ボランティアの一環として、地域美化活動をする事になった。我ら生徒会メンバーをはじめ、風紀委員や一年生の姿もちらほらと見受けられる。もちろん、ここから見えない場所にも大勢集まっているので、ここら一帯からゴミがなくなるかもしれないな。
「本日はお世話になっている地域に恩返しをする為、清掃活動を行う。主にゴミ拾いや落書き消しだが、各自しっかりと行うように」
私の挨拶に、参加者全員が頷き、清掃活動がスタートする。
「では、我々も二組に分かれて清掃を始めようか」
「どう分けます?」
「公平に裏表で決めようじゃないか」
「公平?」
私の言葉に引っ掛かりを覚えたタカトシだったが、アリアと萩村から出ているオーラを感じ取って納得したようだった。こいつはよくいる『好意に気付かない鈍感主人公』じゃないからな……
「シノちゃんやスズちゃんには悪いけど、今日は負けられない」
「随分と気合が入ってますね」
「ゲン担ぎの為に、新しい靴で来たんだから」
「動き回るのに、新しい靴で?」
タカトシが何を心配しているのか、今の私たちには分からない。正直、どうすればタカトシとペアになれるかしか考えられないので、他の事に思考を割く余裕が無いのだ。
「うーらおもて!」
私の掛け声で、それぞれ片手を突き出す。私と萩村が表、タカトシとアリアが裏だ。
「やった!」
「それじゃあ行きましょうか」
ペアになったタカトシとアリアがゴミ拾いに向かい、私と萩村も自分の手を恨めしそうに見ながら清掃活動を開始したのだった。
タカトシ君と二人きりで行動するのは、なんだか久しぶりな気がするなぁ……学校行事だけど、なんだか嬉しくなってきちゃったな。
「随分とゴミが捨てられていますね」
「そうだね。ちゃんと所定の場所に捨てればいいのに」
「まったくです。自分一人なら問題ないだろう、とか考えているんですかね」
強い憤りを感じているのか、普段のタカトシ君よりも鋭い目をしている。やっぱり、普段からゴミの分別とかをしているから、余計に腹立たしいのかな?
「俺はあちら側から拾って行きますので、アリアさんは向こうからお願いします」
「はーい。任せて」
無意識だったのか、タカトシ君が今『先輩』じゃなくて『さん』で呼んでくれた。それほど変わりはないとタカトシ君は思っているようだけど、好きな男の子に学校の先輩としてじゃなくて一人の女として見られている気がして、私はこのさん付けがとても気に入っているんだよね。もちろん、シノちゃんもそうらしいけど。
「でも、本当は呼び捨ての方が良いんだけどね」
誰に聞かせるでもなく呟いて、私はタカトシ君に任されたゴミ拾いを始める。こうしてみると、いろいろなゴミがあるものね~。
「あら、エッチな本」
これは資源ごみかしら? 抜き取る側から拭く側にリサイクルされるなんて、なんだか哲学っぽいわね……って、変な事考えてると、またタカトシ君に怒られちゃう。
「それにしても、タカトシ君は真面目だなぁ……」
物凄い勢いでゴミを拾っているタカトシ君に感心しながら、私もゴミを拾っていく。普段紙ごみ以外出さないから、こうやっていろいろなゴミを見ると何だか楽しいわね……
「痛っ? 今何か、足に痛みが……」
結構歩き回った所為か、靴擦れを起こしてしまった。
「あっ……」
ペア決めの時、タカトシ君が懸念していたことはこれだったのか……確かに、履きなれていない靴で動き回れば、靴擦れの危険性は高くなる。そんなことまで考えていたんだ……
「でも、これくらいなら平気だよね……タカトシ君に心配かけちゃ悪いし」
私は、少し痛むくらいなら大丈夫だと自分に言い聞かせてゴミ拾いを続ける。だけど、ちょっとした変化にも気づいてしまうタカトシ君が、私が片足を庇いながら作業している事に気付かないはずもなかった。
「アリアさん、ひょっとして靴擦れしてません?」
「えっ? ……やっぱりバレちゃった?」
「何時もより少し動きがゆっくりでしたし、わざわざ軸足を変えてしゃがんだりしてましたからね」
「タカトシ君はよく人を見てるんだね。普通ならバレないと思ったんだけどな……でも、あとちょっとだから大丈夫だよ」
私は、あるはずもない力こぶを作って見せて強がってみたが、タカトシ君には通用しなかった。
「休んでてください。後は俺がやっておきますから」
「でも……」
なおも渋った私を、タカトシ君は強引に休ませることにしたらしく、私を抱きかかえて近くのベンチに降ろしてくれた。
「後でちゃんと保健室に行った方が良いですが、作業を投げ出すわけにもいきませんからね。少しそこで待っていてください」
「う、うん……」
あまりにも自然にお姫様抱っこされたせいで、私の思考回路はその事に追いついていなかった。しばらくしてから、タカトシ君に抱きかかえられていたという実感が湧き、顔が熱くなっていくのを感じていた。
「もう、ずるいよ……」
私をこんなにもドキドキさせておきながら、タカトシ君はまったくの素面でゴミ拾いを続けているのだ。私の気持ちは知っているはずなんだけどな……
「でも、それがタカトシ君の良い所でもあるんだよね」
私は自分にそう言い聞かせて、火照る顔を冷ます事に専念する事にしたのだった。
今度はアリアのターン