生徒会室に入ると、シノ会長が机に突っ伏していた。
「どうかしたんですか?」
「最近どうにもストレスが溜まっていてな……ヤンチャでもしたい気分なんだよ」
「ストレス、ですか?」
「自分で言うのもあれだが、学園内で優等生として通っているが、時としてそれが大きなストレスとなるんだ。だから偶にヤンチャしてガス抜きしたくなる気分になるんだ」
「ハァ……」
日ごろからかましているボケはヤンチャに入らないのだろうか……今日だけでシノ会長に十三回ツッコんだんだがな……まぁ、エロボケが無くなった分成長はしているんだけど、出来る事ならボケるのも止めてもらいたいんだが。
「というわけで、タカトシにはこの風船を持ってもらいたい」
「何処から取り出したんですか?」
やけに用意が良すぎる気がしたが、会長の気が紛れるのなら付き合うとするか……
「てい」
「!?」
突如取り出した針で風船を突き刺したので、咄嗟に身構えてしまう。だが風船は割れる事無く元の形を保っている。
「ひっかかったな。テープを貼っておけば針を刺しても割れないのだ!!」
「あぁ……」
自慢げに語る会長を見て、俺はそう答えるしか出来なかった……というか、これってヤンチャなのだろうか? ただの実験にしかなってないような気もしないでもないが……
『パチ』
「ん?」
今何か、火花が散ったような音がしたような気がしたんだが……
『パァン!』
「わぁ!?」
「あっ、静電気か……」
静電気が発生した所為で風船が割れ大きな音がした。俺はそれ程驚かなかったが、会長がびっくりして腰を抜かしてしまった。
「大丈夫ですか?」
「あ、あぁ……ちょっと衝撃が強すぎて転んでしまった」
「ちょっとシノちゃん? 大きな音がしたけど、何をしてたの?」
「何やらスクープの香りが」
「どんな匂いだ……」
慌てて飛び込んできたアリア先輩とスズと一緒に、畑さんまでもが生徒会室に飛び込んできた。最近忘れられているが、この部屋って関係者以外立ち入り禁止だったような気も……
「お騒がせして悪かったな。ちょっとガス抜きをしようとしたらこんなことになってしまって……」
シノ会長が申し訳なさそうに頭を下げたのを見て、アリア先輩とスズは納得したような顔をしているが、畑さんは何かを考え込んでいるように思えた。
「会長、メディアは真実を伝えるのが務めですが、今回は見なかったことにします」
「畑……すまんな」
何やら悪だくみをしてるのではないかと疑ってしまったが、どうやら見なかったことにしてくれるようだ。畑さんも成長して――
「放屁プレイはマニアックすぎますし」
「そのガスじゃないぞ!?」
――なかったな……
「曲解して新聞に載せるつもりなら、貴女を説教しなければいけないのですが?」
「大丈夫ですよ。新聞に載せるつもりも、誰かに話すつもりもありませんから」
「大丈夫だと言い切るなら、そのメモは何に使うんですかね?」
「あっ、これはその……」
畑さんのメモ帳には『会長、生徒会室でガス爆発?』という、少し意味が分からない見出し風の一文が書かれていた。
「畑……お前とはゆっくり話し合う必要がありそうだな」
「じょ、冗談ですので……こんなメモこうしちゃいますから」
慌てた畑さんは、メモ用紙を破り捨て、ぐちゃぐちゃに丸めてゴミ箱に投げ入れた。もちろん、ダミーを疑ったが今回は本物だったようだ。
「さすがに反省しました……これからは真実のみを追い求める事を誓います」
「そうしてくれると、我々としても大いに助かるんだがな」
最後に会長から釘を刺され、畑さんは頭を下げて生徒会室から出ていった。
「まったく……畑の曲解癖には困ったものだ」
「ところで、何で風船なんて割ったの?」
「割るつもりは無かったんだが、乾燥してた所為で静電気がな……」
「そっか~」
「というか、何で風船なんて持ってたんですか?」
「さっきも言ったが、ちょっとガス抜きとしてヤンチャしようと思ったんだ。だからテープを貼った風船をタカトシに持たせ、針を刺して驚かそうとしたんだが……結局驚いたのは私だったな」
「俺は静電気が発生した音が聞こえたので、ある程度身構えられましたから」
会長に忠告しようとしたけど、その前に割れてしまったからな……会長には申し訳ない事をしたかもしれない。
「タカ兄、会長がガス爆発を起こしたって本当?」
「何だその話は……誰から聞いたんだ?」
「さっき畑先輩が『ここだけの話』だって教えてくれたんだけど、ガス爆発を起こした割には生徒会室が綺麗だね」
「風船が割れただけだからな」
「何だ……それじゃあ私は先に帰ってゲームでもしようかな」
「宿題はどうした?」
「小学生じゃないんだから、そう毎日宿題なんて出ないって。今日はお義姉ちゃんも来ないから、一人で勉強してもはかどらないしね~」
「誰かがいれば勉強しようと思えるようになっただけ成長か……」
相変わらず一人では勉強しようとしないけど、誰かに見られれば渋々ながらも勉強するようになったのだ。これでも成長していると思える自分が情けないが、とりあえずは善としておこう、うん……
すぐに人に話す畑さん……