桜才学園での生活   作:猫林13世

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何でもある七条グループ


和のマナー教室

 前にお座敷マナーなどをアリアの家で再確認した延長で、今回はテーブルマナーの確認をするために、再びアリアの力を借りる事になった。

 

「お店があるこのホテル、七条クループのものなんだって」

 

「道理で急な話でも問題なく出来てる訳か」

 

 

 私の背後で萩村とタカトシがこそこそと話しているが、確認の為の会話なので注意する事はしなかった。

 

「今回は急なお願いにも拘らず快く受け入れてくれた七条グループの皆さんに感謝を込めて実践するよう。みな、粗相のないようにな」

 

「はーい」

 

「随分と参加者が多いですね」

 

「ただ飯が食えるって横島先生が銘打ったからじゃない?」

 

「てか、横島先生来てないけど……」

 

 

 タカトシが意識を集中して気配を探ったが、この場に横島先生の気配は無かった。

 

「まーまー、タカ兄は細かい事気にし過ぎなんだよ~」

 

「当然のようにお前もいるんだな……」

 

「だって、タカ兄がいなかったら、私のご飯が無いからね~」

 

「……しっかりとマナーを再確認するように」

 

 

 青筋を立ててそういったタカトシに対して、コトミは何処までもお気楽ムードだった。

 

「お寿司なんて久しぶりですー」

 

「あんまり外食しないのか?」

 

「お小遣いにも限りがありますから」

 

 

 カウンターで握りが出てくるのを待つ間、私はコトミと世間話に花を咲かせていた。

 

「お前は無駄遣いし過ぎなんじゃないか? タカトシが頭を抱えてるのを何度か見たことがあるが」

 

「気になる作品が多いんですよね~。最近はお義姉ちゃんと分担して買ってるから、そこまで散財はしてないと思うんですけど」

 

「カナもなのか? 私はゲームとかあんまりしないから分からないが、面白いのか?」

 

「今度やってみますか? PCがあれば出来ますよ」

 

「PCは苦手なんだがな……」

 

 

 最近でこそタカトシと萩村に鍛えられたから普通には使えてるつもりだが、ゲームとなるとまた別の知識が必要になるのではないか、私はそれが不安だったのだ。

 

「マグロお待ち」

 

「わー、美味しそー!」

 

 

 握りが出されて、コトミが大喜びで手を伸ばした。

 

「待てコトミ。皿やげたは動かしてはいけない」

 

「えっ?」

 

「無理に動かすと握りが倒れてしまうからな」

 

「そうなんですかー。こういうとこにマナーがあるんですね」

 

 

 コトミは納得しように頷き、握りだけを掴んで口に放り込んだ。あんまり行儀は良くないように思えるが、しっかりと味わってるし今回は見逃しておこう。

 

「私も最近知りました。下駄はヒールには無い快感があることを」

 

「七条家のホテルと聞いて、いると思ってましたよ」

 

 

 いきなり現れて変な事を言った出島さんを持ち上げて、タカトシが強制退場させた。

 

「お任せで」

 

「はい」

 

「スズ先輩、お任せって?」

 

「旬の物を楽しみたい時に、板前さんのお薦めを出してもらう事よ」

 

「そうなんですか~。あっでも、お寿司には山葵が入ってますよ?」

 

「だ、だからどうしたのよ……」

 

 

 恐らく萩村は山葵が苦手なのだろう。だがさび抜きを頼むのは子供っぽいとか思っているのか、震えながらも強がりを言っている。

 

「おまち!!」

 

 

 そんな葛藤に気付かず、萩村の前に握りが出された。

 

「ハンバーグ寿司です」

 

「っ!?」

 

「完全にお子様だと思われてましたね~」

 

「コトミ、お前ぶっとばーす!」

 

「何騒いでるんだ?」

 

 

 出島さんを追いやったタカトシが戻ってきて、萩村とコトミに呆れた視線を向けた。

 

「そうそう。お刺身の食べ方にもマナーがあるんだよ~」

 

「お刺身、ですか?」

 

 

 アリアの言葉にコトミが喰いつく。完全に助かったと思っているんだろうな……

 

「山葵は醤油で溶かず、お刺身に乗せた方が風味が損なわれないの」

 

「へー、そうなんですか~。ちょっとやってみよー」

 

 

 コトミがアリアに言われた通り、刺身に山葵を乗せて食べる。私もやってみるか。

 

「んー!? つーんとするな」

 

「鼻射された時ってこんな感じなんですかね?」

 

「知るか! というか、そんなこと考えてる余裕がない」

 

 

 コトミは何処か余裕がある感じだが、私は鼻に山葵が抜けてそれどころではないのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 津田さんの変な発言がこっちまで聞こえてくるけど、私はわざわざ巻き込まれるようなことはせずに座っていた。

 

「おや。五十嵐さんも蕎麦組ですか」

 

「光り物が苦手なので……」

 

 

 食べられたら、私だってタカトシ君の側にいたかったけどね……

 

「ところで、お蕎麦にもマナーってあるのかな?」

 

「蕎麦には、挽きたて・打ちたて・茹でたてという、三たてがあって、食す人は素早く食べるのが礼儀です」

 

「さすが畑さん。マスコミ志望だけあって博識ですね」

 

 

 畑さんの言葉を忘れないように、私はメモを取ることにした。

 

「あと、蕎麦と肉の延べ棒は音を立てて口にした方が情緒があり――」

 

「うわっ、書いちゃった!」

 

「なに変な事を言ってるんですかね、貴女は」

 

「つ、津田副会長……ちょっとしたジョークですよ」

 

「食事をする場でそのような冗談は如何なものかと思いますがね」

 

「ご、ゴメンなさい……」

 

 

 タカトシ君の怒りオーラに中てられたのか、畑さんはその後大人しくお蕎麦を食べていました。

 

「あ、ありがとうございます。私ではどうにも出来なかったと思います」

 

「そんな事ないと思いますが……まぁ、コトミ、畑さん、出島さんの監視が仕事みたいなものですから」

 

「何時もご苦労様です」

 

 

 同情的になってしまったけど、タカトシ君は気にした様子もなく「ありがとうございます」と一礼してくれた。本当に、タカトシ君は大変そうよね……




何処でも大変なタカトシ

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