桜才学園での生活   作:猫林13世

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昨日はすみませんでした


急な雨

 野暮用で英稜高校を訪れたのだが、帰る頃には雨が降っていた。

 

「雨か……予報では降らないと言っていたはずだが」

 

「思いっきり降ってますね……」

 

 

 カナと二人で空を見上げてため息を吐いていると、後ろから楽しそうに話す二人の声が聞こえてきた。

 

『――というわけなんですよ』

 

『それは災難でしたね』

 

『笑い事じゃないですよ』

 

『ははっ、すみません』

 

 

 生徒会室に忘れ物をした森とタカトシの会話だが、端から聞いている限りでは、既に恋人同士のような会話に聞こえるな。

 

「あれ? 会長たちまだ帰ってなかったんですか?」

 

「サクラっち、貴女は私の右腕だけど、タカ君の右手になっちゃ駄目だからね」

 

「はい?」

 

「おっと、ちょっと難しかったですかね。つまり、タカ君の恋人になりたいなら、まずは私を倒してからにしてもらおうか!」

 

「……コトミの厨二が移ってませんか?」

 

「お義姉ちゃん、認めないからね!」

 

「はぁ……」

 

 

 カナの暴走を呆れた顔で見ていたタカトシだったが、その視線が外に向けられて、私たちが帰っていなかった理由に納得したようだった。

 

「雨ですか」

 

「つまり、会長たちは傘が無くて困っていたと」

 

「それもあるが、お前たちを置いて先に帰るのも悪いと思ってな!」

 

「それはすみませんでした」

 

 

 少しばつが悪そうに頭を下げたタカトシに、私は頭を掻きながら明後日の方へ視線を向ける。

 

「(森と二人きりにさせたら、そのまま次の日には付き合ってるかもと思ってたなんて言えるわけ無いよな)」

 

「シノっち、顔が雄弁に語ってますよ」

 

「何っ!?」

 

 

 カナにツッコまれて、私は慌てて手鏡で自分の顔を確認する。

 

「別に変じゃないぞ?」

 

「やーい、引っ掛かったー!」

 

「騙したな!」

 

 

 逃げるカナを追いかけようとしたが、濡れるのは嫌だなと思い躊躇してしまった。カナも同じ考えだったのか、屋根がある場所を逃げ回っている。

 

「あの……早いところ帰りませんか?」

 

「そうしたいのは山々なんですが、傘がありませんので」

 

「私、置き傘してありますので。良ければ使ってください」

 

「えっ、でもそれじゃあサクラっちが」

 

「大丈夫です! こういう時の為に、二本用意してますから」

 

 

 鞄から折り畳み傘を取り出した森の用意の良さに、カナが感嘆の息を漏らした。

 

「でも、折り畳みじゃ二人は入れないし、一人は濡れちゃうよね」

 

「大丈夫ですよ。俺も傘持ってますし」

 

「タカトシもかっ!?」

 

「えぇ。コトミに持たせるついでに。義姉さんの鞄にも入れたはずですが」

 

「えっ?」

 

 

 タカトシの言葉に驚いたカナが、慌ててカバンの中をまさぐると、確かに折り畳み傘が出てきた。

 

「さすがタカ君! お義姉ちゃん嬉しいです」

 

「まぁ、コトミに入れさせたので、本当に入っているか不安ではあったんですが」

 

「ということは、傘を持っていなかったのは私だけか……なんだか私が準備不足みたいじゃないか」

 

 

 天気予報では雨は降らないって言っていたし、実際に傘を持っていない生徒の方が多く見受けられるのだが、この場に限って言えば、私が少数派になってしまった。まぁ、タカトシと森の用意の良さは私たちも知っているがな。

 

「では天草さん、この置き傘を使ってください。次に会う時返してくれればいいので」

 

「あっ、それだったら一度タカ君の家に寄って、そこでシノっちに別の傘を貸せばいいんじゃない? サクラっちの傘は、私が後日返せば早いし、シノっちはタカ君に傘を返せばそれで良いわけだし」

 

「ウチに、ですか? まぁいいですけど」

 

「ではいきましょう! ちょうど美味しいお菓子があるので、お茶にしましょうか」

 

「寛ぐ気満々ですね」

 

 

 タカトシのツッコミに、カナはチロリと舌を出して誤魔化した。まぁ義姉という事で随分と入り浸ってるようだし、カナのお陰で私もタカトシの家に上がり込む口実が出来たというわけだ。

 

「それじゃあさっそく、私たちの家に行きましょうか」

 

「ちょっと待て! いつの間に津田家がカナの家になったんだ」

 

「だって私はお義姉ちゃんですから、あの家が私の家だと言っても過言ではないと思いますが」

 

「異議あり! お前はあくまで義姉だろうが! あの家に住んでいるわけでも、タカトシと付き合ってるわけでもないのだから、お前の家だという事は大げさだ!」

 

「シノっち、そんなに私があの家に入り浸っている事が気に入らないのですか? あの家には私の一週間分の着替えや、私物の類も置いてありますから、私の家といえなくはないと思いますけど」

 

「あぁ、だから見覚えのない洗濯物が増えたのか」

 

「タカトシさんにも内緒だったんですか?」

 

「その方がタカ君も驚くと思って」

 

「待て待て! カナの服をタカトシが洗濯してるのか!? それはさすがにマズいんじゃないか!」

 

「別に、ただの洗濯物ですし」

 

「……お前はそういうやつだったな」

 

 

 普通の男子高校生なら、カナのような美人の義姉のパンツなどで発散するのが普通だろうが、こいつは男子高校生の前に主夫だったのをすっかり忘れていた……アリアの脱ぎたてのパンツですら、洗濯物としか見ないんだから、カナのパンツじゃそんな事しないよな……

 

「随分と失礼な事を考えてますね」

 

「べ、別にそんな事ないぞー」

 

 

 あからさまな棒読みだったが、タカトシは深く追求してこなかった。こいつはこういうところも弁えてくれるからありがたい。




主夫にとってただの布切れ

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