桜才学園での生活   作:猫林13世

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その噂は無理だろ……


噂の真相

 最近新聞部の畑の行動が目に余るという報告を受け、私は新聞部部室を訪れた。

 

「あら会長、何かご用でしょうか?」

 

「五十嵐から、最近お前がやりすぎているという報告を受けてな。注意しに来たんだ」

 

「それは心外ですね。私は日夜、世間が知りたがっている情報を得る為に行動しているのです。決して個人的趣味で動いているわけでは――」

 

「なになに? これは五十嵐の着替えシーンを撮ったものか?」

 

「申し訳ございませんでした!」

 

 

 私が畑のカメラを取り上げて映像データを呼び出すと、畑は観念したように頭を下げた。ちなみに、機械に弱い私が何故畑のデジカメを扱えたかというと、事前にタカトシと萩村からレクチャーを受けたからである。

 

「あまりやりすぎると、さすがに活動休止を宣言せざるを得なくなるからな」

 

「そうなると、津田先生のエッセイも発行出来なくなりますね」

 

「だから私が事前に指導しに来たんだろうが。タカトシが来る時は、新聞部廃部が決定した時だと思った方が良いぞ」

 

「それだけの権限を持っているわけですからね、津田副会長は……」

 

 

 今や理事長とも交流があるとすら噂されているタカトシだ。新聞部を活動停止にする事くらい簡単に出来るだろう。だが、最早学園の資金源にすらなりつつあるタカトシのエッセイが載っている桜才新聞が発行出来なくなるのは、学園としても避けたいのかもしれないので、タカトシが動く前に私が指導するように言われたのかもしれないな。

 

「では暫くは、タレコミBOXに入っていたモノから信憑性の高い物を載せる事にしましょう」

 

「ほぅ、そんなものがあるのか」

 

「はい。例えばこのようなものが」

 

 

 畑から手渡された紙には『理事長はズラ』と書かれていた。これは、根も葉もない噂なんだろうな。

 

「こうしてみると、面白いものとそうで無いものがはっきりしてるんだな……」

 

「まぁ、信憑性が高いものは、こちらも取材して確かめますからね」

 

「例えば?」

 

「風紀委員長が最近津田副会長の事を目で追っている回数が増えている、とか」

 

「それは私も感じてるな……」

 

 

 男性恐怖症であるはずの五十嵐だが、タカトシ限定でその症状が緩和されている――どころか、タカトシ相手だと雌の表情を見せる事すらあるのだ。

 

「ちなみにこれは私としては疑わしいのですが」

 

「何だ?」

 

 

 非常に興味がそそられる前置きをされ、私は畑の次の言葉を待った。

 

「天草会長は隠れ巨乳疑惑」

 

「それ本当。本人が言ってるんだから、な?」

 

「いえ、私は会長の裸を見た事があるわけですから、隠れ巨乳でない事は分かっているんですよね~。まぁ、あの時もサラシを巻いていたのなら貧乳に見えても仕方なかったのかもしれませんが、そんな物巻いていたようには見えませんでしたし」

 

「畜生っ!」

 

 

 そういえばコイツとは裸の付き合いをしたことがあったんだったな……というか、分かってたなら最初からそんな疑惑を持ち出すんじゃない!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 新聞部部長の畑さんを指導しに行ったはずの会長が、なんだか肩を落として生徒会室に戻ってきたので、私と七条先輩でその理由を聞きだす事にした。

 

「会長、新聞部部室で何かあったんですか?」

 

「いやなに、噂を流すのって難しいなって思っただけだ……」

 

「どんな噂~?」

 

 

 女子というものは噂話が好きな生き物なので、私も七条先輩も興味津々に会長の言葉を待った。

 

「新聞部宛に来るタレコミの中に、私が隠れ巨乳だという疑惑があったんだ」

 

「はぁ……」

 

 

 会長の言葉に、思わず私の視線が会長の顔から胸に下がる。間違っても会長の胸が大きいなんて事はあり得ないのに……

 

「何処を見ている!」

 

「まぁまぁ。それで、何でシノちゃんはガッカリしているのかな~?」

 

「噂の中でも、胸が大きいという気分を味わってみたかったのだが、畑に一刀両断されてな……『私は会長の胸を直に見た事があるので』と言われてしまった」

 

「温泉だったり、海だったりも一緒に行ってますからね」

 

「儚い夢だった……」

 

 

 よっぽど悔しいのか、会長はそのまま机に突っ伏してしまった。

 

「……ところで、タカトシは何処に行ったんだ?」

 

「タカトシ君なら、風紀委員本部に呼ばれたよ~。何でも、一年生男子の間でエッチな本が見つかって、その指導に駆り出されたんだよ」

 

「この間はクラスメイトたちで、今度は後輩か……まぁ、年頃の男子なら一冊くらい持っている物だろうが、学校に持ってくる必要は無いよな」

 

「てか、前にムツミが生徒会室に持ってきてましたね。部員が持ち込んだとか言って没収したやつを」

 

「あぁ、あれか」

 

 

 正直あんなもの見て何が楽しいのか私には分からないけど、未だに需要があるという事は必要な物なんだろうな。

 

「とりあえず、生徒会業務は私とスズちゃんで終わらせておいたから、後はタカトシ君が戻ってくれば今日の業務は終了かな?」

 

「何だ、二人で終わる量だったのか?」

 

「昨日の内にタカトシが殆ど終わらせてましたから」

 

「やはりアイツは優秀だな。会長の威厳もだいぶなくなってきた気がするよ……」

 

「落ち込み過ぎでは?」

 

 

 隠れ巨乳なんてありえないって知られてるんだから、そこまでショックを受ける必要もないと思うんだけどな。

 

「今、失礼な事を考えなかったか?」

 

「いえ、別に」

 

 

 タカトシが読心術なんて使うから忘れがちだけど、この人も勘が鋭いんだった……




人の夢と書いて、儚いと読む……

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