桜才学園での生活   作:猫林13世

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珍しい事が起きた……


コトミの早起き

 昨日の夜、散々トッキーを弄って遊んだからか、ぐっすり眠れて目覚めもすっきりしている。もしかしたらタカ兄より早く起きたんじゃないだろうか。

 

「えっと、現時刻は……四時半?」

 

 

 人生でこんなに早く起きたことがあっただろうか……この時間に寝たことはあるかもしれないが、恐らく自己最速の目覚めだろう。

 

「せっかく早起きしたんだから、タカ兄の部屋にでも忍び込んで驚かせてあげよう」

 

 

 私がこんな時間に目覚めたなんて知ったら、タカ兄もびっくりして腰を抜かすかもしれないもんね。

 

「そうと決まれば、まずは着替えてトッキーを起こさないようにしないと」

 

 

 物音を立てないように気を付けながら着替え、私はタカ兄とシノ会長の部屋に忍び込もうとして――

 

「何してるんだ、こんな時間に」

 

 

――私の気配を感じ取ったタカ兄に迎え入れられてしまった。

 

「タカ兄……起きてたんだ」

 

「あぁ、三十分ほど前からな」

 

「相変わらず早起きだね」

 

 

 この兄を驚かせることなど、私には出来ないのか……いかにタカ兄が高次元の存在かを知らしめられたなぁ……

 

「シノ会長は?」

 

「まだ寝てる。だからお前も少し静かにしろよな」

 

「分かったよ。ところでタカ兄はどっかに行くつもりなの?」

 

 

 こんな時間に着替えているという事は、誰かの部屋に忍び込んで――などという展開ではないだろうし、そうなると何処に行くのかちょっと気になる。

 

「軽く散歩でもと思ったが、お前も来るか?」

 

「遠慮しとくよ。わざわざ寒い思いをしてまで歩きたくないし」

 

「……何でスノーシューに参加したんだ、お前」

 

 

 タカ兄に呆れられたけど、私は何も答えずにタカ兄を見送った。

 

「せっかく早起きしたんだし、寝起きドッキリでも仕掛けてみようかな」

 

 

 タカ兄がいなくなった今、シノ会長にドッキリを仕掛ける絶好のチャンスなのではないかと思い、私はタカ兄の部屋に忍び込んだ。

 

「うわぁ、タカ兄って準備良かったんだ」

 

 

 ベッドの上に置かれている本を見て、私はタカ兄がこういう状況を考えて荷造りをしていたんだと思い知った。まぁ、タカ兄の場合は車の中でも本を読めるから、行き来の間で読もうと思っていただけかもしれないけどね。

 

「……しかし、ドッキリを仕掛けるにしても、なにをすれば一番驚いてもらえるんだろうか」

 

 

 私がタカ兄の格好をして起こす、というのも面白そうだけど、タカ兄の鞄を漁るわけにもいかないしな……多分途中から違う目的に変わってしまうだろうし。

 

「ここは普通に起こしてみようかな」

 

 

 こんな時間に私が起きている、これだけでも驚くべき事だろうし。

 

「なんか、自分で言ってて情けなくなってきた……」

 

 

 自分の生活を反省しながら、私はシノ会長のベッドに近づき、耳元でささやく。

 

「シノ会長、起きてください」

 

「……あと少し」

 

 

 やっぱり起こされるともう少し寝たくなるものなのだろうか。シノ会長も定番の返しをしてくれた。

 

「もう少しってどのくらいですか?」

 

「後五分……って、コトミか?」

 

「そうでーす。おはようございます、シノ会長」

 

 

 問いかけに答えたところで、シノ会長が私の姿を認識した。

 

「コトミに起こされる日が来るとは……ところで、今何時だ?」

 

「朝の四時半くらいですね」

 

「随分と早起きだな……って、タカトシは何処だ?」

 

「タカ兄なら散歩しに行きましたよ」

 

 

 本当はタカ兄を驚かそうとしたが、結局私の方が驚かされちゃったし……

 

「それで、私を起こしたわけを教えてくれ」

 

「暇つぶし相手が欲しかったんですよ。タカ兄に付き合って散歩に行くのも考えましたけど、私がついて行っても邪魔になるだけだと思ったので」

 

「エッセイのネタでも探しに行ったのか? まぁ、起こされた以上起きるが……」

 

 

 そこでシノ会長は、私に視線を向けた。

 

「何ですか?」

 

「着替えるからちょっと出ていってくれるか?」

 

「女同士なんですから、気にしなくて良いんじゃないですか?」

 

「なら、そのカメラをしまえ」

 

「何故バレた!?」

 

 

 畑先輩から盗撮の極意を教わった私の完璧な盗撮だと思ったのに……

 

「分かりました。カメラはしまいます」

 

「それと、念の為後ろを向いていろ」

 

「疑り深いですね……これでいいですか?」

 

 

 シノ会長に背を向けながら答える。もしかしたらタカ兄以上に警戒されているのではないかとちょっと複雑な思いを懐く。異性であるタカ兄より私の方が警戒されるなんて、シノ会長に『そういう趣味』があるんじゃないかと疑ってしまうじゃないですか。

 

「しかしコトミよ」

 

「何ですか?」

 

「お前がこんな時間に起きるなんて、また吹雪になってしまうんじゃないか?」

 

「それって酷くないですかー? 私だってたまには早起きくらいしますよ~」

 

「コトミのいう早起きとは、いったい何時だ?」

 

「んー……八時とか?」

 

「全然早くないぞ……」

 

「八時なら遅刻しないギリギリなんですよ~」

 

「もっと早く起きた方が良いんじゃないか? いつまでもタカトシに甘えっぱなしも考え物だろ」

 

「たった二人の兄妹ですし、少しくらい甘えても良いじゃないですか~」

 

 

 お父さんもお母さんも出張ばっかりで子供の頃からタカ兄と二人きりが多かったので、私が甘えん坊になっても仕方ないと私は思っている。

 

「とにかく、少しは自立するようにするんだな」

 

「努力はしてみまーす」

 

 

 私はとりあえず良い返事をして、シノ会長が着替え終わるのを大人しく待ったのだった。




八時まで寝てみたい……

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