新学期に伴い新任の先生が来るらしいと、校内が微妙に騒がしくなっている。
「新しい先生が来るらしいな」
「会長もですか……」
「タカトシ君、なんだか疲れてない?」
「いえ……ここに来るまでに何人かに同じことを言われたので、またかと思っただけです」
誰が来ようが関係ないだろうが、と思ってしまうのは駄目なんだろうか……人によってやる気を出す出さないが変わるのは多少あるだろうが、結局は自分の為に頑張るのだから、教師が誰だろうがあまり気にしてないんだよな。
「それなら私、さっき見ましたよ」
「どんな人だった?」
生徒会室に入ってきたスズが、会長の興味を一手に引き受けてくれたから、少し余裕が出来た。
「若い女性でした」
「新しい先生は女性か」
「あと、背が高くて――」
「スズちゃん基準じゃ、本当に大きいのかどうか分からないね~」
「どういう意味だ!」
アリア先輩が盛大に地雷を踏み抜き、スズに追いかけまわされる。このやり取りも相変わらずだなぁ……
「若い女性という事は、またライバルが増えるかもしれないのか……」
「ん? 俺の顔に何かついてます?」
「いや、何でもない」
シノ会長が何を気にしているのか、あえて考えないようにしておこう……また面倒な事になるかもしれないし。
「そんなに気になるなら会いに行けばいいのでは? 今の時間なら職員室にいるでしょうし」
「そ、そうだな! よし! 今から職員室に行くぞ」
「シノちゃん、ノリノリだね」
「そうですね……七条先輩、後でゆっくりお話ししましょうね?」
「スズちゃんも気にし過ぎだって。今は何でもコンパクトになってる時代だし、スズちゃんも時代のニーズに合ってるのかもしれないよ~?」
「やっぱりはったおす!」
「落ち着け……先輩も、あんまりスズを挑発しないでください」
スズの肩を掴んで落ち着かせ、アリア先輩に注意を入れる。本来なら生徒会長がまとめ役のはずなんだが、シノ会長の意識は既に職員室に向けられているので、期待するだけ無駄だからな……
何だかずっと生暖かい視線を向けられているような気がしたが、私たちは職員室までやってきた。
「さて、新任の若い女性というのはどの人だ?」
「あっ、あの人です」
「なにっ!?」
萩村が指差した方に視線を向けると、確かに見慣れない女性が――ん?
「ひょっとして、小山先生ですか?」
「はい。貴女は……天草さん!?」
「やっぱり。お久しぶりです」
「お知り合いですか?」
私と小山先生が旧知の間柄だという事をいち早く察したタカトシが、後ろでそわそわしているアリアと萩村の為に声をかけてくれた。
「この方は小山先生。私が小学生の頃教育実習で来てた先生だ」
「会長って確か、その時も児童会の会長をしてたんですよね?」
「あぁ、まあ成り行きでな」
「天草さんも変わらないわね」
「そんな事は無いですよ。あの時よりも下発言は減ってますから」
「まさか、当時から……」
「やっぱり耳年増……」
タカトシと萩村が小声で話し合ってるのが聞こえ、私は慌てて話題を変える事にした。
「当時は小学校で実習でしたが、高校の先生になってたんですね」
「まぁ、いろいろあってね。ところで、そちらの人たちを紹介してくれる?」
「我が校の生徒会メンバーです。まずこのお嬢様っぽいのが七条アリア。見た目の通りお嬢様です」
「七条って、あの七条グループの?」
「一応跡取り娘って事になってます~」
「本当にいるのね、こんなお嬢様……」
小山先生が驚いているが、まぁ私も最初は驚いたな……良いところのお嬢様が、私と同じで乳首弄るのが好きだと知って。
「それからこっちの金髪少女が萩村スズ。生徒会の会計で、ほぼ暗算で計算をしています」
「萩村スズ、二年生です」
「よ、よろしくね」
萩村の威圧感に負けたのか、小山先生が一歩後退る……多分子供だと勘違いされないように威圧してるんだろうが、制服を着てるんだから高校生だって分かると思うんだが……
「それからこっちのデカい男子が津田タカトシ、副会長で私の右腕です」
「津田です」
タカトシは軽く会釈をする程度の挨拶で済ませ、小山先生も軽く頭を下げただけで終わった。
「おーい、生徒会役員共。私に出会いを寄越せ」
「何言ってるんですか?」
「えっと……あの残念な人が生徒会顧問の――って、小山先生!?」
横島先生を紹介しようとしたら、何故か小山先生が棒泣きしていた。
「ん? 天草、その人は?」
「新任の小山先生です」
「何で泣いてるんだ?」
「恐らく、横島先生同様出会いが無いのではないかと……」
共感するとしたら、そこしかないだろうしな……
「やっぱり出会い無いですよね」
「そうですよね」
「今夜、呑みに行きませんか?」
「良いですね。出会いが無い同士、今日は傷のなめ合いをしましょう」
小山先生が差し出した手を、横島先生がじろじろと眺める。
「……なめ合うようなSM傷、無いけど?」
「直球過ぎる……」
「まぁいいか。それじゃあ今夜」
「えぇ」
何だかいいコンビになりそうな二人だなと思っていると、タカトシが意味ありげな視線を小山先生に向けていた。
「(どうかしたのか?)」
「(いえ、横島先生を任せられるツッコミの人が来たなと)」
「(あぁ……)」
一瞬別の事かと思って心配したが、こいつはそういうやつだったな……
まぁ、完全に任せられるわけではないが……