桜才学園での生活   作:猫林13世

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疲労は溜め込むとこうなる……


タカトシ、ダウン

 珍しくタカトシが風邪を引いたらしく、本日の生徒会室はいつも以上に騒がしかった。もちろん、萩村がストッパー役を頑張ってくれたのだが、タカトシ程の効果はなく、私とアリアはふざけまくったのだった。

 

「おや、シノっちではありませんか」

 

「カナ。タカトシの家の前で何をしてるんだ?」

 

 

 生徒会を代表して私がお見舞いに来たのだが、津田家の前でカナと遭遇した。

 

「私は今学校から帰ってきたところです。今日はタカ君が風邪を引いて寝込んでいるというので、いろいろとお手伝いに来たのです。そういうシノっちこそ、どうしたんですか?」

 

「私は生徒会を代表してタカトシの見舞いに来たんだ」

 

 

 アリアや萩村も来たがっていたが、じゃんけんをして私が代表を務める事になったのだ。決してずるはしていないからな。

 

「しかし、タカトシが風邪を引くなんて珍しい事もあるんだな。何があったんだ?」

 

「コトミちゃんの悪ふざけの結果としか聞いていませんが、相当な事をしたんだという事だけは分かりました」

 

「あのタカトシが風邪を引く悪ふざけか……少し興味があるな」

 

 

 一年の頃は、環境に慣れていなくて風邪を引いたこともあったタカトシだが、ここ最近はダルそうにはしていたが本格的に寝込むようなことは無かったからな。

 

「とりあえず、中に入りましょう。今の時間、タカ君はまだ寝てるはずですから」

 

「お邪魔します」

 

 

 カナに案内され、私は津田家の中に入るのだった。

 

「あれ? シノ会長、いらっしゃい」

 

「コトミか。タカトシの具合はどうだ?」

 

「タカ兄、さっきまで起きてたんですけど、また寝ちゃったみたいですよ。心配かけないように家事をしようとした私を必死で止めてたんですけどね」

 

「コトミちゃん、お願いだからこれ以上タカ君に無理をさせるのは止めて」

 

 

 割かし本気のカナの注意に、コトミも本気で反省しているようだ。

 

「さっきタカ兄にも似たような事を言われました……」

 

「それじゃあ私は家の事を片付けるので、シノっちはタカ君のお見舞いを済ませちゃってください。その後、時間があるならコトミちゃんの宿題を見てあげてくれると、凄く助かるのですが」

 

「そうだな。ほぼ家族であるカナにここは任せて、私はコトミの勉強を見てやることにするか」

 

「だ、大丈夫ですよ? 自分で何とか出来ますから」

 

「お前が立派になれば、タカトシの負担が減るんだ。さぁ、グダグダしてないで部屋に行くぞ!」

 

 

 コトミを引っ張ってタカトシの部屋に入り、寝ているのを確認してからコトミの部屋に向かった。

 

「……この惨状は何だ?」

 

「片づけをしてたら何故だか散らかっちゃうんですよね」

 

「うん……まずは掃除からだな」

 

 

 この有様では宿題どころではないからな。私はコトミと二人で部屋の片づけを開始したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 久しぶりに熱を出して寝込んだ所為か、いろいろと考える事が出てきた。一つは、コトミの今後についてだ。

 

「(今のままだと、無事に卒業出来るかの前に、進級出来るかなんだよな……)」

 

 

 成績は常にギリギリ、下手をすれば留年もあり得るのだ。両親不在が多いせいか、コトミは何かにつけて俺を頼り、自力で何とかするという事を諦めてしまっている節がある。かといって俺が見捨てれば、すぐにでも退学処分が下されてもおかしくない所まで、コトミの評価は下がっているのだ。

 

「(このままだと、自分の事に時間を割く余裕なんて出来ないよな……)」

 

 

 いつだったか義姉さんに聞かれた「彼女は作らないのか?」という質問に対する答えを思い返し、俺は思わず苦笑いを浮かべてしまった。

 

「(コトミを斬り捨てれば、時間なんていくらでも作れるのかもしれないけど、両親からコトミの事を頼まれてるし、身内を見捨てるのも忍びないし……って、俺は誰に言い訳をしてるんだろうか)」

 

 

 時間が無いという事を理由にして、俺は皆の好意から逃げているだけなんじゃないだろうか。最近そんな事を考えてしまう。

 

「(この間のボイスドラマの告白相手を考えてた時からか? こんなことを考えてしまうようになったのは)」

 

 

 フィクションだからと割り切っていたはずだが、どうも心の中の靄が晴れずに残っている感覚がある。

 

「(こんな事で悩んでたから、コトミの悪戯に対しての反応が遅れたんだろうな……)」

 

 

 風呂掃除を頼んで様子を見に行くと、コトミが水シャワーを俺に向けて発射したのだ。普段なら躱せたんだろうが、考え事をしながら様子を見に行ったせいで、一瞬反応が遅れ、全身水浸しになったのだ。すぐに身体を乾かしたが、どうやら相当溜まっていた疲れと相まって、この有様なのだ。

 

「(体調が悪いから、こんなことで頭を悩ませてるんだろうか?)」

 

 

 心の靄が晴れないのも体調の所為だと決めつけ、俺はなんとか思考を切り替えようと頭を振った。

 

「(ん? 隣の部屋からシノ会長の気配が……下には義姉さんの気配も……心配をかけてしまったようだな、反省しなければ)」

 

 

 何とか明日には体調を治して、シノ会長と義姉さんにお礼と謝罪をしなければと心に決め、俺はもう一度横になって休むことにした。




自分の事を考える余裕がなかったからなぁ……

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