酔いつぶれてしまった横島先生の代わりに、我々生徒会役員が校内の見回りをする事になった。
「早速始めるとしようか」
「そ、そうですね……早いところ終わらせちゃいましょう」
そう言えば萩村は、暗いところが苦手だったな。加えてそろそろ眠くなる時間だし、何もなく終わればそれほど時間もかからないだろうな。
「タカトシは私の右腕だから、右側に立ってくれ」
「分かりました」
「アリアは私の前、萩村は私の後ろだ」
「は~い」
「わ、分かりました」
萩村の返事が若干震えているような気もするが、タカトシがいればだいたいの事は解決出来ると思うんだがな。
「ところでシノちゃん。私とスズちゃんの配置理由は?」
「萩村はこういう場面が苦手だろうから、出来るだけ私の背後で大人しくしてもらおうと思って、アリアは歩くたびに揺れるそれを見たくなかったから……」
「び、ビビッてませんからね!」
「そんなに目立つかな~?」
アリアが自分の胸に視線を落とし不思議そうに首を傾げる。私の気持ちは恐らく、持たぬ者の嫉妬なのだが、男子生徒の殆どがアリアが通り過ぎると前かがみになっているのだから、必ずしも嫉妬でそう見えているわけではないのだろうな。
「次は二階だ。暗いから足下に気を付けるのだ」
「はい」
「うん」
懐中電灯は私しか持っていないし、夜目が利くタカトシ以外は踏み外すかもしれないからな。しっかりと注意してから私たちは階段を登った。
「ここって確か、タカトシたちの教室だよな?」
「そうですけど?」
「今何か物音がしたような気が」
「そ、そんなこと言って怖がらせようとしても――」
萩村が私に抗議しようとしたタイミングで、物音が教室内から聞こえてきた。
「ひゃっ!?」
物音に驚いた萩村がタカトシに飛びついたが、タカトシは特に反応もせずに教室の扉を開けた。
「三葉、何してるんだ?」
「へっ、ムツミ?」
姿を確認するまでもなく犯人が分かっていたようだな……さすがタカトシと言うところか。
忘れ物を取りに学校に忍び込んだのは良いけど、あっという間に見つかってしまった……これって、内申に響かないよね?
「忘れ物を取りに来たのは分かったが、だからといって忍び込んじゃ駄目だろ?」
「申し訳ありません」
「職員室に忍び込んだのなら兎も角、教室ならそこまで強く咎める必要もないでしょう」
「だからと言って、お咎め無しでは問題だろ?」
「だったら、三葉も一緒に見回りをしてもらう、という事で如何でしょう? その方がスズも安心でしょうし」
タカトシ君と会長の間で私に対する罰が話し合われていたけど、何故かいきなりタカトシ君にデートに誘われた。
「男の子に夜景の散歩に誘われるなんて……」
「何か都合のいい解釈をしてない? 一応罰だからね、コレ」
「す、スズちゃん……顔が怖いよ?」
「別に、普通よ」
スズちゃんから鋭い視線を受けながらも、私はタカトシ君からのお誘いを受けて、生徒会の皆さんと見回りをする事にした。
「よし、次は体育館だな」
「何だかノリノリだね~、シノちゃん」
「夜の学校はなんだかテンションが上がってな。何かあるかもしれないだろ?」
「あったら困るから見回りしてるんだろうが」
タカトシ君のツッコミに、会長と七条先輩はバツが悪そうに頭を下げている。これだと、誰が一番偉いのか分からないね。
「特に異常は無さそうだな」
「一応、ステージの方も見てみよう」
タカトシ君から逃げるようにステージに向かった会長と七条先輩だったけど、特に何もなかったのですぐに戻ってきた。
「後はもう一周して宿直室に戻るだけだな」
「それじゃあ、私はここで――わっ!?」
見回りも終わったようなので帰ろうとしたら、何かに躓いてコケそうになってしまった。
「おっと」
「た、タカトシ君……」
「暗いから気を付けて」
「う、うん……ゴメンね」
私も鍛えてるけど、こういった時男の子の方が頼りになるって思っちゃうのは、相手がタカトシ君だからなのかな?
「え、えっと……皆さん、顔が怖いんですけど?」
「三葉、まさかわざとコケたんじゃないだろうな?」
「そ、そんな事ありませんよ。というか、何でわざとコケる必要があるんですか?」
私の問い返しに、会長たちは視線を彷徨わせ始めた。何を言い淀んでるのか分からなくてタカトシ君に聞こうと思ったけど、タカトシ君も呆けた顔をしてるから、多分分からないのかな。
三葉を校門まで送った後、俺たちは宿直室に戻った。さすがに目が覚めていた横島先生が、勢いよく正座して俺たちに頭を下げてきた。
「見回りお疲れさまです! 飲み物どーぞ!!」
「先生、これからは気を付けてくださいね?」
「ははーっ」
宿直中に酒を呑むのはどうかと思うが、多分俺たちがいたことで気が緩んだのだろう。俺はそういう事にしてこれ以上説教をする事はしなかった。
「あのぅ、私炭酸苦手で……」
「じゃあ交換するか? と言っても、私のも炭酸だが」
「私のも~」
「ほら」
スズから炭酸の缶を受け取り、オレンジジュースの缶を手渡す。子供っぽいと手を伸ばさなかったはずなのに、結局はスズがオレンジジュースを飲んでいると、横島先生が笑いを堪えているのを見て、スズは先生の足の甲を思いきり踏んづけたのだった。
炭酸苦手な人って苦労しそうですね……