桜才学園での生活   作:猫林13世

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別に下着くらい……


初めてのおつかい

 見回りの為に廊下を歩いていると、畑が角から誰かを覗いていた。

 

「何をしているんだ?」

 

「風紀委員長がさっきから頭を抱えて悩んでいるので、何をしているのかを見張っているのです」

 

「いつものお前なら、すぐに特攻を仕掛けるのに、随分と慎重だな」

 

「ああやって頭を抱えて身体を前後させている風紀委員長の動画を加工して、イ〇〇チオ動画を作ろうかと――あっ何でもないです」

 

 

 タカトシが怖い顔をしたからか、畑は慌ててカメラをしまって五十嵐に特攻を仕掛けに行った。

 

「相変わらずおかしなことを考えてる人ですね……」

 

「というか、さっきの睨みなら大抵の人は大人しくなると思うけどね……私もちょっと怖かったし」

 

「スズちゃん、お漏らししてない?」

 

「するか!」

 

「アリア先輩も、最近箍が外れてませんか?」

 

 

 三人のやり取りを聞きながら、私は視線を五十嵐に固定していた。あいつがあそこまで悩むとは、いったい何があったというのだろうか……

 

「戻りました」

 

「それで、何を悩んでいたんだ?」

 

「セルフイ〇〇チオをしてただけ――」

 

「違いますから!」

 

 

 畑の冗談を聞きつけて、五十嵐が凄いスピードで迫ってきた。もちろん、走らない程度の速度だったが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 畑さんの冗談の所為で、私は生徒会メンバーにまで事情を話さなければいけなくなってしまった。

 

「実は今度、姉が一人暮らしをすることになったのですが、その準備を手伝う事になりまして……」

 

「その程度の事なら、頭を抱える必要は無さそうだが?」

 

「その手伝いというのが、買い物なんです」

 

「何を頼まれたの~?」

 

 

 興味津々という感じで尋ねてくる七条さんと、その後ろで似たような目を向けてくる天草さん。この二人は本当に好奇心が旺盛ね……

 

「だ…男性用の下着を……」

 

「いくら一人暮らしをするからと言って、やりすぎは良くないぞ?」

 

「そういう目的じゃなくてっ!」

 

「じゃあどういう目的なの~?」

 

 

 最近は大人しくなってきたとはいえ、この二人は根本的には変わってないようね……

 

「防犯用ですよ!」

 

「「防犯用?」」

 

「女性の一人暮らしだと知られない為に、男性用の下着を干しておくことである程度の防犯が見込める、という事ですよね」

 

「さすが畑、腐ってもジャーナリスト志望なだけはある」

 

「これくらいは当然です」

 

「ちなみに男性の一人暮らしの場合、女性の下着を干しておけばリア充アピールを――」

 

「そんな話聞いたこと無いので、この話はこれで終わりですね」

 

「あ~れ~……」

 

 

 タカトシ君に首根っこを掴まれて運ばれていく畑さんを見送って、私たちは揃ってため息を吐いた。

 

「それじゃあ、我々もその買い物に付き合おうじゃないか! どうせこの後は暇だからな」

 

「えっ、それって私たちもですか?」

 

「当然だ!」

 

 

 何故かなし崩し的に私の買い物に生徒会メンバーが付き合ってくれることになったけど、天草さんは楽しんでるだけじゃないかしら?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カエデさんの買い物に何故か付き合う事になった俺たちは、一度家に帰って私服に着替えてから再集合した。

 

「それで、具体的にどのような下着を?」

 

「安物でいいとの事です」

 

「じゃあこの辺りの物で良いですかね」

 

「お、男の人の下着も、結構種類があるのね……」

 

「久しぶりに五十嵐のムッツリが発動か?」

 

「ムッツリじゃありませんから!」

 

「周りに人もいるので、あんまり騒がないでくれません?」

 

「「ご、ゴメンなさい……」」

 

 

 カエデさんとシノさんを同時に睨みつけて大人しくしてから、俺は目つきを元に戻してカエデさんに尋ねる。

 

「下着だけなら問題ないんですか?」

 

「あ、あんまり触りたくないけど、未使用品だからまだ平気かな」

 

「カエデちゃんだって、タカトシ君の使用済みパンツを触った事あるでしょ?」

 

「そ、そういう言い方はしないでください! あれはあくまでも洗濯物ですから」

 

「というか、さっさと選んで買った方が良いんじゃないですか? 悪い意味で目立ってますし」

 

 

 俺が視線を向けると、こっちを見ていた人たちがそそくさとその場から移動していく。まぁ普段から目立つ面子ではあるが、今は会話内容が聞こえてた所為で余計に目立っているんだろう。

 

「私たちは文房具コーナーに行ってるから、五十嵐は早く会計を済ませてこい」

 

「はい……あっ」

 

「どうかしました?」

 

 

 下着を手に取ってレジに向かおうとしたカエデさんが、何かを思い出して固まってしまった。

 

「……俺が買ってきましょうか?」

 

「だ、大丈夫よ! あっでも、付き添いなら……」

 

「別の誤解を生みそうな気もしますが、カエデさんがそれでいいなら」

 

「良くない! 私が買ってきてやるから、お前たちは文房具コーナーで待ってろ!」

 

 

 カエデさんから下着を強引に取り、そのままシノさんがレジに歩いていく。

 

「どうしたんでしょう?」

 

「きっと嫉妬したんじゃないかな~? タカトシ君とカエデちゃんが恋人に間違われるのを想像して」

 

「こ、恋人……」

 

「五十嵐先輩、顔が真っ赤ですよ?」

 

「カエデちゃんは何を想像したのかな~?」

 

「な、何でもありません!」

 

 

 結局騒がしくなったので、俺は三人から少し離れた場所に移動して、事が収まるのをただただ眺める事にしたのだった。




姉弟には見えないしな……

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