桜才学園での生活   作:猫林13世

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いろいろと残念ですから


崖っぷちの二人

 横島先生に呼び出された私は、用件を伝えられてすぐに生徒会室に駆け込んだ。

 

「大変だー!」

 

「ムツミ? ノックぐらいしなさいよね」

 

「あっ、ゴメン……」

 

 

 駆け込んだ所為でスズちゃんに怒られちゃった……

 

「それで、何が大変なの?」

 

「そうだった! 今度のテストで赤点だと、冬休み丸々補習だって言われちゃった……」

 

「まぁ、妥当じゃない? 散々部活補正で何とかしてもらってたんだから、そろそろ危なくなってもおかしくはないと思ってたし」

 

「そうなの?」

 

「何でアンタが知らないのよ……」

 

 

 スズちゃんが呆れながらツッコミを入れてきたけど、そんなこと私が知るわけ無いじゃないの……

 

「それで? 何で生徒会室に駆け込んできたのよ。急いで帰って勉強すれば良いじゃないの」

 

「私一人じゃ補習を回避出来る自信がないから、スズちゃんに手伝ってもらおうと思って……」

 

「何で私? タカトシでも良いじゃない」

 

「タカトシ君はほら、妹さんの相手があるから」

 

「アンタにまで心配されるコトミっていったい……」

 

「とりあえず、勉強教えてください」

 

「授業をちゃんと聞いていれば理解出来るでしょうが」

 

「私はスズちゃんやタカトシ君のように、頭の出来が良いわけじゃないので、そんなことありません」

 

「威張っていう事じゃないと思うんだけど」

 

 

 スズちゃんは呆れながらも私に席を勧めてくれて、そこからスパルタで勉強を教えてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 テストが近づいてきたので、なんとなく家にいづらくなったので逃げだそうとしたけど、早めに帰ってきたタカ兄と、今日も手伝いに来てくれたお義姉ちゃんに捕まり、私は部屋で勉強をさせられている。

 

「嫌々やったって覚えるわけ無いじゃん!」

 

「だったら嫌々じゃなく、真剣にやればいいだろ」

 

「やりたくありません!」

 

「言い切ったな……だが、そんなことで逃がすと思ってるのか? そもそもお前自身の事だろうが」

 

「はい、頑張ります……」

 

 

 タカ兄に睨まれて、私は大人しく課題に取り組もうとしたが、相変わらず問題が何を言っているのかが分からないのだ。

 

「タカ兄、これって何て言ってるの?」

 

「……英語じゃないだろ」

 

「化学なんて出来なくたって問題ないでしょ?」

 

「必修科目なんだから、出来なければ問題だ」

 

「世間に出れば何の意味もないってば!」

 

「お前はその世間に出られるかどうかの瀬戸際なんだからな?」

 

「申し訳ありませんでした」

 

 

 どう考えてもタカ兄と私とでは、持っている手札が違い過ぎる……これじゃあ勝ち目はないよね……

 

「タカ君、お客さんです」

 

「客? 何方ですか?」

 

「シノっちとアリアっちです。何でも生徒会の書類に不備があったとかで」

 

「そうですか。では義姉さん、コトミの見張りをお願いします」

 

 

 タカ兄はシノ会長たちの相手をするために下に行ったけど、代わりにお義姉ちゃんが私の隣に腰を下ろした。

 

「コトミちゃんが頑張れば、タカ君ももっとバイトに使える時間も増えるだろうし、そうなればコトミちゃんのお小遣いも増えるかもよ?」

 

「むしろ減らされないように頑張らないといけない状況ですけどね~」

 

「分かってるなら、そんなに気楽に言うものじゃないと思うけど?」

 

「分かってはいるんですけど……ほら私って、追い込まれないと力を発揮出来ないタイプなんですよ~」

 

「既に崖っぷちだと聞いていますが? これ以上どうやって追い込むと言うんですか」

 

 

 お義姉ちゃんに睨まれて、私は身体を縮こまらせる。確かに留年するかしないかの瀬戸際、もっと言えば退学にリーチという追い込まれようなのだから、これ以上どう頑張っても追い込むことは出来ないだろうな……

 

「そうそう、タカ君が言っていたんですけど」

 

「何ですか?」

 

「次の試験で成績が揮わなかったら、家を出て自立してもらうって」

 

「えぇ!? 自立なんて出来るわけ無いじゃないですか! 私に家事をさせたら、余計に酷い状況になるって事はタカ兄が一番よく分かってるはずなのに!」

 

「そうでもしないとコトミちゃんが一生タカ君に付きまとうと思ったから、お義姉ちゃんも賛成しておいたからね」

 

「酷いっ!? というか、それって本当なんですか?」

 

 

 私を脅す為にお義姉ちゃんが考えた嘘、という可能性もあるんじゃないかと思って尋ねたんだけど、お義姉ちゃんの表情は真剣そのものだった。

 

「まだ半月あるんだから、頑張って勉強しようね。お義姉ちゃんも手伝うから」

 

「半月も家で勉強したくないです……」

 

「じゃあ、大人しく家を出るの?」

 

「そんなことしたら、一週間で死ねる自信があります」

 

 

 なんとも情けない事だと、私だって分かってるけども、タカ兄に捨てられたら私は生きていけないだろう。

 

「だったら頑張らないと。とりあえず、ゲームとかは押し入れにしまって……これは?」

 

「あっ! それは、その……ちょっとした好奇心と言いますか……」

 

「まぁ、タカ君には黙っておいてあげるけど、こんなものを買ってるからお小遣いがなくなるんだよ?」

 

「はい、気をつけます……」

 

 

 新境地開拓を目指して買ってみた同人誌をお義姉ちゃんに見つけられて、私は何とも恥ずかしい思いをしながら課題に取り組む。もっとしっかりと隠しておけば良かったよ……




ムツミは兎も角、コトミは成長してもすぐ元に戻るからな……

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