桜才学園での生活   作:猫林13世

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アオハル感が増したような……


本命組 サクラ編

 今日私はシフトに入っていない。これはカナ会長も同じだ。だが会長は義姉として津田家に入るのも容易で、既にチョコレートは冷蔵庫の中に入れてあると言っていた。私は「直接渡さなくて良いのか?」と尋ねると、会長は「気持ちは渡せないって分かってるから」と微妙に寂しそうな笑みを浮かべて答えてくれた。

 普通なら気持ちも渡すのではないかとツッコみたくなるが、タカトシさんの場合を考えれば、それも仕方のないことだと思える。なぜならタカトシさんは、チョコを受け取る時必ず「気持ちまでは受け取れない」と断っているからだ。

 これはタカトシさんが無責任ではないという事の表れでもある。複数人から友情以上の好意を向けられていると、タカトシさんだって知っている。そしてその中の何人かは、自分一人だけじゃなくても構わないと思っている事も。これが並大抵の男子高校生ならば、夢のハーレム状態だとはしゃぐかもしれない。自分に魅力が無いと思っている人なら、何かの悪戯なのかもしれないと思うだろう。

 だがタカトシさんはこのどちらでもない。普通の男子高校生なら数日とモタないであろう状況でも、タカトシさんは私たち女性に手を出してきたりもしないし、十分に魅力的な男子だと、あれだけ言われていれば自覚しないにしてもそう思われているのだと理解はしているはずだ。そして彼の魅力は複数存在するのだ。

 一番分かり易いのは見た目だろう。顔はもちろんのことだが、高い身長にスラリとした身体。しかしなよなよした印象は無く、むしろしっかりとした体格だと印象付ける。

 そしてその容姿だけではなく、中身までもが魅力的だから性質が悪い。今日もこうして直接関係のない他校の女子たちがタカトシさんにチョコを渡しに来る始末なのだ。

 

「相変わらず凄いなぁ……」

 

 

 これだけ人気があるタカトシさんが誰か一人を選ぼうものなら、下手をすれば暴動が起こるかもしれない。その相手が天草さんや七条さん、カナ会長ならば、一定以上の諦めから暴動など起こらないだろう。だがこれが私みたいな相手だったら? 特に才能もない、平々凡々な女子高生がタカトシさんの隣に立つとしたら、他の女子は諦められるだろうか? 答えは当然、否だろう。

 

「でも、何故かタカトシさんは私の事を一番意識してくれている……と思う」

 

 

 一時期は同じ副会長、同じツッコミポジションだからだと思っていたが、今はそんなことは無いと思う。ファーストキスの相手だから? それとも、タカトシさんはこんな私に魅力を感じてくれているのだろうか……

 

「でも、私がタカトシさんからしてもらえることは多いけど、タカトシさんが私にしてほしいことなんてあるんだろうか……」

 

 

 家事万能、成績優秀、運動神経抜群、神は二物を与えずということわざは、タカトシさんには当てはまらないと思える。他の男子が嫉妬するのもバカらしいと諦める気持ちが、女子である私ですら理解出来るくらいのスペックの高さだ。そんな相手に私がしてあげられる事など、ありはしないだろうな……

 

「あれ、サクラさん?」

 

「あっ、タカトシさん……お疲れさまです」

 

「今日ってサクラさん、シフトに入ってましたっけ? ……いや、入っていたらこんなところにいませんよね」

 

「えぇ。入ってたらサボりでしたね」

 

 

 時刻は既にバイト終了の時間だ。万が一私がシフトに入っていたとしても、サボった事になる。

 

「そうだ。諸事情で晩飯を食べ損ねたので、ちょっと付き合ってくれませんか?」

 

「良いですよ。どんな事情かは分かってますから」

 

 

 休憩時間にチョコを渡しに来た他校の女子を相手していた所為で、タカトシさんの食事の時間は無くなったのだろう。私は引き攣らないように注意しながら笑みを浮かべてタカトシさんの誘いを受けた。

 

「ところで、こんな寒い中何故、サクラさんは外で突っ立っていたんですか? 店の中ででも待てたと思いますが」

 

「客じゃないのに店の中で何時間も待ってたら迷惑ですし」

 

「何時間も待ってたんですか?」

 

「あっ……」

 

 

 本当はさっき来たと思わせたかったのだが、思いっきり自爆してしまった……まぁ、人の気配を探れるタカトシさん相手に誤魔化したところで、私が数時間外で待っていたことはバレバレだろうけども……

 

「それで、サクラさんが何時間も待っていた理由は、俺が聞いても良いのでしょうか?」

 

「むしろ、タカトシさんが聞かなかったら、誰が聞くんだと言いたいくらいですよ……」

 

「拗ねないでくださいよ……別に俺は、サクラさんを辱めようとしたわけじゃないんですから」

 

「分かってます……自己嫌悪中です……」

 

 

 タカトシさんが悪いわけがない。今のは完全に私の自爆であり、私が悪い以外の何物でもない。

 

「これ、私からのチョコです。受け取ってくれると嬉しいです」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

 

 一瞬戸惑ったように見えたのは私の気のせいだろうか? それとも、タカトシさんと一定以上の付き合いがある相手から受け取った時の反応は、全てコレだったのだろうか?

 確かめようのない疑問を懐きながらも、とりあえずチョコを渡せた満足感と、タカトシさんとこうして一緒に食事をしている事への感情でいっぱいになり、その疑問を解決しようと思う事が出来なかった。




次もサクラのターン……

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