コトミに起こされたのはいいが、特にする事も無かったので、コトミが持ってきていたトランプでポーカーをしていた。
「今度こそ勝つからな!」
「くっくっく、私には貴女の手札が見えるのだよ」
「なにっ!? ……って、誰もツッコまないから恥ずかしくなってきたぞ」
「ですね~。で、勝負します?」
特に何も賭けてないし、負けたからと言って罰ゲームがあるわけでもないので、余り難しく考えずに勝負が出来るのだ。
「これならば!」
「残念でした~。ストレートフラッシュです」
「何故お前はこんなに強いんだ……」
私はただのフラッシュなので、またしてもコトミに負けた……これで通算二勝十三敗だ。
「まだ続けます?」
「そろそろ飽きてきたし、他の連中も起こすか」
「あんまり迷惑かけるのは感心しませんがね」
「あっ、タカ兄お帰り~」
いつの間にか私の背後に現れたタカトシに驚きはしたが、こいつがいきなり現れるのも割と何時もの事なので必要以上には驚かなかった。
「それにしても、シノ会長ってポーカー苦手なんですね」
「何故か良い役が揃わないんだ……てか、コトミが強すぎるんじゃないか?」
「アイツはまずは堅実に、初手が良ければ冒険するタイプですからね。そして何故かは知りませんが、カード運が非常に高いので、高確率で良い役が揃うんですよ」
「何だか納得出来んな……まぁ、タカトシも来たことだし、今度は三人でやるか」
「良いんですか? タカ兄は私以上にカード運良いですよ?」
「何かを賭けてるわけじゃないんだし、負けても問題ない」
そう意気込んで三人でポーカーをしたが、結局私は全敗した……この兄妹、賭け事に強すぎるぞ……
朝食を済ませて、私たちは出島さんの運転する車で帰る為にロープウェイに乗り込んだ。ちなみに、コトミちゃんは何故か服を着替えていたが、まだ寝ている。
「朝早くからはしゃぎ過ぎたな、こいつは……」
「タカトシ、重くないのか?」
「それほどじゃないですし、身内ですから」
コトミちゃんをおんぶしながらロープウェイまでやってきたタカトシは、コトミを椅子に降ろして自分は窓際で外を見ている。
「そういえば、会長って高所恐怖症じゃなかったでしたっけ?」
「外を見なければいいだけだ! それに、私だって少しずつ克服していってるんだからな」
強がっているのは見て明らかだったが、誰もその事にはツッコまなかった。膝が震えているのは、見えない事にしたのだろう。
「まさかお泊りになるとは思ってなかったですが、すっごく為になりました!」
「それは良かったです。私も、三葉様のお役に立ててうれしく思います」
「そういえば出島さん、何で朝私のベッドの下にいたの~?」
「と、特に深い理由はありません。ただお嬢様のベッドになりたいと思っただけでして……ちょっと疑似体験をしていました」
「あらあら~」
それで済ませて良いのだろうかとも思ったけど、七条先輩もタカトシも何も言わなかったので、私が何か言うべきではないと判断した。だって、出島さんの相手を一人でするのは厳しいし……
「スズちゃんはすぐに寝ちゃったし、私も疲れてたからすぐ寝ちゃったしな~。お泊りっぽい事はしなかったね」
「そうね。まぁ、元々泊まる予定じゃなかったんだし、遊ぶ用意なんてしてなかったから仕方ないけど」
「トッキーは? ずっとコトミちゃんと遊んでたの?」
「コイツが騒ぐだけ騒いで、その後すぐ寝たんで、私もそのまま寝ました」
「それでコトミは早起きだったのか」
「? まだ寝てますよ?」
会長が呟いた言葉にムツミが首を傾げた。確かにコトミはまだ寝ているが、恐らく早起きして一遊びして二度寝したという事だろうな。
「タカトシ様、この駄メイドにお仕置きを!」
「アリアさん、この人どうにかしてください」
「タカトシ君がお仕置きすれば大人しくなると思うよ?」
「はぁ……そもそも俺は出島さんを罰する立場に無いんですけど?」
「私のご主人様はタカトシ様ですから」
「ニュアンスがおかしくないですかね?」
出島さんの雇い主は七条家で、ご主人様は七条先輩のはずだが、恐らく出島さんが言っている『ご主人様』というのは、精神的なご主人様なのだろう……タカトシはその事が分かっているのか、盛大にため息を吐いた。
「それにしても、こうしてみんなとお泊りなんて学校行事でしかなかったから、楽しかったです」
「そうか。三葉はお泊り会とかしないのか」
「だって、そんな機会滅多にないじゃないですか」
ムツミの言葉に、タカトシ以外の学生が目を逸らす。時さんは宿題の追い込みで、私たちはしょっちゅう何かにつけてタカトシの家に泊まっているのだ。
「そういえば三葉」
「なーに、タカトシ君?」
「今度の試験、赤点だと色々ヤバいんじゃなかったか?」
「忘れてたのに……」
「いや、忘れてちゃ駄目だろ……今度の勉強会は三葉も参加するか?」
「良いの!?」
「あ、あぁ……どうせコトミと時さんに勉強を教えるって、義姉さんやシノ会長たちが張り切るだろうし、三葉も参加すればいいよ。俺やスズもいるし」
「お願いします、タカトシ先生。スズ先生」
ムツミがロープウェイの中で土下座しそうな勢いで頭を下げたので、私とタカトシは苦笑いを浮かべた。ちなみに、コトミは家に着くまで起きなかったと言う……
結局ダメ人間なコトミでした……