桜才学園での生活   作:猫林13世

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滅多に会う相手ではないな


初対面

 生徒総会の数日後の放課後。我々生徒会は総会で挙がった意見をまとめ、とある場所を目指していた。

 

「先の生徒総会で挙がった要望を直接、学園長に訴えるぞ」

 

「直に話すのは始めてだから、緊張しますね」

 

「ドキドキしてるよ」

 

 

 タカトシとアリアが胸を押さえているので、私はアリアの胸に手を伸ばして確認してみた。

 

「おっぱいが大きいから心音伝わらんな。嘘ついちゃだめだぞー」

 

「ごめーん!」

 

「遊んでないでさっさと行きましょうよ……」

 

 

 歩いてアリアを追いかける私を見て、タカトシが呆れながらツッコミを入れる。一応校則を破らなかったので怒られなかったが、どころなく怒っているように思えたのは気のせいだろうか……

 

「よ、よし! 学園長室に急ぐぞ」

 

 

 タカトシにツッコまれたわけではないが、とりあえずアリアを追いかけるのは止めて、学園長室を目指す事にした。

 

「失礼します。生徒会です」

 

『入りたまえ』

 

 

 中から渋い声が聞こえてきた。私たちは一度目を合わせてから、学園長室に入ることにした。

 

「ようこそ、諸君」

 

「本日はお忙しい中時間を作っていただき、ありがとうございます」

 

 

 私の挨拶の後で、全員で頭を下げる。

 

「いやいや、楽にしなさい」

 

 

 学園長の許しを得て、私以外の三人は腰を下ろした。だが私はお辞儀したままで固まる。

 

「会長?」

 

「(女の子の日なんだね)」

 

「(楽な姿勢なんですね)」

 

 

 アリアとスズは察してくれたが、タカトシと学園長は少し首を傾げたが、特に何も言ってこなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とりあえず会長も腰を下ろしたので、私は学園長室を見回し、珍しいものを発見した。

 

「(あ……痔の座布団)」

 

 

 私の視線に気が付いたのか、学園長が申し訳なさそうに声をかけてきた。

 

「すまんね。これが無いと座れなくて」

 

「い、いえ……」

 

「ウチの父もそうなんですよー。母にイジメられてなっちゃったみたいで」

 

「そういう事は言わなくていいんで」

 

 

 アリア先輩のボケに、タカトシが丁寧なツッコミを入れたが、恐らく内心はため口でツッコミたかったんだろうな……

 

「学園長。こちら、先日行われた生徒総会で挙がった要望をまとめたものです」

 

「見させてもらおう」

 

 

 変な空気になる前に、会長が要望書を学園長に手渡し、学園長もすぐにそれに目を通し始めた。

 

「いろんな要望があるね……予算アップ、校則緩和、校内全面禁煙化か……喫煙者としては耳が痛いね」

 

「学園長も吸うんですか?」

 

「ああ。でも学園内では自粛しているよ。ガムを噛んで紛らわせたりしてね」

 

「この前赤ちゃんプレイで使った哺乳瓶があるので、良ければこれを吸ってください」

 

「ふざけるのもいい加減にしてくれませんかね?」

 

 

 会長のボケに対して、タカトシが物凄いオーラを出してツッコミを入れる。多少慣れている私たちですらビックリしたので、初めて間近でそのオーラを見た学園長はかなり驚いている様子だ。

 

「津田君と言ったね。随分と凄いオーラだね」

 

「すみません。ですが、これぐらいしないと大人しくしてくれないものでして……ちょっと失礼」

 

 

 タカトシが学園長に断りを入れてから、音もたてずに扉に近づき、そしておもむろに扉を開けた。

 

「あらー?」

 

「やっぱり聞き耳を立てていましたね……いい加減にしてください。新聞部を潰されないと分からないんですかね?」

 

「せ、生徒たちが知りたがっている事を記事にするのが、私の使命ですので」

 

「要望が通ればお伝えしますので、さっさと帰れ」

 

 

 畑さんの襟首を掴んで外に追いやったタカトシを見て、学園長が感心したように頷いた。

 

「随分と畑くんの扱いに長けているようだね」

 

「甚だ不本意ではありますが、慣れてきましたので」

 

「彼女はいろいろな所に忍び込んでいるらしいからね。最近では、授業をサボって二年の修学旅行についていったりしていたらしいし」

 

「その場で取り押さえて強制送還させようかとも思いましたが、自腹切ってかつ、内申を捨てているなら自己責任という事で放置しました」

 

 

 タカトシからの報告を、学園長は興味深そうに聞いていた。それにしても、学園長相手でもタカトシは物怖じしないなぁ……

 

「さて、この要望は前向きに検討させてもらおうと思っているよ」

 

「そうですか。ありがとうございます」

 

「そうそう、これは今回の件とは関係ないのだが」

 

 

 学園長がそう前置きをしてから、再びタカトシに視線を向けた。

 

「津田君には気になっている異性はいるのかね?」

 

「……その質問の意図をお聞きしても?」

 

「知っての通り、我が桜才学園は最近になって共学化したからね。男子が少ない中で生活しているのだから、親しい異性の一人や二人いるだろう? その中で、特に気になっている相手がいるのかという、いわば単なる興味から出た質問だよ」

 

「そうですか。特別意識している女性はいませんね。そう言ったことに時間を割けないという現状もありますが、自分が本当に相手の事を好きなのかどうか、良く分からないというのが偽らざぬ本音です」

 

「なるほど。君は実に真面目な生徒のようだね。横島君から聞いた通りだ」

 

「横島先生が?」

 

 

 タカトシではなく、私たちが驚いて聞いてしまったが、学園長が笑顔でそれに答えてくれた。

 

「彼女は度々男子生徒を襲っているようだが、君だけは靡かないとぼやいているのを聞いたことがあってね」

 

「馘にしたらどうです?」

 

「いやいや、双方合意だそうだからね」

 

「それで良いんでしょうか……」

 

 

 タカトシの力のないツッコミに、学園長は笑いながら肩を竦めたのだった。




学園長すら一目を置くタカトシ

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