桜才学園での生活   作:猫林13世

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ここのタカトシなら問題なく出来そうですし


マナー教室 前編

 本日二年生のみ、礼儀作法の講習会が行われる。タカトシや萩村は問題ないだろうが、他の連中は真新しい知識を得る事になるだろうな。

 

「私たちも今度やるか? 再確認の意味も込めて」

 

「それだったら出島さんにお願いしてみるよ~」

 

「そうか。だが、出島さんで大丈夫なのか?」

 

 

 あの人は基本的な礼儀作法は完璧だろうが、どことなく不安を感じさせるんだよな……

 

「大丈夫だって。何かあってもタカトシ君が何とかしてくれるだろうし」

 

「タカトシに頼りっきりというのもアレだが、確かにそうだな」

 

「何がアレなんですか?」

 

「おぉ、丁度良かった」

 

 

 これから計画を練ろうというタイミングで、タカトシと萩村が生徒会室に現れた。

 

「今日はマナー教室があっただろ? 私たちも再確認の為に出島さんを講師としてマナー教室をしようじゃないか、という話をしていたんだ」

 

「そうですか。今日受けたばかりですが、こういうのは何度受けても良いですからね」

 

「タカトシ君やスズちゃんならほとんど完璧だろうけど、一緒に参加してもらってもいいかな~?」

 

「良いですけど、場所は何処です?」

 

「ウチでだいたいのマナー講座は出来ると思うよ?」

 

「忘れがちだが、凄い金持ちでしたね……」

 

 

 萩村が呆れながら言うが、正直私も忘れていた……アリアは物凄いお金持ちのお嬢様なんだよな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日は七条先輩のお宅で、出島さんを講師としたマナー教室が開かれる。てっきりコトミを連れてくるかと思ったけど、タカトシは一人でやってきた。

 

「コトミは?」

 

「義姉さんに任せてきました。宿題をサボった罰で出された課題が月曜までなので」

 

「相変わらずね、あの子は……」

 

 

 会長と二人でタカトシに同情的な視線を向ける。あの子の世話だけでも大変でしょうに、最近では魚見さんが出入りしていて、ツッコミの機会が増えているのだろうと勝手に決めつけて……

 

「いらっしゃい。それじゃあさっそくお座敷に案内するね~」

 

「出島さんはどうしたんだ?」

 

 

 てっきりお出迎えは出島さんだと思っていた私たちは、七条先輩がお出迎えをしたことに驚き、会長は出島さんの所在を尋ねた。

 

「出島さんなら『今日の私は講師ですので』といって、着替えに行ったよ~」

 

「それで雇い主に出迎えをさせるのはどうかと思うんですが……」

 

「まぁまぁタカトシ君。私は、お友達をお出迎え出来て楽しいから、そこは出島さんは悪くないんだよ~」

 

「アリアさんが気にしてないなら、俺も特に何も言いませんが」

 

 

 そう言えば最近、タカトシが七条先輩の事を「アリアさん」と呼ぶ回数が増えている気がする……学校でもたまに呼んでいるし、今なんてあまりにも自然に呼ぶものだから、危うくスルーするところだったわ。

 

「何だかタカトシと七条先輩の距離感が詰まってる気がするんだけど?」

 

「そうか? 学校じゃないし、どうも『先輩』と呼ばれるのが嫌みたいだから」

 

「ふーん……」

 

 

 たぶん「先輩」と呼ばれるのが嫌なんじゃなくて「タカトシ」に先輩と呼ばれるのが嫌なんだろうなと、私は穿った見方をする。会長も同じように思っているのか、若干タカトシを見る視線に鋭さが増した。

 

「なぁ、タカトシ」

 

「何ですか、シノさん」

 

「うむ、何でもない」

 

「はぁ……」

 

 

 恐らく確認したかっただけなんだろうが、名前で呼ばれて会長は上機嫌になった。名前一つで凄い変化だと思うが、タカトシに名前を呼んでもらえるだけで幸せな気分になるのは私も同じだ。

 

「お待たせしました。第一回出島さんのマナー教室IN七条家を開催します。本日この教室の講師を務めさせていただく、七条家専属メイドの出島サヤカです」

 

 

 お座敷で雑談をしていたところに、漸く出島さんが登場するが、服装は何時ものメイド服と何ら変わらない。いったい何を着替えたのか気になったが、何やら地雷臭がするのでツッコまなかった。

 

「入室の際のマナーとして、相手を見下ろさず前傾姿勢で襖を開けます。歩くときは敷居や座布団を踏まないように注意しましょう。一つ一つの行動が、相手への敬意に繋がります」

 

 

 出島さんの説明を頷きながら聞いていた私たちだったが、次の行動に驚いてしまった。

 

「では次は――」

 

「「「(えっ、上座?)」」」

 

 

 雇い主である七条先輩より上座に腰を落ち着かせた出島さんに驚いたが、七条先輩は何とも思っていない様子で続きを待っている。

 

「皆さん、何か質問でもあるのですか?」

 

「い、いえ……どうぞ続きをお願いします」

 

 

 出島さんも特に何も思っていない様子だし、雇い主である七条先輩が何も言わないのなら、私たちがとやかく言うべきではないだろう。

 

「もしかして、私がお嬢様より上座に腰を下ろしたことが気になっているのですか?」

 

「え、えぇ……」

 

「本来であれば許されないでしょうが、今この時だけは私は皆さんの講師ですから。上座に落ち着いても問題はありません。ですよね、お嬢様?」

 

「そうだね~。というか、今は上下を気にしなくても良いんじゃないかな~? そんなこと言い出したら、シノちゃんだって私より上座にいるわけだし」

 

「う、うむ……」

 

 

 特に考えなく何時もの並びで腰を下ろしたからなんだけど、この並び順だとタカトシが一番下座になるのよね。そう考えるときりがないから、私たちは七条先輩も言葉に従い、上下を気にする事を止めた。




ツッコみたくなる気持ちは分かる……

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