桜才学園での生活   作:猫林13世

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結局疲れるのは一人だけ……


臨海学校、終了

 臨海学校最終日、水族館にやってきた。最早遠足との違いが分からなくなってきているが、楽しそうにしている人が多いのでツッコミは入れずにおこう。

 

「ペンギンだー!」

 

「カワイイ物を見てると口元緩んじゃうよね」

 

 

 向こうで三葉、スズ、轟さんがペンギンを見て表情を緩めている。確かに可愛いし気持ちは分からなくはないが、学校行事という事を忘れてないか?

 

「お嬢様、こちらにタコがいます」

 

「触手モノを見ると口元引き締まるな」

 

「ですが抵抗虚しくねじ込まれてしまう」

 

 

 出島さんと横島先生が固い握手を交わしているけど、あの二人は無視しておこう。というか、もう少し純粋に海洋生物を見れないのかあの人たちは……

 

「シノちゃん、こっちの水槽凄くキレーだよ」

 

「壮観だな」

 

「デートスポットに最適だね」

 

「それでカップルが肩を組んで――」

 

「タカ兄、見てみて~!」

 

 

 会長の言葉を遮るようにコトミから声をかけられ、俺はそっちに視線を向ける。そこには――

 

「それは満身創痍で勝利した主人公だろ」

 

 

 時さんの肩に腕を回しサムズアップするコトミの姿があった。確かそんなシーンがあるアニメを、義姉さんとコトミが見てたのをチラッと見た記憶がある。

 

「それにしても、水族館って久しぶりに来たよ~。こうやって楽しめるなら、もう少し来てても良かったかもしれないね」

 

「相手がいないからじゃないか? 女友達と来ても虚しいだけだろ」

 

「確かにデートスポットに同性同士で来ても寂しいかもしれないね~。ところで会長、そう言った経験がお有りなのですか?」

 

「……ないよ! 悪かったな!」

 

 

 コトミの反撃に、シノ会長が涙ながらに答えた。別にあったって偉いわけじゃないんだから、そこまで悔しがらなくてもいいんじゃないだろうか……

 

「タカ兄、あっちにラッコがいるんだって」

 

「あんまりはしゃぐなよな。他のお客さんに迷惑だから」

 

「大丈夫だって! それに、ここのラッコはガラス越しに手を合わせてくれるって有名なんだって」

 

「そうなんですか?」

 

「あっ、カエデさん」

 

 

 コトミに注意していたら、背後からカエデさんがやってきた。どうやらラッコに興味が惹かれたようで、カエデさんも一緒にラッコのところへ向かう事になった。

 

「ホントだ、手を出してきてくれた……かわいい」

 

「こっちのラッコは貝を出してきました。これって貝合わせをしようってメッセージなのかな?」

 

「思い違いだ!」

 

「……貝合わせ?」

 

 

 コトミのボケがイマイチ分からなかったので、ツッコミは時さんに任せたんだけど、どうやらろくでもない事であるのは確かのようだな……

 

「タカ兄はほんと下ネタに弱いよね~。そんなんじゃ、来るべき時に苦労するよ?」

 

「お前で苦労してるから、これ以上の苦労はないだろうな」

 

「それじゃあ、私はタカ兄の役に立ってるって事でいいの?」

 

「いいわけ無いだろ……」

 

 

 俺が力なくツッコミを入れると、カエデさんと時さんが力強く頷いた。そこまで同情されると、なんだか虚しくなるんだが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 臨海学校も終わり、私たちは帰りのバスに乗り込んだ。

 

「楽しかったね~」

 

「学校行事だったけど、確かに楽しかったな」

 

「会長、堅い事は言いっこなしですよ~。楽しかったか楽しくなかったかの二択なんですから」

 

「それもそうだな」

 

 

 珍しくタカ兄は疲れ切って寝てしまったので、私はシノ会長とお喋りをしていた。

 

「水族館で働くのって難しいんですかね?」

 

「どうしたんだ、いきなり」

 

「今日見てて動物と触れ合う仕事って楽しそうだなーって思ったので」

 

「大変な仕事だと思うが、コトミがやりたいと思ったのなら調べてみると良い。たぶんタカトシやカナが手伝ってくれると思うし、調べるだけならそんなに難しくは無いだろう」

 

「それはそうなんでしょうが……あそこまで疲れ切ったタカ兄を見ると、これ以上迷惑を掛けるのは妹だからといってもどうなんだろうと思いまして……」

 

「自分がタカトシの疲労の原因だという事は自覚してるんだな」

 

 

 会長に蔑みの目を向けられ、私は恥ずかしくなり視線を逸らす。幾ら私がおバカだからといって、タカ兄にどれだけ負担を掛けているかくらい自覚している――つもりだ。実際は私が思ってる以上に負担を掛けているのかもしれないけど……

 

「将来の事よりまずは、自立する事を目標にしたらどうだ? 試験の度にタカトシに迷惑を掛けてるんだろ?」

 

「はい……ですけど、タカ兄と私とでは頭の出来が違い過ぎますので、タカ兄に聞かないと私は点数を確保できないんですよ」

 

「もう少し努力して、それでも分からない箇所をタカトシに聞くようにするのはどうだ?」

 

「私が努力してもたかが知れてますので……時間を無駄にしない為にも、最初からタカ兄に聞くのが最も効率がいいんですよね……タカ兄に申し訳ないとは思っているのですが」

 

「そうか……それは重傷だな」

 

「何の話ー?」

 

「私が残念、という話です……」

 

 

 前の席に座っているアリア先輩に、私は端的に伝えた。それで伝わったのもどうかと思うけど、とにかく私が残念だという事は周知の事実だという事が分かったので、もう少し頑張ろうと決意したのだった。




休める時に休んだ方が良いですから

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