朝食を済ませ、我々は景色のいい場所で一休みする事になった。崖とまではいかないが、かなり高いところから下の水面を見ると引き込まれそうになるな……
「押さないでくださいよ?」
「そういわれると押したくなるんだよな……」
「絶対に押しちゃ駄目だけどね」
アリアにやんわりと注意され、私は森の背中を押したい衝動に蓋をする。ここで森を突き落としたとしても、生死にかかわることにはならないだろうし、タカトシにこっ酷く怒られるだけだからな……
「そういえばタカトシは何処に行ったんだ?」
「タカ君なら、向こうで何かを探していましたよ? 出島さんも一緒だったのを考えると、食材探しかもしれませんね」
「あの二人しか野草に詳しくないからな……」
我々素人が手伝ったところで邪魔でしかないだろうし、ここは大人しく景色を楽しむとするか。
「ちょっとお手洗いに行ってきます」
「そういわれるとお腹を押したくなるな」
「強制放尿だね」
「鬼畜っ!」
「冗談だ」
「さすがにそんなことしないよ~」
萩村の腹を押しても面白くないしな……見た目相応というかなんというか……
「いま、『私の見た目ならお漏らしさせても面白くない』とか思っただろ」
「そ、そんなことないぞ!」
「スズ先輩おしっこですか? 連れションしましょう」
「コトミ、一応女の子なんだからそんなこと言わないの」
萩村に注意されて、コトミは恥ずかしそうに頭を掻いた。
「そうですね。女子高生にもなって今のは恥ずかしかったですね」
「分かってくれたのなら――」
「スカトロしてきます!」
「より悪いわ!」
反省したのではなく、よりアダルトな表現に変えただけだった……てか、タカトシが聞いてたら怒られてたかもしれないぞ、コトミよ……
トイレの帰りに謎の洞窟を発見した私とスズ先輩は、他の人にその事を伝え探検を提案した。
「――というわけで調べてみましょうよ」
「確かに気になるが、危なくないか?」
「だからこそ探検し甲斐があるんじゃないですか!」
何があるか分からない、だから調べる価値があると私は本気で思っている。
「別に危険はありませんよ。中は一本道で、奥には綺麗な地底湖があるだけですから」
「酷いネタバレを喰らったぞ!?」
「ちなみに、お嬢様は指一本しか入らないようですが」
「えっ、いつ見てたの?」
「何の話をしてるんですか、貴女は……」
タカ兄が出島さんにツッコミを入れ、とりあえずおかしな流れは断ち切られた。
「まぁ、安全だと分かっているなら行ってみるかな。案内してくれ」
「わっかりましたー!」
私が先頭を引き受け、洞窟までの道のりを進む。なんだかRPGの勇者の気分だ。
「さぁ、私についてきなさい!」
「何で嬉しそうなんだ?」
「どうせろくな事を考えてないでしょうし、気にするだけ無駄ですよ」
タカ兄に酷い事を言われたが、何時もの事なのでこっちも気にしないで聞き流した。
「ここが最深部ですか~……ここって泳げますか?」
「危険はありませんが、水温が低いのでお勧めはしません」
「そうですか……じゃあ、入ってるところだけ写真に撮ってもらおう! タカ兄、カメラお願い」
「あぁ」
スズ先輩がピースしている後ろで、私は入水して手を挙げる。だが、意外に深くて写真に写ったのは私の腕だけで、事情を知らないでこの写真を見たら、スズ先輩の後ろに何者かの腕が写っているようにしか見えない出来上がりになってしまったのだった。
明日家に帰るので、今日は持ってきた食材とタカトシさん、出島さんが採ってきた食材を使っての夕食作りとなりました。といっても、主に作っていたのはタカトシさんと出島さんの二人で、私たちは用意された物を網で焼いていくだけでしたが……
「あれ? どうかしましたか、萩村さん」
「お酒の匂いで気分が……」
「大丈夫ですか? お水持ってきましょうか?」
「大丈夫……自分で行けるわ」
そういってふらふらになりながらも、萩村さんは水の所までたどり着き、そして思いっきり水をがぶ飲みしていました。
「スズの奴、どうかしたんですか?」
「出島さんが飲んでいるビールの匂いで酔っぱらったようです」
「あぁ、苦手な人はそうなるかもですしね」
「タカトシさんは平気そうですね」
「両親が飲んでたりしましたし、料理で使ったりもしますから」
「それで慣れているんですか?」
「飲みたいとは思いませんけどね」
そういいながらタカトシさんは私の隣に腰を下ろしました。
「会長たちは花火をするようですが、サクラさんはいかないんですか?」
「あんまり騒がしいのは……それに花火にはいい思い出がありませんし」
「あぁ、七条家での一件ですか……あれは大変でしたね」
タカトシさんも覚えているようで、私たちはそろってため息を吐きました。
「そういえば、今日も同じメンバーでテントを使うんですかね?」
「天草さんもカナ会長も何も言ってませんし、そうなのではありませんかね。萩村さんには悪いですが、もう一晩頑張ってもらいましょう」
「ツッコミ頑張れー、スズ」
気持ちのこもっていない応援を、水飲み場の前で座っている萩村さんに告げて、タカトシさんははしゃいでいる先輩たちに視線を向けていました。
「楽しそうですね」
「ほんとですね」
これ以降会話は無かったですが、私はそれで満足でした。こうして二泊三日無人島生活は終わっていくのかと思いましたが、これもこれでいい思い出ですね。
ツッコミ一、ボケ複数は体力的にも精神的にもキツイものが……