清掃活動を取材していた畑を捕まえ、自分も参加するように注意する。
「こうして記録しておくことも大切だと思うのですが」
「記録も大事だが、参加する事も大事だぞ」
「確かにそうですね。清掃活動に参加すれば、こういう思いが出来るわけですし」
そういいながら畑は撮ってきた写真の一部を私に見せてくれる。これは、タカトシとアリアのペアか……ん?
「何故アリアはタカトシにお姫様抱っこされているんだ?」
「何ででしょうね~?」
「会長、何を見ているんですか?」
「萩村、これを見てくれ」
IQ180の萩村なら、この写真からタカトシがお姫様抱っこした理由を導き出せるかもしれない。そう思ってみせたのだが、萩村は嫉妬するだけだった。
「後でタカトシを問い詰めるべきだと思います」
「そうだな。掃除をサボってアリアとイチャイチャするなんて」
「いえいえ、津田副会長は参加している誰よりもゴミを集めていますよ? ほら」
そう言って畑に見せられた一枚は、タカトシが私たちよりもゴミを拾っている証拠だった。
「分別に迷いがないな……」
「普段からやっているだけあって、一切の躊躇がありませんね……」
「ちなみに、妹の津田さんの成果はこんな感じ」
コトミの成果を見せてきたが、何故私たちに報告するのか分からないな……
「エロ本を探しているだけだな……」
「同じ組の時さんと八月一日さんが可哀想ですね……」
「後で津田副会長に報告しようと思っているのですが、お二人はどう思います?」
畑に尋ねられて、私と萩村は一瞬顔を見合わせ、同時に頷いて答えた。
「「報告するべきだと思う(思います)」」
「やっぱり? それでは、私は同じ組の風紀委員長の取材に行ってきます」
「だから掃除しろ!」
高笑いを残して消えてしまった畑に呆れ、ため息を吐いてから萩村に視線を移す。
「何故アリアはタカトシにお姫様抱っこされていたんだろうな……」
「冷静に考えれば、七条先輩が何処か怪我をして、タカトシがベンチまで七条先輩を運んだ、という事だと思いますが」
「まぁ、あいつが掃除をサボってアリアとイチャイチャするとは考えにくいしな……」
普通の男子ならありえるかもしれないが、あいつは他の男子とは違うし、何より主夫だ。不法投棄を黙って見逃せるとは思えない……それは、タカトシが集めたとされるごみの量を見て分かる。
「とりあえず、掃除を再開するか」
「そうですね」
考えても分からない事に時間を割くよりも、少しでもこの街が綺麗になった方が良いということで、私たちは掃除を再開したのだった。
途中で靴擦れしてしまった所為で、タカトシ君にばかり負担をかけてしまったけど、無事に清掃活動は終了した。
「お疲れさまでした」
「ゴメンね、タカトシ君。途中から役立たずで」
「靴擦れしてしまったのですから仕方ないですよ。無理に続けて悪化させるわけにはいきませんし」
タカトシ君は優しいな……あれだけのゴミを一人で回収して疲れているだろうに、こうして私の心配をしてくれるんだから……
「アリア、タカトシ、ちょっと聞きたい事があるんだが」
「はい? どうかしましたか、シノ会長」
終了の挨拶をしていたシノちゃんが、少し怖い表情で私たちに近づいてくる。な、何かあったのかしら……
「さっき畑に見せてもらったのだが、何故タカトシがアリアをお姫様抱っこしていたんだ?」
「やはり撮られていましたか……気配は感じていたので、もしかしたらとは思っていましたが」
「ちょっと恥ずかしいな……」
ため息交じりに呟くタカトシ君とは対照的に、私は大いに照れていた。あの光景を誰かに見られていたなんて、なんだか露出プレイを……っと、こういう考え方は改めた方が良いってこの前タカトシ君に注意されたばっかだったわね。
「それで、理由を教えてもらえるか?」
「アリアさんが靴擦れして、無理にでも清掃活動を続けようとしていたので、強制的に休ませるためにベンチまで運んだんですよ。おんぶよりもこちらの方が早くできますので」
「やはりか……」
どうやらシノちゃんは、なんとなく理由が分かっていたようだった。それでも問い詰めようと思ったのは、生徒会メンバーでシノちゃんだけお姫様抱っこを――あれ?
「シノちゃんって、タカトシ君に抱っこされた事あるよね?」
「その描写はカットされているから、私はされていないことになっているはずだ!」
「凄いメタ発言来た……てか、抱っこくらいで大袈裟ですね」
タカトシ君にとっては大したことじゃないのかもしれないけど、タカトシ君に好意を寄せている女子からしたら大変な事件なのだ。
「大袈裟とはなんだー!」
「シノ会長?」
「お前は、自分がどれだけ注目されているのか分かってるのかー!」
「えっ……何かすみません」
シノちゃんの剣幕に圧されて、タカトシ君はとりあえず頭を下げた。
「っと、アリアさん、保健室に行きましょう。消毒して絆創膏を貼っておいた方が良いです」
「そうじゃないと悪化しちゃうもんね」
タカトシ君の肩を借りて保健室までの道のりを行く。その間男子からも女子からも複雑な視線を向けられたけど、タカトシ君は一切動じることなく保健室まで私を連れて行ってくれたのだった。
カットしていたことをすっかり忘れていて、確認して驚きました