桜才学園での生活   作:猫林13世

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犬にも悟られる飼い主


ボアの散歩

 体育の時間で足を挫いてしまい、私は今生徒会室の椅子に座っている。短時間歩く分には問題ないのだが、なるべく安静にしているようにと言われてしまったのだ。

 

「大丈夫か、萩村」

 

「えぇまぁ……ですが、この後ボアの散歩をする予定だったのですが、どうしようかとちょっと悩んでいます」

 

 

 一日くらい散歩しなくても問題ないだろうけど、あの子は散歩が好きだからな……また逃げ出して勝手に散歩されると大変なのよね。

 

「散歩くらいなら俺が代わりにさせようか? 今日はバイトもないし、義姉さんが家に来てくれるから家事の心配もないし」

 

「そうなの? じゃあ、お願いしようかな」

 

 

 タカトシならボアも懐いてるし、問題なく散歩もこなせるだろうな。

 

「そういう事なら、私も手伝おう」

 

「私も~」

 

 

 ……あれ?

 

「何で四人で散歩させてるの?」

 

「俺に聞くなよ……」

 

 

 一度家に帰って私服に着替えてきたタカトシがボアの散歩を行う予定だったんだけど、何故か同じように私服に着替えてきた会長と七条先輩がやってきて、それじゃあ私もという流れで、ボアの散歩は私たち四人で行う事になってしまったのだ。

 

「スズちゃん、抜け駆けはダメだよ」

 

「なんのことですか? 私は家で留守番してる予定だったんですが」

 

「というか、何でついてきたの? 足痛いんでしょ?」

 

「うん……でも、なんとなく一人じゃ寂しいかなって」

 

 

 三人で散歩してる中、私は家で一人じゃハブられてるみたいで寂しかったからついてきたと言い張る。本当は会長と七条先輩が抜け駆けするんじゃないかと思って監視についてきたのだけど……

 

「そういえばボア君、今日は歩く速度がゆっくりじゃない?」

 

「きっと萩村が足が痛い事を察して、歩く速度を落としてるんだろう」

 

「飼い主の事を察するなんて、頭いいんだね~」

 

 

 七条先輩と会長がボアの頭を撫でようと私たちの側を離れボアの側による。存分に撫でてもらった後、ボアは私とタカトシの周りをぐるぐると周り、足にリードを絡ませてきた。

 

「こら! 私たちの周りをぐるぐるするな!」

 

「あれも察してるのか?」

 

「そうだと思うけど、タカトシ君は問題なく抜け出しちゃってるから意味ないんじゃない? あっでも、倒れたスズちゃんを抱っこしてるから、意味あったのかもしれないけど」

 

「聞こえてるぞ!」

 

 

 何だか子供扱いされた気がして大声を出したけど、タカトシが心配して顔を覗き込んできたせいで勢いを殺がれてしまった。というか、顔が近くて恥ずかしいな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 散歩の途中で、なんだか見知った二人組を見つけて声をかけた。

 

「コトミとトッキーか……買い食いとは感心しないな」

 

「帰りが遅いと思ったら、こんな所で油を売っていたのか……もう義姉さんが待ってるから、早く帰れ」

 

「ちょっとした息抜きだよ~……はっ! ちょっと血肉の匂いに誘われて……ところで、皆さんはこんなところで何を?」

 

「足を痛めたスズちゃんの代わりに、私たちがボア君の散歩をしてあげる事になったんだ~」

 

「でもスズ先輩いるじゃないですか」

 

 

 コトミのツッコミに、私たちは小声で事情を話した。

 

「――と、言うわけだ」

 

「つまり、自分のウチなのに一人でお留守番が出来ないスズ先輩が勝手についてきちゃったんですね」

 

「アンタも同じようにしてやろうか?」

 

「じょ、冗談ですよ! まったく、スズ先輩には私の冗談はレベルが高過ぎたみたいですね。タカ兄とあの二人が一緒に行動するのを見過ごせなかったんですよね?」

 

「んなっ!?」

 

 

 コトミが小声で萩村に何かを伝えたが、私たちには聞き取れなかった。だが萩村が大人しくなったという事は、恐らく図星を突いたんだろうな。

 

「というか、お前たちが食べてるのを見て、私たちも小腹がすいてきたぞ」

 

「何か食べる?」

 

「ならあそこの肉まん、結構いけますよ」

 

 

 コトミが肉まんを齧りながらお薦めしてくる。くそぅ……ダイエット中だというのに、食べたくなってきてしまったではないか。

 

「なら俺が買ってきますよ。何個いります?」

 

「四人だし、四つで良いんじゃないか?」

 

「いえ、俺は食べませんので」

 

「タカ兄、肉まん嫌いだっけ?」

 

「いや、夕飯が小籠包の予定だから」

 

「先に言ってよっ!?」

 

 

 まさかの夕飯と似たような物だったとは思わなかったのだろう。コトミが大袈裟に驚いてみせたが、恐らく聞いていても食べただろうな……

 

「というかコトミ、こんな所で油を売ってる余裕があるのか? 次駄目だったら退学なんだろ?」

 

「ま、まだ留年ですよ?」

 

「何故疑問形……というか、それでもダメだろ」

 

「早く帰って勉強した方が良いよ~? カナちゃんも待ってるんでしょ~?」

 

「うっ……」

 

 

 よっぽど勉強したくないのか、コトミがその場に片足をついて蹲った。というか、その恰好でも肉まん食べるんだな……

 

「買ってきました……それで、コトミは何をしてるんだ?」

 

「もう一人の私を降臨させようと」

 

「ふざけるのもいい加減にして、さっさと帰って勉強しろ」

 

「はーい……トッキー、帰ろ」

 

「あぁ、失礼しました」

 

 

 二人が帰るのを見送って、私たちはタカトシが買ってきてくれた肉まんに齧りついたのだった。




コトミは少し焦ろうぜ……

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