気持ちは分からなくはないけど、さすがに食べるのはマズいし、借りたものはちゃんと返さないとね」
「分かるんですか……」
どことなく疲れた表情でハンカチを受け取ったタカトシ君だったけど、すぐにコトミちゃんの間違えに気付いて指摘したのを見て、とりあえず大丈夫そうだなと判断した。
「それじゃあコトミちゃん、頑張ってね~」
「た、助けてください~!」
泣きそうな表情で手を伸ばしてきたコトミちゃんだったけど、タカトシ君とカナちゃんとサクラちゃんにみっちりと勉強を教わった方が、コトミちゃんの為だしタカトシ君の為になるから、私はあえて気づかないふりをしてキッチンに戻ったのだった。
コトミ、成長しないな……