タカ兄から中華まんを作ると聞かされて、どうせならラーメンが良いと私が言ったからかは分からないが、急遽ラーメンパーティーへと変更された。というか、ちゃっかり来てる畑先輩も凄い神経してると思うな……この間の風紀委員長角○ナ疑惑は畑先輩の捏造で、その風紀委員長がこの場にはいるんですから。
「畑さん、この前の件じっくり聞かしてもらいますからね」
「あの場で釈明しなかったのは貴女じゃないですか。そもそも怪しい動きをしてたのは事実でしょー?」
「机を戻そうとしていたのの何処が怪しい動きなんですか!」
「えっー? だって津田副会長の名前を呟いてたじゃないですか」
それは私も気になりますね。五十嵐先輩は机を戻しながら何故タカ兄の名前を呟いてたんだろう。
「呟いてません! そもそも貴女、何処からこの写真を撮ったんですか!」
「屋上からロープを垂らして」
「命がけですね」
そんな話をしていると、タカ兄がキッチンからやってきた。
「どうしたの、タカ兄?」
「いや、手伝おうと思ったんだが、どうも『女としてのプライドに関わるから』という理由で追い出された」
「まぁ、津田副会長が料理をすれば、あのメンバーの女としての自信が揺らぎますからね~。先日の風紀委員長のお弁当もさすがでした」
「どこで見たんですか!?」
「大丈夫です、バッチリと捏造しますから! タイトルは『風紀委員長のお弁当は副会長作の愛夫弁当!?』というのは如何でしょうか?」
「良いも悪いも捏造でしょうが……その日はシノ会長もアリア先輩もスズもコトミも、もっと言えば義姉さんもサクラさんも俺が作った弁当ですよ」
「これが一夫多妻制の現実か」
「違うから……てか、一人は実の妹だぞ」
だんだんとタカ兄が畑先輩にため口を利いてるけど、それはそれで仕方ないのかな。畑先輩も気にしてないようだし、タカ兄はツッコむときため口が出るし。
「とにかく、今後畑さんが屋上からロープを垂らしてるのを見つけたら、即刻引き上げるか落とすかのどちらかの処置を取らせてもらいますから」
「なら私は、津田副会長に見つからない程の気配遮断を身に着けるまでですよ」
「おぉ、カッコいい!」
「お前の厨二病がここまで広がってしまってるんだぞ……」
タカ兄は呆れたのを隠そうともせず、盛大にため息を吐いてから立ち上がりました。
「ん? どっか行くの?」
「洗濯物を片付けるんだよ。料理しなくて良くなったからな」
「少しは休めばいいのに」
「そうだな。お前が家事出来れば休めるんだがな」
「それは大変だね……」
シノ会長たちやカナお義姉ちゃんたちに料理や洗濯を教え込まれたけど、結局ろくに出来なかったんだよね……タカ兄に感謝だよ。
タカトシさんをキッチンから追いやったのは失敗だったかもしれません。タカトシさんがいてくれれば会長たちは下ネタを控えてくれますが、いなくなれば話は別です。本質的にはこの人たちは変わっていないのですから……
「タカトシに監視されていると思わず濡れてしまう時があるんだよな」
「分かります。あの蔑みの眼、もっと向けてほしいと思う時があります」
「タカトシ君のお陰でパンツがびちゃびちゃになっちゃったときは困るよね~」
「アリアっち、パンツ穿く習慣が出来たんですね」
「意外と持っててびっくりしたよ~」
このように料理に関係ない会話で盛り上がっているのを、私と萩村さんは頭を抱えながら隣で作業をしているのです。
「やっぱり戻ってきてもらえないかしら」
「ですけど、天草さんとカナ会長が女の意地とか言って追い出したわけですし、今更呼び戻せるとは思えません」
「そうよね……てか、散々タカトシの料理を食べておいて、今更女の沽券も何もないと思うんだけど」
萩村さんの言うように、私たちは散々タカトシさんの料理をご馳走になっていますし、彼の家事能力が高いのは周知の事実のはずなのです。ですが今日は何故かそのタカトシさんに頼らずに作ると言ってきかなかったのです。
「まぁ、本人は別の事をしてるようだし、今更私たちが助けを求めてもね……」
「料理をしなくても良くなったので、掃除や洗濯物を片付けたりしてますね。後は、コトミさんの勉強を見てるんでしょうか?」
畑さんと五十嵐さんが教えてるようですが、時々タカトシさんが覗き込んで何かを教えてるように見えますし、恐らく理解力が追い付かなかったコトミさんに分かりやすく解説してるんでしょうね。
「アイツは教師でも物書きでも成功するでしょうね」
「でもタカトシさんはどっちもやるつもりが無いって言ってましたよ」
「そうなのよね……もったいないと思うんだけど、本人がやるつもりが無いんなら――ん?」
「どうかしました?」
「物書きは兎も角、教師になるつもりが無いって何時言ってました?」
「この間ボソッと言ってましたよ、バイト帰りに」
コトミさんでこりごりだとか言ってましたね、確か。
「あぁ、その時なら私が知らなくても仕方ないですね」
「若干睨んでませんか?」
「そんなこと無いですよ」
「で、ですよね」
ちょっと怖い雰囲気を纏っている萩村さんから距離を取り、私は余計な事を言った自分を責めるのでした。
みんな上手なんですけどね……