桜才学園での生活   作:猫林13世

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タカトシが一番似合ってる気がする


幼稚園で職業体験

 参加者は生徒会メンバーとコトミ、後は時の六人だが、我々は幼稚園にボランティア兼職業体験という名目でやってきた。

 

「それではお願いします」

 

 

 幼稚園の園長先生だと思われる人と挨拶を交わし、我々はそれぞれ宛がわれたクラスへと向かう。ちなみに、ペアは我々生徒会女子と、コトミ・時ペアにタカトシが監視でつくことになった。

 

「それじゃあさっそく挨拶しましょう。こんにちはー! ん? 声が小さいぞー? もう一度、こんにちはー! はい、よくできました」

 

「シノちゃんノリノリだね」

 

「会長は意外と子供っぽいですからね」

 

 

 私がノリノリで先生をしているのを見て、アリアと萩村が少し呆れている様子だったが、すぐに子供たちに囲まれてそれどころではなくなった。

 

「スズ先生はどうして小さいの?」

 

「そ、それはね……成長ホルモンが――」

 

「萩村、難しい言葉で誤魔化そうとするな」

 

 

 子供にホルモンの話をしても分からないだろうし、恐らく聞かれたくなかった事だから難しい話にして興味を逸らそうとしたのだろうが、さすがに見過ごすわけにはいかないな。

 

「スズ先生はな、好き嫌いが多くて大きくなれなかったんだぞ。だから、みんなも大きくなりたかったら好き嫌いしないで、何でもおいしく食べるんだぞ」

 

「「「はーい!」」」

 

 

 私の説明で納得してくれたので、この話題はここで終わりだろう。

 

「会長、後程お話がありますので」

 

「あ、あぁ……分かった」

 

 

 最後に大きな問題が残ってしまったようで、私を睨みつける萩村に対して、私はそう答えるのが精一杯だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 授業に参加しなくてもいいのは楽だけど、こうして子供の相手をするのはなんだかダルイ……だが、職業体験という名目になっているので、真面目にやればそれだけ評価が上がるのだ。裏を返せば、不真面目だったら成績に影響するという事で、私とコトミはそうなったら補習必死だろう。

 

「コトミ先生とタカトシ先生は同じ苗字だね~」

 

「夫婦なの~?」

 

「んー? それは皆の想像に任せるよ」

 

「「きゃー!」」

 

「………」

 

 

 園児たちと同レベルではしゃいでいるコトミを見て、私は言葉を失った。これはこれで良いのかもしれないが、高校生としてそれはどうなんだと思ってしまったのだ。

 

「おいコトミ」

 

「ん、何トッキー?」

 

「後で兄貴に怒られるぞ」

 

「これくらいで怒らないって。そもそも、私は何も言ってないんだから」

 

「それは……そうだけどよ」

 

 

 確かにコトミは何も言っていない。夫婦であるとかは、園児たちが言い始めたことで、コトミはそれを肯定していない。否定もしていないのでどうなのだろうとは思うが、確かにこのくらいで兄貴は怒らないだろう――そう、兄貴は……

 

「コトミちゃーん? 後でお話があるんだけど……いいかな?」

 

「奇遇だな、アリア。私も後でコトミに話がある」

 

「私もです」

 

 

 この先輩たちが今の話を聞いてどう思うか、それはコトミにも分かっただろうに……幾ら嘘の中とはいえ、あの兄貴と夫婦だと嘯いたコトミに、この人たちが制裁しないわけがないのだ。

 

「五人とも、まともに働かないと怒られますよ」

 

「「「「「はい……」」」」」

 

 

 結局兄貴に注意されてしまい、私たちはそれぞれの持ち場に戻る。というか、さっきから兄貴の周りには男の子ばかりだな……普段女子に囲まれてるイメージが強いから、これはちょっと意外だ。

 

「タカ兄はサッカー上手だから、男の子たちに人気でも不思議じゃないと思うけどね」

 

「運動神経が良いのは知っているが、子供にもそれが分かるんだな」

 

「サッカーの強豪校からスカウトが来てたくらいだからね」

 

「それが何で桜才になんて通ってるんだ?」

 

「家から通える距離なのと、進学率がどうのこうのって言ってた気がする」

 

 

 コトミもあやふやなようで、はっきりとした理由は分からなかったが、恐らくコトミを一人であの家に残すのが心配だったんだろうな……こいつが一人暮らしをしたら、一ヶ月もたずにゴミ屋敷になるだろうし。

 

「時先生、男の子たちが苛める」

 

「あぁ!? 女の子苛めてんじゃねぇよ!」

 

「トッキー、相手は子供なんだから……」

 

 

 つい声を荒げてしまった私に、コトミがツッコミを入れた。こいつがツッコむなんて、明日は雨なんじゃないだろうか……と、現実逃避気味な事を考えていたが、さすがに子供相手にさっきの態度は無いな……

 

「わ、ワリィ……」

 

「カッコいい……」

 

「は?」

 

 

 もしかしたら泣き出すかもしれないと思っていたが、何故か怒られた男の子たちは私の事を憧れの人を見るような目で見ていた。

 

「凄いカッコいいです!」

 

「僕も時先生のようになりたい」

 

「えっ? えっ?」

 

「まさかの大人気だね、トッキー」

 

 

 けらけらと笑いながら冷やかすコトミにガンを飛ばしたが、コトミは口笛を吹いて明後日の方を向いた。こいつ、他人事だからと言って楽しんでやがるな……

 

「タカトシ先生もカッコいいけど、時先生もカッコいい!」

 

「女の人なのに、どうしてそんなにカッコいいんですか?」

 

「どうしてって言われてもな……」

 

 

 なりたくてこうなったわけじゃないので、聞かれても困ってします。普段の私はドジばかりするので、自分がカッコいいだなんて思ったこと無いし、そもそも女だし……

 

「(今度兄貴に相談してみるか……)」

 

 

 こんな悩みを相談できる相手など、兄貴以外に思い浮かば無かった。とりあえず今は、この場を何とかして抜け出す事を考えよう……




トッキーまさかの大人気……

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