お昼のラジオ放送にボイスドラマをやったのは良いが、肝心の告白シーンはアドリブになってしまった。セリフがアドリブなのではなく、誰に告白するのかも一任されてしまい、俺は少し悩んでいた。
「タカトシが悩み事とは珍しいね」
「お母さん……お帰りなさい」
「またすぐに出るけどね」
出張から帰宅した両親がいる事も忘れて、俺は考え込んでいたようだった。お母さんだけではなく、お父さんも心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。
「タカ兄、誰に告白するか悩んでるんだよね~」
「伝えるなら正確に伝えろ」
横から口を挿んできたコトミを睨みつけると、コトミは肩を竦めてリビングから逃げ出した。アイツが説明するつもりが無いと分かった為、俺は悩んでいた理由を両親に告げる。
「――というわけで、ちょっと考えていただけ」
「相変わらずタカトシはモテモテだね。父さん、ちょっとだけ羨ましいぞ」
「ん?」
「いや、何でもないです」
お母さんに睨まれ、お父さんはすごすごと新聞に逃げた。睨まれると分かってるんだから、口にしなければよかったのに……
「まぁ、あんまり親らしい事をしてあげられてないから説得力が無いかもしれないけど、タカトシが一番好いと思う子にすればいいよ」
「いや、実際に告白するわけじゃ――」
「分かってる。もちろん、実際に告白する時も、タカトシが選んだ子なら母さんたちは何も言わないわよ」
お母さんに肩を叩かれ、俺はある意味吹っ切れたのかもしれない。とりあえず、ボイスドラマを完成させるために、誰に告白するのが一番か考えるか。
フィクションとはいえ、タカトシが誰かに告白をする。その事が昨日から頭の中を占領して、私はずっと上の空だった。
「スズちゃん、おはよー」
「ネネ、おはよう」
「ボイスドラマの続き、楽しみにしてるよー」
「みんな物好きね。今日だけで三人目よ」
教室に来るまでに二人に聞かれているので、私は辟易といった感じでネネの問いをはぐらかし席に着いた。
「スズちゃん、そこ私の席なんだけど」
「おっと、私としたことが」
「スズちゃんも浮かれてるんだね」
「そんな事ないわよ」
「ひょっとして、フィクションだけど津田君に告白されるかもって期待してるの?」
「そんなんじゃないわよ!」
「スズちゃんって分かり易いよね~。あっ、津田君だ」
「っ!」
タカトシが来たというネネの言葉に慌てて振り返ると、そこには柳本と話しているタカトシがいた。どうやら向こうもボイスドラマの事を聞かれている様だった。
「みんな気になることは一緒なんだね」
「まぁ、実際にタカトシが誰かに告白するとなれば、女子も男子も興味が湧くでしょ」
女子は誰が選ば選ばれるのかに、男子は選ばれなかった子を狙おうとか考えるのでしょうけどね。
「兎に角、私たちもどういう結末になるのか分からないから」
「そうなの?」
「肝心の告白シーンが完成してないから」
私は畑さんの体調や台本が未完成であることをネネに話し、自分の席に腰を下ろし――
「スズちゃん、そこ私の席だよー?」
――間違えてムツミの席に腰を下ろしてしまったのだった。
昨日タカ兄が真剣に悩んでいた告白シーンは、アリア先輩を選んだようだった。
「タカ兄、何でアリア先輩を選んだの? やっぱりそのダイナマイトボディー?」
「別にアリア先輩を選んだわけでは無く、マリアを選んだだけだ。ストーリーの流れからして、シズノやスズコでは伏線が回収されないと思っただけだ」
「さすが津田先生。そこまで考えてくださったとは」
「というか、畑さんも最初からマリアエンドにするつもりだったのでは?」
「さて、どうでしょうか?」
「というか、全快してるんですから、それくらい教えてくれたっていいじゃないですか」
タカ兄がちょっと圧の強い声を出すと、畑さんは素直にタカ兄の考えが正しい事を認めた。
「タカヒコは巨乳好きですから、どう考えてもマリアを選ぶに決まってるじゃないですか。シズノやスズコと対してる時と、マリアと対してる時とでは、どう見ても気持ちの変化が出てますから」
「だったら変な期待をさせるなー!」
「会長、これはフィクションですよ? 告白したのはあくまでもタカヒコであって、津田副会長ではありませんが」
「そ、それはそうかもしれないが……」
「まぁ実際津田副会長が巨乳好きかどうかは知りませんし、伏線などを無視して他の二人を選ぶ可能性もありましたからね。津田副会長が話の流れを読んだ結果が今回のエンディングというわけです。そこに津田副会長の気持ちが含まれているかは、私には分かりませんから」
畑さんがまた三人を暴走させるように話を向けると、タカ兄がこめかみをひくつかせながら畑さんに迫る。
「仮病まで使って何がしたかったんですかね?」
「よりよい放送になればと思っただけで、今回は商売などしてませんよ?」
「何故疑問形なのでしょうか? まぁ、畑さんの考え通りに事を進めたので、今回は何も言いません、俺は」
タカ兄が「俺は」という言葉を強調した事に疑問を覚えたのだが、その疑問はすぐに解消された。
「畑、少し話をしようじゃないか」
「私も付き合いますよ、会長」
シノ会長とスズ先輩が、畑さんの首根っこを掴んで空き教室に引きずっていったのだった。それを見送った私とアリア先輩は、特に合図も出さずに同時に合掌したのだった。
既に全員にフラグ建ってますし