桜才学園での生活   作:猫林13世

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接待になってないんだよな……


生徒会への接待

 柔道部のミーティング中に、部費アップの件を思い出されて、私は項垂れて答える。

 

「現状で十分やって行けるだけの予算は割り振ってあるって言われちゃって……私の交渉術がダメなのかな」

 

「ウチのお父さんが言うには、交渉成功の鍵は接待らしいよ」

 

「それだ!」

 

 

 チリの言葉を受けて、私は生徒会室に向かう。

 

「明日お出かけしませんか!」

 

「ん? 三葉、今聞き捨てならない事を言わなかったか?」

 

「どうしてムツミちゃんがタカトシ君と明日、お出かけしなければいけないのかな~?」

 

「その辺り詳しく教えてもらいましょうか?」

 

「えっ? ……えっ!?」

 

 

 スケートに誘っただけでここまで怒られるとは思って無かった私は、会長と七条先輩、スズちゃんに凄まれて萎縮してしまう。

 

「まぁまぁ、それで三葉。なんでいきなりあんなことを?」

 

「実は、スケートの無料入場券が当たってたのをすっかり忘れてて……柔道部全員で使ってもあと四人来られるから、生徒会の皆さんを誘おうって話になったので」

 

「何だ、タカトシ一人を誘ったわけじゃないのか」

 

「まったく、紛らわしいわね」

 

「そういう話ならOKよ~」

 

「……また義姉さんに家の事を頼むしかないのか」

 

 

 さっきまで凄い顔をしていた三人はノリノリだけど、タカトシ君は何処か諦めたような表情を浮かべている。何かあるのかな……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 三葉に誘われて我々生徒会役員一同は、スケート場にやってきた。恐らく何か思惑があるのだろうが、タダで滑れるというなら断る理由も無かったしな。

 

「スケートにきたは良いが、小学生以来だから上手く滑れるかどうか分からないな」

 

「そうなの? まぁ私もあんまり得意じゃないけど」

 

「そうなんですか? それじゃあ、私が教えますよ」

 

 

 何やら気合いが入っている三葉に率いられて、私たちはスケートリンクに足を踏み入れ、ゆっくりと滑り始める。

 

「ほらほら、後三周!」

 

「体育会系過ぎるだろうが……」

 

 

 三葉が牽引するという時点でこうなる事は予想出来ていたが、まさかその通りになるとはな……

 

「タカトシは問題なく滑れるんだな」

 

「まぁ一応は……」

 

「というかムツミ、柔道部の連中が遊び始めてるけど、あれで良いの?」

 

「えっ? こらー! 遊びに来たんじゃないよー!」

 

 

 萩村が機転を利かせてくれたお陰で、私たちは三葉の体育会系指導から解放された。

 

「しかし、転ばずに滑る方法とかないのか?」

 

「まずはゆっくりと氷に慣れるところからですかね。それから徐々に滑っていき、最後は転ぶ恐怖に打ち勝つとしか言えませんかね」

 

「そうか……氷に慣れるところからか……」

 

 

 タカトシに言われても、私は氷に慣れるという感覚がイマイチよく分からない。滑りやすい状況でそんな事を考える余裕がないのかもしれないな……

 

「うわぁ!?」

 

「大丈夫?」

 

「あ、ありがとう……」

 

 

 私の横で盛大に転んだ萩村に、タカトシが手を差し出す。タカトシの方は純粋に助けてるだけなんだろうが、萩村の表情が雌になっているのが気になるな……

 

「きゃっ!?」

 

「アリアさんもですか? 少し意外ですね」

 

「どういう事?」

 

「アリアさんはお嬢様ですから、こういう事に慣れているのかと思ってました」

 

「スキーなら兎も角、スケートはあんまり得意じゃないんだよ」

 

「そうみたいですね」

 

 

 今度はアリアに手を差し出すタカトシ。普通なら下心全開なんだろうが、タカトシは純粋にアリアの事を心配しているから、怒鳴るに怒鳴れないしな……

 

「って、うわぁっ!?」

 

「シノさんまで……大丈夫ですか?」

 

「あ、あぁ……すまない」

 

 

 余計な事を考えていたからか、それとも二人に嫉妬した罰なのかは分からないが、私も盛大に転びお尻を打ってしまった。しかしまぁ、タカトシに心配してもらえたなら、この痛みも我慢出来なくはないかな。

 

「やっぱり三葉に指導してもらった方が――」

 

「いや、それは大丈夫だ!」

 

 

 あんな熱血指導、少し体験しただけでもうこりごりだからな……

 

「タカトシが見ていてくれれば、上達出来そうだから」

 

「そうだね~」

 

「というわけで、ちゃんと見ててね」

 

「はぁ……」

 

 

 イマイチ納得出来ていない様子だが、タカトシはその後しっかりと私たちを見ていてくれ、転ぶたびに手を差し伸べてくれたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 思う存分スケートを楽しんで、生徒会の皆さんと食事を済ませたところで、私は本来の目的を思い出した。

 

「(今日生徒会の皆さんを誘ったのは、部費アップの交渉をする為だった。なんで純粋にスケートを楽しんでたんだろう……)」

 

 

 普段から一つの事に集中して他の事が疎かになりがちだけど、こんな時にその癖が出なくてもいいじゃないの。

 

「あのっ!」

 

「部長、財布忘れました……」

 

「お金足りない。貸して……」

 

「………」

 

 

 トッキーとチリの言葉に、私は言い掛けていた言葉を飲み込んで生徒会の皆さんに頭を下げた。

 

「すみません。月曜日には必ずお返ししますので」

 

「気にしないで~。スケート場の無料券をもらったわけだし、ここは私が払っておくよ~」

 

「本当に申し訳ありません……」

 

 

 こんなんじゃ、部費アップのお願いなんて言い出せるわけがないじゃないの……




そして交渉は出来なかった……

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