清掃活動以降、何故か周りからアリア先輩と付き合っているのかという質問をされることが多くなった。
「なぁスズ」
「なに?」
「何で俺とアリア先輩が付き合っている、なんて噂が出回ってるんだ?」
「この間のお姫様抱っこの写真が桜才新聞に載ったからじゃないの?」
「それで誤解されるのか? スズの事だって抱っこしたことあるし、理由もちゃんと書いてあったと思うんだが」
発行前に確認したから、それは間違いないと思うんだがな……本当は写真を載せる事に反対していたのだが、アリア先輩が既に許可した後だったので、正確に状況を説明するならという条件を出したので、さすがの畑さんも曲解した文章にはしていなかったのだ。
「普通の先輩後輩なら、あんなことしないからじゃないの?」
「緊急事態だったんだから仕方ないだろ」
「まぁ、私はあんたたちの関係を知っているから誤解しようがないけど、他の人が見たらそう思うんじゃない? それに、七条先輩があんたの事を気にしている事は全校中が知っているわけだし」
「シノ会長やスズとの噂が落ち着いたと思ったら、今度はアリア先輩か……やっぱり発行を差し止めるべきだったか」
「有名税だと思って諦めたら?」
「他人事だと思って酷くない?」
何処か投げやりな態度のスズにツッコむが、あまり効果は無かった。
「おっはよー、タカトシ君」
「あぁ、三葉。おはよう」
「朝から疲れてるね。何かあったの?」
「いや、噂の事でちょっとうんざりしてただけ」
「噂? 七条先輩とタカトシ君が付き合ってるってあれ?」
「そう。別に付き合ってないんだがな……」
そもそも異性とお付き合いしている暇がないのが現状だから、誰からの告白も受け入れていないと知っているはずなのに、何故こうも誤解されるのだろうか……
「畑先輩が率先して煽ってるからじゃないかな? この間友達がそう聞いたっていうのを聞いたけど」
「やっぱりあの人か!」
「まぁタカトシ君は全校生徒から注目されてるから、少しでも噂になればすぐに広まっちゃうんだろうけどね」
「そんな目立つようなことをしてるつもりは無いんだが」
「あんた本当に自覚無いのね……学年トップタイでエッセイの作者。生徒会副会長というおまけつきなんだから、注目されるに決まってるじゃないの。ついでに、その容姿も注目される理由の一つね」
「ついでにコトミちゃんのお兄ちゃんって事でも注目されてるみたいだよー。この前柔道部の一年生たちがそんな話をしてた」
大人しく生活していたつもりだったんだが、随分と目立っていたようだと知らされて、俺は盛大にため息を吐いて席に戻ったのだった。
事情は知っているけど、あの写真を見ると胸のあたりがもやもやとする……タカトシ君は七条さんの靴擦れが酷くならないようにと思っていただけなのに、幸せそうな七条さんの表情を見ると、どうしても割り切れなくなってしまうのだ。
「おんや~? またその新聞を見ているんですか~?」
「畑さん……」
「まぁ、見ているのは新聞記事じゃなくてその写真なんでしょうけどもね」
「………」
反論する気にもなれずに、私は視線を新聞に戻す。畑さんが言ったように、記事にではなく写真にだ。
「先ほど天草会長も見ていましたし、そんなにインパクトが強いとは私自身思っていなかったのでびっくりです」
「十分強いと思うけど……」
「まぁ、隠れファンを合わせると五百は下らないと噂されていますからね、津田副会長のファンは」
「それ、桜才だけに限った数でしょ?」
「えぇ。さすがに他校のファンまでは数えられませんので」
この人ならそれくらい出来そうだけど、聞いたところではぐらかされるだけでしょうし、ここは大人しく流そう。
「ちなみに、今なら特別特価でこの写真の七条さんの部分を風紀委員長に代えてプリントする事も出来ますけど、如何です?」
「……特別特価って、どのくらいです?」
ついつい誘惑に負けて値段を聞いてしまう……だって、写真の中だとしても、タカトシ君にお姫様抱っこしてもらえると思うと……
「風紀委員長にはそれなりに売り上げに貢献していただいていますので、このくらいで如何でしょう?」
「一万二千円……」
「今なら背景加工や服装加工も込みでこのお値段ですよ?」
「加工って……何をするつもりなんですか?」
「それはですね……ごにょごにょ」
「っ!?」
畑さんの提案に、思わず顔を真っ赤にしてしまう……まさか、そんな事が可能だなんて……
「でもそれって、タカトシ君にバレたら大変じゃないんですか?」
「大丈夫ですよ~。バレるようなヘマは踏みませんので」
「どんなヘマなんでしょうか?」
「それは――はい?」
背後から物凄いオーラを感じ取った畑さんは、油の切れたロボットのように首を軋ませながら振り返る。そこには満面の笑みを浮かべたタカトシ君が仁王立ちしている。
「新聞に掲載する事は認めましたが、商売をすることまでは認めてませんよ?」
「ま、まだ未遂ですから!」
「言い残したことはありませんね? あっても聞きませんが」
「お慈悲を! ちょっとした出来心なんです!」
「言い訳は空き教室でたっぷり聞きますので、大人しくついて来てください。もし逃げようものなら……」
「わ、分かりました!」
タカトシ君に連行された畑さんを見送りながら、私はちょっぴり残念な気分になっていた。やっぱり私ってムッツリなのかな……
残念ながら慈悲はありません