帰宅途中で急に雨に降られ、俺とシノ会長は軒先で雨宿りをしていた。
「このくらいならすぐに止むかもしれませんし、家で雨宿りしていきませんか?」
「それは嬉しいが、構わないのか?」
「別に気にする人もいませんし、どうせコトミも濡れて帰ってくるでしょうから、そのついでで良ければ」
「ならお邪魔するか。ご両親は?」
「相変わらずです」
この前ちょっとの間帰ってきていたが、またすぐに出張に行ってしまったため、相変わらず俺とコトミの二人暮らしなのだ。
ダッシュで家まで帰ってきたが、予想以上に雨が強くなってきたので、シノ会長を余計に濡らしてしまった気分だ。
「結構濡れちゃいましたね。今タオルを持ってくるので、リビングで――」
「えっ?」
「はい?」
リビングと廊下を仕切る扉を開けると、何故かサクラさんがリビングで着替えをしていた。
「あらタカ君。お帰り」
「会長っ! タカトシさんが帰ってきた時、リビングに入らないように見張っててくれるのではなかったのですか!?」
「私もタオルを使おうと思って取りに行ってる間に、タカ君がラッキースケベを体験してたのよ。それより、タカ君は気配が分かるんじゃなかったっけ?」
「さすがに自分の家で気配を探ったりはしませんよ……」
外から誰か来るなら兎も角、先に家の中にいる人の気配を探ったりはしない。というか、義姉さんがいる事は鍵が開いていた事で分かってたが、まさかサクラさんまでいるとはな……
「一言連絡入れてくれればよかったのに」
「お義母さんに許可をもらったんだけど、タカ君には連絡がいってなかったんだね」
「何故母さんに……」
両親が既に出張に行った事は、義姉さんも知ってるはずなんだけどな……
何事も無かったかのように、タカトシはタオルを取りに部屋に向かったが、アイツさっき森の下着を見たんじゃないのか?
「洗濯物としてなら兎も角、着用してても興味が無いのか、アイツは」
「どうなんでしょうね? まぁ、タカ君をそこらへんの男子と一緒にしちゃ駄目ですよ」
「それはそうなんだが……あそこまで無反応だと、あっちの趣味を疑いたくなるだろ?」
「酷い言われようですね」
タオルを持ってきたタカトシが、若干引き攣った笑みを浮かべながら私たちの会話に加わってきた。
「だってそうだろ? 美少女が着用した状態の下着を見ても興奮しないなんて……まさかED!?」
「死にたくなかったら今すぐその口閉じろ」
「す、すまなかった!」
久しぶりに純度百パーセントの殺気を浴びて、私はすぐに頭を下げて脱衣所に逃げ込んだ。
「あ、危なかった……危うく失禁するところだった」
「シノっちが余計な事を言うから」
「何故カナまでここに?」
「私もタカ君の殺気から逃げてきたんですよ。というか、シノっちの隣にいたんですから、私だって殺気を浴びせられた気分です」
「それは悪かったな……というか、思い出したらまた脚が震えてきたぞ」
「冗談でもタカ君の事を弄るのは止めましょう」
「そう…だな……」
もう二度とタカトシの前で変な事を言わないでおこうと、私とカナは強く心に誓ったのだった。
タカトシさんが変に反応しなかったお陰で、私は大声を出す事も無かったけど、よくよく考えると私、タカトシさんに着替えをバッチリ見られたんだよね……
「思い出したら恥ずかしくなってきた」
意識しないようにしてたけど、一度意識してしまったら顔が熱くなっていくのを止められなくなっていた。
「サクラさん、どうかしましたか?」
「い、いえ……ちょっと思い出して恥ずかしがってるだけですので」
「あっ……ゴメンなさい」
「い、いえ……タカトシさんが悪いわけじゃないですから」
そもそもタカトシさんたちの家だと知っていて上がり込んで着替えてたわけだから、あれは私の不注意だ。会長が見張っててくれるというのを信じ安心しきってた所為で、タカトシさんが入ってくるのに気づけなかったのだし、タカトシさんはすぐに視線を逸らしてくれたのだから、必要以上に意識する方が悪いのだ。
「謝っても許してもらえるとは思ってませんが、やはり謝っておいた方が良いと思ったので」
「タカトシさんが謝る必要なんてないですよ。そもそも、会長の提案に乗った私が悪いんですから」
「いえ、それでもリビングに誰かいるかもと考えなかった俺の落ち度です。俺に出来る事があるなら何でもしますので、それで許してもらえませんかね?」
「何でも、ですか?」
「もちろん常識の範囲内で、ですがね。まぁ、サクラさんならそれ程常識外れな事は言わないと思ってるので、その点は安心してますが」
タカトシさんに信頼されているのは嬉しいですが、そういわれると何をお願いすればいいのか分からなくなってきますね……あっ、そうだ。
「それじゃあ、私の事も萩村さんみたいに呼び捨てにしてくれませんか? その代わりに、私もタカトシ君と呼びますので」
「まぁ、その程度で良いのなら構いませんが……」
「ついでに、敬語も止めましょうよ。もっと仲良くなりたいですし」
「……分かったよ、サクラ」
「うん、いい感じだね、タカトシ君」
何だか慣れないけど、これはこれでいい感じだと思います。
そしてまた、森さんが一歩前進