今年もバレンタインが近づいてきて、学校中がピリピリしている。といっても、大半はタカトシに渡そうと考えているのだろうし、中には話したこともないが渡したいと思ってるヤツもいるかもしれない。
「シノちゃん、今年も出島さんが時間取れるらしいから、ウチで作らない?」
「それはありがたいな。アリアん家はキッチンも広いし、設備も整ってるからな。どうもカナたちはタカトシん家で作るらしいから、参加者は私と萩村くらいか?」
「さっき誘ったらカエデちゃんも来たいって言ってたよ~」
「風紀委員長が率先して風紀を乱そうとするとは……」
まぁ、生徒会長の私も似たようなものかと考えなおし、後で五十嵐をからかう事を自重する事に決めた。
「そろそろタカトシ君に誰が一番か選んでもらいたいところだけど、選ばれなかった時のショックを考えると、今のままの関係が一番かな~って思っちゃうよね」
「そうだな。特にアリアは、タカトシの存在でお見合いがストップしてるんだろ?」
「えっ、その話シノちゃんにしたっけ?」
「おおよその見当くらいつくさ。あの件以来、アリアがお見合いに悩むことがなくなったからな」
前に一度そういう話があった時、タカトシを偽の彼氏として仕立て断ろうという案があったのだ。どうやらそれがアリアの両親の耳に入ったらしく「そういう人がいるなら」という事でお見合いを断っているのだ。もしタカトシが誰かと付き合い始めたら、アリアの見合い話も復活してしまうのだろう。
「日本が一夫多妻制度を導入してくれればな~」
「だがそれだと、タカトシにばかり女が群がることになるぞ?」
「余計に独り身の人が増えちゃうのか……」
確かにアリアの案はありだと思ったが、ウチの高校に当てはめて考えると、どう考えてもあぶれる男が大勢いる事になってしまう。そうなると、我々の代は兎も角、その次の代が困った状況になってしまうのだ。
「とにかく、タカトシが自発的に誰かと付き合おうと考えるまでは、私たちは今のままで良いんじゃないか?」
「そうだね~。一応ライバルの関係だけど、みんなと仲良くしたいもんね~」
「小耳にはさんだ情報では、英稜の女子生徒の大半がタカトシにチョコを渡すらしいから、うかうかしていたら私たちのを受け取ってもらえない可能性があるらしい」
「それ、誰から聞いたんですか?」
「おぉ、萩村……いたのか」
「最初からいましたけど?」
萩村の存在をすっかり忘れていた……寝てたんだったな。
「そういえばタカトシは?」
「アイツは新聞部に行ってる。また畑が五十嵐の着替えを盗撮していたらしく、生徒会からタカトシを派遣して説教しているところだろう」
「畑さんも懲りないですね……」
もはや商売の為でなく、五十嵐を困らせる為にやってるんじゃないかと思わせる程、五十嵐の事を盗撮している気がするな……
「とにかく、モブ女子に負けないためにも、気合いを入れたチョコを作る必要がある!」
「何言ってるのか分かりませんが、変に気合いを入れるより、自然体の方が目立つと思いますよ」
「そうだね~。たぶん他の子たちは気合を入れて作るでしょうから、あえて自然体で作った方が、印象に残るかもしれないわね~」
「そういうものか……だが、逆に義理だと思われても困るだろ?」
「かといって、あんまり気合いを入れすぎると、かえって引かれる可能性もあると思いますよ」
「今更義理だと勘違いされるとは思わないけどな~」
「確かに、あいつも我々の気持ちは知っているわけだし……」
それでいて変わらぬ態度で接してくるという事は、異性として意識されてないのではないかと考えてしまうが、あいつは私情を持ち込まないからな……森に対しては若干意識してるんじゃないか、という節は見られるが、それでもまだ決定的ではないと信じたい。
「じゃああえて渡さないというのは……ダメか」
「自分から脱落する必要は無いと思います」
「せっかくのチャンスだもんね。タカトシ君に少しでも意識してもらえる可能性があるなら、私はその可能性を放棄したくない」
「畑さんからの情報では、横島先生も渡すとかなんとか」
「あの人は敵じゃないから問題ないな」
そもそもタカトシが横島先生を異性として意識しているのかすら怪しいし……
「出島さんは義理チョコを渡すって言ってたよ~」
「出島さんが?」
「なんでも『主に夜、タカトシ様にお世話になっているので』って言ってた」
「あの人は……妄想でもしてるのか?」
「畑さんから貰ったタカトシ君の写真を見ながら発散してるみたいだよ~」
「普通の写真でか?」
「出島さんは私たちの想像をはるかに超える強者だから」
「なるほど……」
私たちもかなりの上級者だと思うが、出島さんはそれ以上だもんな……普通の写真を見るだけで、タカトシの色々な事を妄想できるんだろう。
「とにかく、今度の休みはアリアの家でチョコ作りだ!」
「戻りました……って、なんですか、この空気?」
「な、何でもないぞ……?」
タイミング悪くタカトシが新聞部の部室から戻ってきたが、どうやら気づかないふりをしてくれたみたいだ。さすが、空気が読める男だ……
といっても、こう何回もこのネタが出てくるときつい……