桜才学園での生活   作:猫林13世

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広い庭だから


迷い猫捜索

 生徒会室にやってくると、七条先輩が机に突っ伏していた。

 

「先輩、どうかしたんですか?」

 

「うん……」

 

 

 声をかけても生返事しかしてくれないので、私は会長に視線を移した。

 

「七条先輩、何かあったんですか?」

 

「どうやら飼い猫が昨日から帰ってきてないそうなんだ。それで昨日一睡も出来ずに、今も半分寝てる状態だ」

 

「そうだったんですか……心配ですね」

 

 

 迷子となれば、いろいろと危険がある。車に引かれたり、別の生き物に襲われたりと……

 

「心当たりは無いんですか?」

 

「うーん……ちょっと分からないんだよね」

 

「外は車が多いですし、早く見つけてあげないと」

 

「ううん、車は大丈夫。走ってないから」

 

「えっ、敷地内で迷子なんですか?」

 

 

 忘れがちだが、七条先輩は凄い所のお嬢様だったんだっけ……そりゃ敷地内で迷ったりもするよな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アリアの心配を取り除くために、我々生徒会メンバーも飼い猫捜索を手伝う事になった。

 

「エティエンヌの捜索隊を結成する!」

 

「何処からさがしましょうか」

 

「食べ物の匂いで誘ってみようと思うの」

 

「というわけで、エティエンヌの好物を用意しました。トリュフと鯛のムニエルとモッツァレラチーズの生ハム包みです」

 

「……本当に猫の好物なのか?」

 

「疑いたい気持ちはわかります……」

 

 

 私たちが普段食べているものよりも明らかに高級な食材が出てきて、私たちは猫を羨んだ。まぁ、そんなことしても意味はないので、別の作戦も実行する事にした。

 

「エティエンヌの為に、萩村家の愛犬、ボアにも来てもらった」

 

「猫くんの私物があれば、匂いで追えます」

 

「んー……そうだ! エティエンヌが愛用してるぬいぐるみがある」

 

 

 そう言ってアリアが取り出したぬいぐるみは、妙なところがほつれて、穴が開いていた。

 

「この不自然な穴は、綻びですよね?」

 

「エティエンヌはそこを噛むのが好きなんだ~」

 

「へー……」

 

 

 萩村は深くツッコむことを諦めて、そう返すのが精一杯だったようだ。

 

「ふむ。スパッツはお尻のラインが出て良いですね」

 

「なにっ!?」

 

 

 いつの間にか私の背後に周っていた出島さんが、私のヒップラインを見て生唾を呑んだ。相変わらずの変態だな。

 

「出島さんは前を歩いてください」

 

「仕方ありませんね……ふむ。前から見えるお尻も良いですね」

 

「何処までも尻好きだな! というか、真面目に探せよな」

 

「あぁ! タカトシ様に叱っていただける快感! もっと叱ってくださいませ!」

 

「ホント、ダメだこの人……」

 

 

 タカトシが呆れながら首を振ると、不意に何かを見つけたように上を見詰める。

 

「アリアさん、行方不明の猫くんって、あの子ですか?」

 

「あっ、いた! あんな所に登って……」

 

「降りられなくなっていたんですね」

 

 

 確かに高い所だし、子猫では降りるのに勇気がいるのかもしれないな。

 

「梯子の用意だ!」

 

「ロープはありますので、誰を縛りますか?」

 

「今一刻を争うので、そういうのは後にしてください」

 

 

 私が出島さんにツッコミを入れている間に、タカトシがするすると木に登ってエティエンヌに手を伸ばす。

 

「ほら、怖くないぞ。こっちにこい」

 

 

 タカトシの匂いを嗅いで、一瞬躊躇ったが、結局エティエンヌはタカトシの手の中に納まった。

 

「よし、良い子だ」

 

 

 タカトシはエティエンヌを抱きかかえながら木を降りてきた。

 

「エティエンヌ! 心配したよ」

 

「良かったですね、無事で」

 

 

 タカトシがエティエンヌを地面に降ろすと、アリアに向かって走り出す。アリアもエティエンヌを迎え入れ、頬ずりする。

 

「それにしても、相変わらずの運動神経ね……」

 

「そうかな?」

 

「普通人間でも躊躇う高さよ?」

 

「昔コトミに付き合わされて、もっと高い場所まで登った事があるから、これくらいなら大丈夫だよ」

 

「アンタ、ほんと苦労してるのね」

 

「あはは……まぁね」

 

 

 頬を掻きながら、タカトシがため息でも吐きそうな雰囲気で萩村に頷いた。

 

「皆様。エティエンヌを探していただき、誠にありがとうございました。ささやかではありますがお礼としてお菓子を用意いたしましたので、ぜひお召し上がりくださいませ」

 

「大したことしてませんが、せっかくのご厚意ですし、いただきます」

 

 

 タカトシと萩村にも同意を得て、私が代表で出島さんの申し出を受ける。七条家のささやかは当てにならないから、少し身構えてしまうんだよな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 タカ兄が出かけているので、これで好き放題出来ると思ってたんだけど、お義姉ちゃんが監視でやってきた。

 

「タカ兄め……全然私を信用してくれてないな」

 

「むしろコトミちゃんの何処を信用すればいいのですか?」

 

「ですよねー……はぁ」

 

 

 自分でも信用する箇所がないという事は分かっているのだが、改めて人に言われると心に響くものがあるんですよね……

 

「とりあえず、宿題を片付けてから遊んでください」

 

「えっ、遊んでいいんですか?」

 

「宿題を片付ければ、ですけどね」

 

「よーし! それじゃあさっそく……っ!? お義姉ちゃん」

 

「はい?」

 

「一問目から問題が何言ってるか分かりません……」

 

「社会のプリントですよね?」

 

 

 それだけ理解力が低いという事なんだけど、お義姉ちゃんは呆れた顔で私を見詰めてきました。これがタカ兄だったら大洪水だっただろうな……




出島さんは空気を読もう……

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