いつの間に寝てしまったのか分からないが、布団で目を覚ました私は、朝なのに暗い事が気に掛かり、窓の外を覗いた。
「凄い雪だ!」
「会長? 雪なんて別に珍しい事は――」
「雪で宿が埋もれてるんだ」
「凄い雪だっ!」
私の言葉に驚いた萩村が跳びあがって窓の外を覗き込む。そりゃ宿が埋もれてるって聞けば驚くか……
「シノっち、どうかしましたか?」
「雪で宿が埋もれてるんだ」
「昨日の夜、そんなに降ったのでしょうか? ところで、私たちはいつの間に布団の中に?」
「恐らく、卓球場ではしゃぎすぎて疲れ果てたのだろう。タカトシが布団に運んでくれたんだと思うぞ」
「確か、お酒の匂いを嗅いだところまでは覚えてるんですが……やっぱりはしゃぎ過ぎたのでしょうか?」
「たぶんそうだ……そういう事にしておこう」
記憶が曖昧なのではっきりとは言えないが、間違っても飲酒したという事は無いはずだ。というか、そんな事になっていたら、タカトシが止めただろうしな。
「ところで、そのタカトシは何処に行ったんでしょうか?」
「サクラっちの姿もありませんし、まさか二人で抜け駆けデートを――」
「そんなわけ無いでしょうが。旅館の人に、どういう状況なのかを確認しに行ってたんですよ」
「タカ君、お義姉ちゃんは信じてたよ」
「思いっきり疑ってたでしょうが……」
タイミングよく部屋に戻ってきたタカトシと森から事情を聞き、私たちはとりあえず着替えてからラウンジに集まる事にした。
「記録的な大雪で停電か……これは帰れそうにないな」
「とりあえず今出来る事を考えましょう」
「そうだな! 現実的に考えて、まずは雪かきをするべきだろう」
「それじゃあさっそく――」
「アリア、雪の中でその恰好はさすがに止めとけ? タカトシに怒られるだけじゃ済まないぞ?」
「純白の下着とは、アリアっちも随分純情になってしまったのですね」
カナと二人でアリアの下着姿をじっと見ていたら、萩村から冷たい視線を向けられたので、私たちは急いで着替える事にしたのだった。
天草さんが考案するまでもなく、タカトシさんは雪かきをするつもりだったようで、一人先に道具を借りて雪かきを始めていました。
「さすがはタカトシだな。我々が言うまでもなく始めてるとは」
「起きた時点でこの状況は分かってましたので、雪かきはすべきだと思ってましたから」
「タカ君はえらいね。後でお義姉ちゃんがご褒美をあげる」
「いりませんよ」
「ちなみに、カナちゃんは何をあげるつもりだったの~?」
タカトシさんが断った時点で聞く必要は無いのだろうが、七条さんが会長にそう尋ねた。
「それはもちろん、私の初めてを――」
「させるかー! というか、破廉恥だぞ!」
「マッサージをしてあげるという意味だったんですが、シノっちはどんな『初めて』だと思ったんですか?」
「も、もちろんマッサージだと分かっていたぞ? というか、遊んでないでさっさと雪かきを済ませてしまおう」
「誤魔化しましたね」
天草さんが恥ずかしそうに顔を逸らして作業を再開したのをみて、会長が小さくガッツポーズをしてたのをタカトシさんは見逃してませんでした。
「義姉さんも遊んでないでしっかりとしてください」
「分かってますよ」
「実はこの雪、私が原因かもしれません」
「どういう事です?」
「実は私、雪女で、行く先々で雪が降るんですよ」
「そういう事ですか。でも、サクラさん一人の所為とは思えませんがね」
「そうですよ。ちなみに私も、この季節は行く先々で霜に塗れ『シモ女』って言われる」
「「それは皆そうだよ!」」
久しぶりにタカトシさんと揃ってのツッコミに、会長は何処か満足そうに作業に戻っていきました。
「何がしたかったんでしょうね?」
「サクラさんに分からないのに、俺が分かるわけ無いじゃないですか……義姉とはいえ、サクラさんの方が一緒にいる時間は長いわけですし」
「ですよね……」
二人揃ってため息を吐いてから、私たちも雪かきを再開する事にしました。
例の宿でのことが地方紙に載った事で、私は理事長から呑みに誘われた。
「泊り客の学生がボランティアで雪かき、横島先生の指導の賜物ですな。是非乾杯を」
「私が言わなくても、自主的にやってましたよ」
「いやいや、ご謙遜を。横島先生だって、カメラに目も向けずに雪かきをしているではありませんか」
「はぁ……」
理事長に褒められるのは嬉しいけど、私がカメラを視なかったのは、化粧してなかったからなんだけどな……
「横島先生が指導してくださる限り、我が校の生徒会は大丈夫ですな」
「いやーそれ程でもないんですけどね」
理事長も知ってるだろうが、生徒会で一番偉いのは顧問である私ではなく、副会長の津田なのだ。あいつが実質的な会長であり、生徒会顧問でもあるので、私や天草は津田の顔色を窺いながら発言しているのだ。
「我々も横島先生を見習わなければいけませんな」
「全くですな。今日は横島先生の実績を祝して、大いに呑みましょう!」
「あ、あはは……恐縮です」
津田に知られたらどんな目で見られるか想像して、思わず興奮してしまったのは、理事長たちには内緒だ。
横島先生も心の中では卑屈に