桜才学園での生活   作:猫林13世

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シノの張り合い方が……


子供会

 子供会の行事である芋煮会の手伝いをするために、我々生徒会役員は車に乗り込んでいた。

 

「みんな、シートベルトはしたかなー?」

 

「あっ、お姉ちゃん。シートベルトしなきゃ」

 

 

 私が確認の声をかけると、アリアの隣に座っていた子がアリアに注意をする。

 

「してるよー。胸に隠れちゃって見えないだけだよ」

 

「ほんとだー」

 

 

 アリアの答えに納得したようだが、私と萩村はその光景を見て衝撃を受けた。こうなったら……

 

「お姉ちゃん、シートベルトしなきゃ」

 

「してるよ。服に隠れちゃってるんだ」

 

「どうして中に入ってるの?」

 

「………」

 

 

 タカトシが私を何だか可哀想な者を見るような目で見ているが、きっと私がアリアに張り合った事がバレたんだろうな……

 

「それでは出発しますので、急に立ち上がったりはしないでください」

 

 

 運転手として同行してくれている出島さんの声に子供たちが元気よく返事をする。そんな中私と萩村は、何とも居たたまれない感じになっていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 会場に到着してすぐに、俺たちは野菜を切る事になった。さすがに子供に刃物を使わせるわけにはいかないという理由だ。

 

「野菜って、切る方向によって味が変わるんだぞ」

 

「そう言えばそうらしいですね。野菜の繊維に沿って切ったり、直角に切る事によって、味や食感が変わるって何かで聞いた事があります」

 

「さすがタカトシ。こういった雑学にも精通しているんだな」

 

 

 シノ会長に感心されたが、これくらいは知っていてもおかしくはないだろう。普段料理する側の人間として、最低限の知識だ。

 

「(ちなみに、挿れる方向で気持ちよさも変わります。きゅうりはこの角度で)」

 

「(お子様の耳に届かぬよう小声なのは感心しますが、食べ物で遊ぶんじゃねぇ)」

 

 

 ろくでもない事を耳打ちしてきた出島さんを注意して、俺は野菜を煮込み始める。

 

「タカトシ君、味見お願い出来るかな?」

 

「構いませんよ」

 

 

 アリア先輩から味見を頼まれ、俺は一口啜る。

 

「うん、美味しいですね」

 

「こっちもお願い」

 

「あぁ」

 

 

 今度はスズに頼まれ、俺は再び一口啜った。

 

「ちょっと甘味が足りないかもな……もう少しみりんを足して」

 

「分かった」

 

「タカトシ、今度はこっちの鍋の味見を頼む」

 

「何で皆さん俺に頼むんですか?」

 

 

 向こうに出島さんもいるし、三人とも料理上手なんだから、俺に頼まなくても良いと思うんだが……

 

「二人のは味見出来て、私のは出来ないって言うのか!」

 

「いや、そういうわけではないですけど……どれ」

 

 

 さすがにここで断るわけにもいかないので、もう一口啜る。

 

「こっちはちょっと薄味ですね。これはこれで悪くないと思いますが、好みが分かれるかもしれません」

 

「じゃあ、こっちは大人用にするか」

 

「そうですね。子供は味がしっかりしてた方が良いでしょうし、その鍋は大人用という事で」

 

 

 別にそこまで薄味というわけではないのだが、前の二つと比べると幾分か薄いのだ。子供の方が大人より味覚が優れているので、少しの違いでも揉めるかもしれない。今から味を足しても良いのだが、大人にはこれくらいがちょうどいいのではないかという事で、これはこのままにする事にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 タカトシの指示の許、完成した三つの鍋を取り分けて、私たちはいよいよ芋煮を食べ始める。

 

「おいしー」

 

「お姉ちゃんたち、料理上手なんだねー」

 

 

 はしゃぐ子供たちを見て、出島さんがしみじみと呟いた。

 

「私の同級生に、あれくらいの子がいるんですよね」

 

「そう言えば出島さんって、おいくつなんですか?」

 

 

 もう結構な付き合いだけど、出島さんのパーソナルデータって聞いてなかったので、この機会に聞いてみた。これが異性だったら失礼だとあしらわれたかもしれないが、同性という事もあって、出島さんはあっさりと答えてくれた。

 

「26です」

 

「そうですか」

 

 

 もう少し上かと思っていたけど、まぁ妥当な線よね……

 

「一桁目を伏せ字にすると哀愁感があり、二桁目を伏字にすると〇V感が出る数字です」

 

「急に何の話してるの?」

 

 

 せっかく話題が終わったと思ったら、変な事を言い出した出島さんを無視して、私は芋煮を食べる事にした。

 

「お姉ちゃん、あーん」

 

「ん? あーん」

 

 

 隣に座っていた女の子が箸を差し出してきたので、私はそれを受けるべく口を開けた。

 

「ぱくり」

 

「っ!?」

 

 

 まさかこんな子供にからかわれるとは思わなかったので、私は思わず驚いてしまった。

 

「随分と微笑ましい事をしているな」

 

「会長」

 

「どれ、私もタカトシに――」

 

「シノちゃん? いま聞き捨てならない事を言わなかった?」

 

「ちょっと、お話ししましょうか?」

 

 

 会長の肩と腕を私と七条先輩で掴み、そのまま引き摺って行く。

 

『お姉ちゃんたち、どうしちゃったの?』

 

『さぁ? 大事な話があるのかもしれないね。それじゃあ、片づけを始めようか』

 

『『『はーい!』』』

 

 

 タカトシが私たちに関わるのを止めて、子供たちと片づけを始めた。それはそれで何だか寂しいけど、とりあえずこちらに干渉しないのは助かるので、私と七条先輩は思う存分会長を問い詰めたのだった。




気付けば出島さんが年下になってる……

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