早朝会議があるから遅れないようにと昨日通達しておいたのに、未だにアリアが登校してこない。忘れているのかと電話を取り出したタイミングで、アリアが生徒会室に駆け込んできた。
「ごめん、遅れたー!」
「アリアが遅刻とは珍しいな」
「ちょっと寝坊しちゃって……」
「寝坊か」
アリアが寝坊するのも珍しいが、出島さんならそこまでギリギリの時間までアリアを起こさないなんてことがあるだろうか?
「車で行こうと思ったらパンクして使えず、自転車使おうとおもったらキーが見つからずで……」
「それはついてないですねー」
萩村が「それでは仕方ない」と言いたげな口調でアリアに同情する。確かに走ってきたなら多少遅れたのも仕方ないのかもしれないな。
「いっそのこと馬で登校しようと思ったけど、さすがに出島さんに止められたよ」
「ん?」
今、馬と言ったか……? 個人で馬など所有しているのだろうか……
「疑うなら放課後ウチに来てよ。紹介するから」
「よし! 放課後は七条家で馬を見ようじゃないか!」
「会議は良いのかよ……」
腕時計を見ながらため口のツッコミを入れてきたタカトシのお陰で、私は会議を忘れる事無く開始する事が出来たのだった。
放課後になり、生徒会メンバーを連れて私は乗馬場へとやってきて、馬に乗って見せた。
「本物の馬ですね」
「本当だったのか……」
スズちゃんとシノちゃんがポカンと口を空けて驚いているけど、タカトシ君は最初から疑ってなかったので、素直に私の乗馬スキルを褒めてくれた。
「アリアさんは、さすがに慣れてるようですね」
「これでもこの子の飼い主だからねー」
馬から降りてシノちゃんたちとお話ししようと側を離れると、代わりにタカトシ君が馬に近づいて手を出した。
「馬って近くで見ると可愛いですね」
タカトシ君が出した手に、大人しく顔を近づけ、そしてその手に触れた。
「おや珍しい」
「うん」
「何がですか?」
出島さんと二人で珍しがっていると、タカトシ君が不思議そうに尋ねてきた。
「ゴールデンドルフィン、私にしか懐かないんだけど……相性がいいのかな?」
「どうなんでしょうね?」
何となく恥ずかしい雰囲気になり、私はタカトシ君から視線を逸らした。
「まぁ、私のペットは絶対に他人に靡かない自信があります」
「具体的な事を言ってないのに分かっちゃう自分が恥ずかしい」
何だかスズちゃんが恥ずかしがってるけど、いったい何があったんだろう……?
何でも出来ると思われがちのタカトシ様も、さすがに乗馬は出来ないようで、ぎこちない態勢でゴールデンドルフィンに乗っています。
「タカトシ君、猫背になっちゃ駄目。馬の背中に対して垂直に座るとバランスが取れるよ」
「なるほど」
お嬢様に指導してもらっているタカトシ様の図、というのも新鮮な気がしますが、私は素朴な疑問を懐きました。
「何で背中を丸めると猫背というんでしょうね?」
「見たままを表現しているのでは?」
私が呟いた疑問に、萩村様が答えてくれましたが、その答えに私は異議を唱えた。
「私の知っているネコは姿勢が良いんですけどね」
「そっちのネコじゃない!! しかも犬じゃん!!」
「おや? よく私が思い浮かべた映像が分かりましたね。もしかして萩村様も――」
「違う! 断じて違う!」
私が萩村様をからかって遊んでいる間に、タカトシ様はみるみる上達していました。しかもいつの間にかお嬢様も後ろに乗せているではありませんか。
「さすがタカトシ君。上達も早いねー」
「アリアさんの指導のお陰ですよ」
何だかいい雰囲気が漂っている気がしますが、お嬢様がバランスを崩してタカトシ様の背中に胸を押し付けてしまうと、さすがにタカトシ様が気まずい表情を浮かべました。
「その……当たってます」
「あっゴメン!」
「いえ、揺れた所為だと分かってますから」
普通の男子なら前かがみになっていたであろう状況でも、タカトシ様は紳士的な対応でお嬢様をフォローしていました。
「これが天草様や萩村様なら、気付かれること無く心配されただけだったでしょうね」
「「喧嘩なら買ってやろうじゃないか!」」
私が二人同時にからかうと、その声が聞こえたのかタカトシ様とお嬢様がゴールデンドルフィンに跨ったままこちらにやってきました。
「何を騒いでるんですか?」
「いえ、ちょっとした戯れです。お気になさらずに」
「はぁ」
何となく察しがついたのか、タカトシ様は深く追求することなくゴールデンドルフィンから降りました。
「それにしても、綺麗な白馬だな」
「ありがとー。お気に入りなんだー、この子」
「子供の頃、白馬に乗った王子様を夢見たもんだ」
「あるある」
「大きくなったら、それは夢の存在だって分かっちゃいましたけどね」
乙女ムード漂う会話に、タカトシ様はただただ黙って聞いているだけでした。
「白木馬に乗った小父様なら実在しますよ」
「シルエットじゃ白かどうか分からないじゃないですか」
「スズ、ツッコミどころが違うんじゃないか?」
「というか、よくシルエットで思い浮かべたと分かりましたね。やはり萩村様も――」
「違うと言っているだろうが!」
こうしてロリっ子を散々からかって、私は潤いを得たのでした。
萩村が毒されてる気が……