桜才学園での生活   作:猫林13世

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何でもある七条グループ


ミステリーツアー 出発

 カナ会長と共に、私も七条家主催のミステリーツアーに参加する事になり、今はバスの中で説明を受けているところだ。

 

「皆さんこんにちは。ミステリーツアーのガイドを務めさせていただく出島サヤカです。原則として目的地は明かせませんので、先の見えぬ旅ですがゆるりとお楽しみください」

 

 

 出島さんの説明を聞いたコトミさんが、なんだか自分に酔ったような表情で呟く。

 

「先の見えぬ旅……私たちの人生のよう」

 

「『たち』じゃないからな」

 

「そうだな。この歳ともなれば、将来の目標くらい皆あるだろう」

 

「うん」

 

「そうですね」

 

「確かに」

 

 

 タカトシさんのツッコミに、天草さん、七条さん、萩村さん、カナ会長が同意する。するとコトミさんの表情が見る見るうちに蒼ざめていきました。

 

「というか、コトミは先の事より直前の事を気にしなければいけない状況だからな……」

 

「冬休みの宿題は、ある程度終わらせたよー!」

 

「俺と義姉さんが散々苦労して、だろ?」

 

「その節は大変お世話になりました」

 

 

 カナ会長とタカトシさんに頭を下げたコトミさんは、何とかして二人の視線から逃れようと席を移動しました。元々タカトシさんの隣にコトミさんが座っていたので、空いた席を全員が狙っているように見えたので、私はさりげなくタカトシさんの隣に腰を下ろして、タカトシさんを休ませようとしたのですが、どうやらその事を理解してくれたのはタカトシさんだけのようでした。

 

「また森なのか!」

 

「サクラちゃん、ちょっと抜け駆けが過ぎるんじゃないかな?」

 

「たまには会長に譲ってくれても良いんじゃないかな?」

 

「所詮森さんもタカトシ目当てなんですね」

 

「いや、その、あの……」

 

 

 私がなんて言おうか悩んでいるのを見て、タカトシさんがため息を吐いて私の代わりに説明してくれました。

 

「サクラさんは、俺の隣を皆さんが狙っているのを察知して、騒ぎにならないように自分が座って俺を休ませる目的だっただけで、皆さんが懐いているような不純な動機から来る行動ではないのですが?」

 

「というか、サクラ先輩以外が座ったらタカ兄が疲れちゃうって、私でも分かりますよー? もちろん、この私が隣でもね!」

 

「いや、カッコよくないからな?」

 

 

 キメ顔でそういったコトミさんに、タカトシさんが呆れ顔でツッコミを入れた。

 

「そういうわけですので、皆様。今後席の移動は禁止致します」

 

「仕方ないか……まぁ、タカトシに負担をかけているのは間違いないからな」

 

「自覚があるなら、もう少し努力してください」

 

「これでも大分我慢してる方だろ? 昔はもっと酷かったと自覚しているんだが」

 

「まぁ、確かに……」

 

 

 タカトシさんの前では下ネタを控えているらしいのですが、咄嗟に出てしまう事がまだあるようで、タカトシさんはその都度ツッコミを入れているらしいのです。それ以外にも、生徒会作業中に脱線したり、生徒会顧問である横島先生にお説教したり、アルバイトしたり、コトミさんの勉強をみたりと、タカトシさんには気の休まる時間があまりないのです。

 

「とりあえず移動中くらいは休ませてあげましょうよ」

 

「サクラっち。私は信じてたからね」

 

「思いっきり疑ってたじゃないですか」

 

「そ、そんな事ないですよー?」

 

「視線が明後日の方を向いてますが?」

 

 

 白々しい会長の態度に、私は盛大にため息を吐き、タカトシさんに同情的な視線を向けられたのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばらくカラオケなどで盛り上がっていると、急にバスが停まってしまった。

 

「何かあったんですか?」

 

「分かりません。ちょっと運転手に確認してきます」

 

 

 さっきまで歌っていた出島さんが急に真面目な表情で立ち上がり、運転手に確認しに行った。

 

「まさか、こんな所で放り出されるのか? 外は雪が降っていて野宿は無理だろうし、バスの故障だとすると、暖房は動かないだろうし」

 

「そ、それは困りましたね。私、暖房が無いと死んじゃう生き物なんですけど」

 

「そんな生き物がいるわけ無いだろうが!」

 

 

 ……ん? そういえば、アリアが危険な目に遭うかもしれないというのに、出島さんは随分と落ち着いていたように見えたが……もしかして、そういう演出なのだろうか?

 

「確認が取れました」

 

「どうでしたか?」

 

「どうやらエンジンの故障のようでして……これ以上先には進めないようです」

 

「それは困りましたね」

 

 

 カナが何処か白々しい口調なのも、私と同じ結論に至っているかもしれないな。

 

「あっ! あそこを見てください!」

 

 

 出島さんもわざとらしい態度で大声を上げて、窓の先を指差す。

 

「あんな所に洋館が! あそこに避難させてもらいましょう」

 

「ミステリーの定番ですね~。あの洋館で誰かが殺され、疑心暗鬼になって一人で行動して更に死体が……ってやつですね~」

 

「アンタ、知識偏ってない?」

 

「そんなこと無いですよ~。ところで、スズ先輩は怖くないんですか~?」

 

「べ、別に怖くなんて無いわよ! というか、子供扱いすんな!」

 

「痛っ!?」

 

 

 萩村をからかって遊んでいたコトミだったが、萩村に脛を蹴り上げられて悶絶し始める。とにかく、これがミステリーツアーの流れだというのなら、大人しくあの洋館に向かうとするか。




この面子で森さん以外がタカトシの隣だとね……

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