桜才学園での生活   作:猫林13世

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喰い付くのはコトミだけですし……


スノーシュー

 ムツミと時さんと一緒に、私たちも出島さんがガイドを務めるスノーシューに参加する事になった。

 

「皆さんこんにちは。本日ガイドを務めさせていただきます、七条家専属メイドの出島サヤカです」

 

「始めまして! 桜才学園柔道部主将、三葉ムツミです! 今日はよろしくお願いします!」

 

「はい、こちらこそ」

 

 

 さすがは体育会系といった挨拶ね……元気が良すぎるのもあれだけどね……って、ムツミって出島さんと会った事なかったっけ? まぁ、些末事だけど。

 

「体育会系だけあって上下関係に厳しいのですね。礼儀がしっかりしていて素晴らしいです」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「上下関係に関しては、私と極めて近い存在ですね」

 

「出島さんのはムツミちゃんと違うと思うけどね~」

 

 

 恐らく出島さんが思い浮かべたのは主従関係なんだろうな……こんなことが分かってしまう自分が嫌だな……

 

「てかコトミ。なんでお前まで来てるんだ?」

 

「トッキーに誘われたんだよ~」

 

「私は誘ってねぇぞ。てか、お前何処で話を聞いたんだ?」

 

「面白そうな事には常にアンテナを張ってるんだよ! てかトッキー、迷子になっちゃ駄目だからね」

 

「さすがに雪山では洒落にならないからな」

 

「私がドジるの前提で話すの止めてもらえませんかね?」

 

 

 コトミと時さんの会話に加わった会長にツッコミを入れる時さん。この子もドジっ子という面を除けば優秀なツッコミなのよね……

 

「私は雪国出身だから雪には慣れてる。近所で雪だるま作るの一番うまかったし」

 

「へー」

 

「何を想像しているんだ?」

 

 

 時さんがツッコんだ隣で、タカトシが呆れた表情を浮かべているのを見て、私はコトミが何を想像したがなんとなく分かった。恐らくは坂道を転がり落ちて時さんが雪だるまになった図を思い浮かべたんだろうな……

 

「ではそろそろ行きましょうか」

 

 

 出島さんを先頭に、私たちは雪道を歩き出す。普段歩いてるのと比べて、確かに運動量は増えている気がするわね。

 

「おや」

 

「どうかしたの~?」

 

「ご覧ください。キツネの足跡です」

 

「近くにいるんですかね?」

 

「何だかわくわくするね~」

 

 

 動物ではしゃぐなんて子供っぽいかもしれないけど、野生動物と会えると思うとワクワクしてしまう。まぁ、七条先輩もワクワクしてるんだし、別に気にしなくてもいいかな。

 

「タカ兄、疲れた……」

 

「早すぎるだろ……てか、自分の意思で参加したんだから、自分でどうにかするんだな」

 

 

 スタートして早々にコトミがバテ始めたけど、タカトシはまともに相手にしなかった。てか、タカトシの言う通りコトミは自分で参加したんだし、このくらい自分でどうにかしなきゃね。

 

「ご覧ください」

 

「今度は何の足跡ですか?」

 

「露出マニアの足跡です」

 

「近くにいるんですか!」

 

「……凄い喰い付きだな」

 

 

 疲れたと文句言っていたコトミが、出島さんが指差した足跡を見るために物凄いスピードで先頭に追い付いてきた……相変わらずの思春期全開ね……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばらく歩き続けた私たちは、出島さんに指示を仰ぎながら雪を掘って即席の食卓を作り始めた。

 

「タカ兄、雪が重い!」

 

「一気に掘り進めようとするからだろ。自分が問題なく持ち上げられるくらいでやめておけばいいものを」

 

「だって、一気に進めた方が回数少なくて楽じゃん!」

 

「その分重い思いをするんだから、結局は変わらないだろ」

 

 

 タカトシ君にツッコまれたコトミちゃんは、結局は自分が悪いと思い知らされたようで、次からは自分が持てる量だけ掘り起こしていた。

 

「さて、これで完成ですね」

 

「雪を掘り起こして椅子を作るとは……さすがですね」

 

「知恵だよね~」

 

 

 シノちゃんと二人で感心していると、タカトシ君がバテていたコトミちゃんを引っ張り上げて椅子に座らせている光景が目に映った。

 

「相変わらず仲良しだよね。タカトシ君とコトミちゃんって」

 

「コトミがタカトシにべったりな気がしていたが、タカトシも最終的には甘いよな……」

 

 

 即席食卓で休んだ我々は、再び雪道を歩きだした。寒いけど確かに面白いな~。

 

「皆様。最後は疲れをリフレッシュしていきましょうか」

 

「温泉があるんですか?」

 

 

 出島さんを除き、ただ一人疲れた様子が無いムツミちゃんが――タカトシ君は異性だから別と考えてだけど――出島さんの提案に疑問を呈す。

 

「ありますよ。しかも、混浴です!」

 

「えぇ!? そんな……嫁入り前の娘が、異性に裸を曝すなんて出来ませんよ!」

 

 

 ムツミちゃんが純情可憐な事を言っている横で、タカトシ君が呆れたような表情で出島さんを見ていた。

 

「混浴って、足湯じゃないですか」

 

「タカトシ様はもう少しノリが良い方が盛り上がると思うのですが」

 

「三葉をからかって遊んでいる人に付き合う義理はありませんからね……てか、みんな疲れすぎじゃないですか?」

 

「だらしないなー」

 

「運動バカと主夫と一般的な学生を同列に見るな……」

 

「主夫じゃないって言ってるじゃないですか」

 

「運動バカ?」

 

 

 ムツミちゃんはシノちゃんの嫌味に気づか無かったようだけど、特に気にしなかったから誰もツッコミは入れなかった。というか、早く足湯に使って疲れを取りたいよ……




体力お化けでも間違えではないかと……

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