桜才学園での生活   作:猫林13世

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一つ本命が混じってるけど……


義理チョコの数

 バレンタイン当日。毎年の事ながら、クラスの男子がピリピリとした空気を醸し出しているが、意味はあるのかと聞きたくなる。

 

「今年も津田か……」

 

「この前のエッセイオンリーの新聞の効果で、一年のハートも鷲掴みだからな……」

 

「頭が良くて運動も出来て、家事も完璧。生徒会副会長にして文才まであるとか……どこのチート野郎だよ」

 

「それだけでもずるいのに、見た目まで良いとか……」

 

「神様聞こえるか! あんたは不公平だー!!」

 

 

 何だかよく分からないことを言われてる気がするが、下手に近づいて絡まれるのも得策じゃないしな……てか、この下駄箱に入ってたチョコの山をどうにかしたいんだが……

 

「相変わらずだね、タカトシ君は」

 

「三葉……おはよう」

 

「そんなタカトシ君に、私からもチョコあげる」

 

 

 山積みになっているチョコの上に三葉がチョコを置いていった。嬉しいんだけど、今ここで渡さなくても良いんじゃないだろうか……

 

「おはよう、津田君」

 

「轟さん、おはよう」

 

「すっごい数だね。さすが学園の種馬と名高い津田君だよ」

 

「ちょっと待て。誰だそんなこと言ってんの」

 

「私たちのコミュニティでは、津田君はそんな感じだけど?」

 

「あっそ……」

 

 

 轟さんのコミュニティって事は、いわゆるそういう事か……しかし種馬は酷いな。

 

「私の分もここに置いておくから。言っておくけど、ムツミと違ってちゃんと義理だからね」

 

「分かってる。ありがとう」

 

 

 うん、くれる事は嬉しいんだけど、だんだんと前が見えなくなってくるんだが……

 

「うひゃー! さっすがタカ兄。既に大漁ですな~」

 

「コトミ……今朝は随分と早くに出かけてたが、何か呼び出されるようなことをしたのか?」

 

「我が兄ながら、私に対する信頼度が低すぎる気がする……」

 

「信頼できる要素が何処にあるんだよ、お前に」

 

「酷っ!? まぁいいや。運ぶの手伝ってあげるよ。教室で良いんだよね?」

 

「あぁ。てか、どうやって持って帰ればいいんだ?」

 

「こんな事もあろうかと、家から大きな紙袋を大量に持ってきてるのだ! さぁタカ兄、私を褒めるがいい!」

 

「……どうも」

 

 

 コトミから受け取った紙袋にチョコを入れていき、とりあえず前が見えるようにはなったが、改めてみると凄い量だな……

 

「本命は三葉先輩だけっぽいね。タカ兄、これからが大変だよ?」

 

「はぁ……気持には応えられないと言ってるんだがな」

 

「それでも、タカ兄には渡したいって思うのが乙女心だよ。まぁ、タカ兄が誰か一人に決めたところで、チョコの数は減らないだろうけどね~」

 

「なんでだよ?」

 

「ほら、人のものって美味しそうに見えるんだよ」

 

「意味が分からん……」

 

 

 とりあえずコトミに手伝ってもらったお陰で、ようやく教室にたどり着いた。が、そこにはもう一つのチョコの山が作られていた。

 

「こりゃタカ兄には当分チョコレートはいらないね~」

 

「………」

 

 

 もはや何も言葉が出ない……それくらい驚いているのだ。この前のバレンタインは、ここまで多くなかった気がするんだが、何でこんなに増えたんだ?

 

「その疑問にお答えしましょう」

 

「……どこから現れるんですか、貴女は。そして、人の心を読むな」

 

「まぁまぁ。今の津田副会長は分かりやすいですから。それで、何故ここまでチョコの数が劇的に増えたのかというと、ぶっちゃけ私の所為ですかね」

 

「畑さんの?」

 

「この前出したエッセイオンリーの桜才新聞、あれの反響が凄いのなんの……私の財布がめちゃくちゃ潤うんですよね~。あっ、ご心配なく。ちゃんと六割は学園に寄付しましたから」

 

 

 畑さんの収入源になってるのは気に入らないが、学園が認めた商売だから俺が何を言っても止められないんだよな……

 

「ですが、エッセイだけなら毎月書いてますし、あれでどうこうなるとは思えないんですが」

 

「あら? 言わなかったかしら? あのエッセイオンリーの桜才新聞には、津田君の写真も載ってるのよ。その所為で今まで津田君の事を遠くからしか見れなかった女子たちも、津田君の魅力に気づいちゃったのよね」

 

「俺、別に高嶺の花のつもりは無いんですが……校門で服装チェックや持ち物検査とかで割と近くにいると思うんですけど」

 

「それでも、貴方の周りには天草会長に七条さん、風紀委員長に萩村さん。それに加えて英稜のお二方と、綺麗どころが揃っていますから。自分なんかと諦めていた一年生女子は多数いたんですよ? それでも、やはりエッセイの力と、そこに載せた写真の効果で、義理チョコくらいならと決心したのでしょう」

 

「そんなことがあるんですね……」

 

「あっ、ちなみに。男子からも数個きてるようですよ」

 

「は?」

 

 

 まぁ今は友チョコという文化もあるんだし、男子から貰ってもおかしくは無いのかもしれないが……何故このタイミングで?

 

「男子からもおモテになるとは、さすがは津田副会長ですね。美術部が非公式で同人誌を作りたいという気持ちが分かります」

 

「同人誌? 何でまた……」

 

「世の中には色々な趣味嗜好の人物が存在するのですよ」

 

「はぁ……?」

 

「分かりやすく言うと、同性愛の漫画を好き好んで読む腐女子とか」

 

「………」

 

 

 そういう趣味嗜好を否定するわけではないが、自分がその人たちの需要を満たす事になるかと思うと、ちょっと気味が悪いな……

 

「まだ会長たちのチョコは無さそうですし、これから大変ですね~」

 

「心のこもってない同情、ありがとうございます……」

 

「あっ、これ。私からの義理チョコです。津田先生のお陰で大分儲けさせていただいたので、奮発してます」

 

「高そうなチョコですね……どれだけ儲けたんですか」

 

「おほほほほほ」

 

 

 報酬を請求したくなるくらい儲けたんだろう、俺は畑さんの笑い声でそう確信した。




三葉本人が恋心を自覚してないからなぁ……

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