畑さんに呼び出されて、私たちは生徒会室に集まっていた。
「それで畑よ、いったい何の用だ?」
「生徒会役員の皆さんに、新聞部の企画を手伝ってもらえないかと」
そう言って畑さんは、企画書をテーブルの上に置いた。
「お昼休みの放送にボイスドラマ?」
「はい。脚本私、出演は皆さん。前後編に別れて生放送を」
「面白そうだな」
「声だけで演技って、なかなか難しそうですよね」
「気持ちを込めれば相手に伝わるさ! それに私たちの声は――」
「おっと、危ない発言はそこまでだ」
会長が何を言おうとしたのか、あえて追及はしないけど、タカトシ、ナイス!
「それで、内容はどんな感じなんですか?」
「これが台本。まだ前編しか完成してないけど、後編もあと少しで完成するのでご心配なく」
「恋愛ものですか」
畑さんが渡してきた台本に目を通すと、内容は両親の再婚によって義理の三姉妹が出来た男子が主人公のようだった。
「これ、生徒会メンバーの名前をもじってるんですか?」
「身近な恋愛をネタにした方がリアリティがありますから。主人公のタカヒコ役を津田君が、長女のシズノ役を天草会長、次女のマリア役を七条さん、三女のスズコ役を萩村さんにお願いしたいと思っています」
「名前的にそれが妥当だろうな。私がアリアの姉役なのがちょっと気になるが」
私も何で三女役なのか気になるけど、とりあえず配役も決定したので、さっそく放課後に稽古する事になったのだった。
台本の読み合わせをするという事で、今日の生徒会活動は延期になり、俺たちは演技の練習をする事になった。
「タカヒコ、今晩は何を食べたい」
「カット。今の所、親しみを出す為に愛称で呼んでください。呼び方は会長にお任せします」
「えっ!?」
何をそんなに驚くことがあるのだろうか……愛称なら義姉さんが使ってるもので良いと思うんだけどな。
「た…タカ君……」
「ん? なんだって?」
「もっとはっきり言ってくれないと」
「た…くん……」
「聞こえないですね~。もっとお腹から声を出してくれないと」
「個人の名前を卑猥な言葉を言わせる感じにするのはやめろ。というか、アリア先輩も畑さんと一緒に遊ぶな」
「「ごめんなさい」」
とりあえず二人を黙らせ、会長には愛称呼びになれてもらう為に一度脇にそれてもらった。
「じゃあ次は私の番だね」
アリア先輩がやる気満々で俺の前に立ち、そして読み合わせを始めた。
「タカちゃん。ブラのホック引っ掛かっちゃって……外してくれる?」
「はぁ」
「カット。津田副会長、素が出てます。タカヒコは純情キャラですから、もっとしどろもどろな感じにしてくれないと」
「はぁ……」
しどろもどろにと言われても、この間義姉さんに似たような事をやらされたばかりだからな……恥ずかしいと思う前にわざとなんじゃないかと疑ってしまうのだ。
「じゃあもう一回。タカちゃん、ブラのホックが引っ掛かっちゃって……外してくれる?」
「え…えぇ!?」
「いい感じですね。しかし、津田副会長がブラ程度でしどろもどろになるのは、見ていて楽しいですね」
「人で遊ぶな」
さすがに着けている状態のブラを見れば、俺だって普通の反応は出来るんだが……もちろん、わざとらしくなければだが。
「では最後は萩村さんですね。ここは一人演技ですから、自分のタイミングでどうぞ」
スズがやるシーンは、タカヒコとシズノが親しくしているところを目撃し、息を切らしながら走る続けるシーンだ。
「はぁ…はぁ…」
「臨場感を出す為に、ここで効果音を入れましょう」
そう言って畑さんがレコーダを取り出し、スズの演技に合わせて音を出した。
「はぁ…」
『クチュ』
「はぁ…」
『クチュ』
「何の音だこれは!」
スズが激高して畑さんのボイスレコーダーを取り上げた。本当に、何の音だよ……
翌日前編を放送し、成功と言える結果を収めた。
「凄い面白かったです! 続き、どうなるんですか?」
「それは明日のお楽しみだ」
「くーっ! 続きが気になって今夜眠れないかもしれません!」
「そう言って授業中に寝るなよ」
「はいぃ……」
興奮状態のコトミに、タカトシが冷水の如き冷たい口調で釘をさすと、一瞬でコトミの興奮は収まった。
「そう言えば、畑さんって今日風邪で休んでるんですよね?」
「あぁ。この調子だと明日は中止になるな」
「ところがどっこい。何とか九割まで完成させました。後は皆さんのアドリブでお願いします……」
「畑っ!」
咳き込みながら台本を渡してきた畑に驚きながらも、私は気になることを尋ねる。
「完成してない一割の内容は?」
「告白シーン。相手は津田副会長が選んでね」
「わざと完成させなかったんじゃないだろうな……」
「いえいえ、良いエンディングが思い浮かばなかったので、津田先生の御力をお借りしようとか考えていませんからねー」
「明後日の方を見ながら棒読みで言われても説得力がないわ! まぁ、明日までに考えておきますが」
「「「っ!」」」
タカトシの言葉に、私たち三人が身構える。これはフィクションだが、選ばれた者が最もタカトシとの距離が近いという事とイコールになるのではないかと思ったからだ。これはなんとしても負けられないぞ。
ここのタカトシはフィクションの告白程度ではたじろがない